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虹の彼方 206







口を閉ざしてしまった私を見て、
恭弥さんが、ゆっくりと…
私の頭の上にコツンと顎の部分を軽く乗せて来る。



(……っ……)



今まで体験した事のない体制に…
少し驚いてビクリとする私。

恭弥さんは、そんな私に構う事なく
少しだけ今までと違う抱き締め方で、再び背後から抱き締め…
私の頭の上から、低い美声を発する。




「それに君は…あまり自信がなさそうで弱そうに見える事もあるのに、イザとなればやたらと強い。」
「僕の妻という立場は…」
「それ位の逞しさがないと務まらないだろうし…その点でも君は良いね。」




「…あの、それは…」
「私が…思った以上に頑固とか意固地である、という意味ですか?」




「いや、…違うよ。僕が言っているのは…君の芯の強さの事だ。」
「筋を通す強さ。正しいと思う事を通す強さがある、という意味だ。」

「どうでも良い部分では、あっさり自分が引いて負けて見せるのに…」
「ここぞという場面では…押しても引いても、どうやっても梃子でも動かないし曲げない逞しさがある。」

「その余りの強さに…この僕が負けそうに感じる程だ。」
「…まぁでも…実際の場面では、簡単には負けてあげないけれどね…。」




クスリと笑いつつ言われ…
不敵に微笑する恭弥さんの顔が思い浮かんで
…内心で思わず苦笑する。



(…………。)








「何度も同じ事を言うようだけれど…」
「僕は、君のそんな所も全てを含めて…気に入っているんだ。」




「…有難う…ございます。」



変に抵抗して反論するのは…潔く諦める事にした。
この雰囲気では…
下手に反論を述べるのは止めた方が良いと本能で感じる。












私が反論したり疑問をぶつけたりする気持ちを引っ込めて…
素直に恭弥さんの言葉に耳を傾けようと
心の中で思うのと、ほぼ同時に…

恭弥さんが背後から回していた腕を緩めたので
体制を変え、お互いに向かい合って、
…視線を正面から合わせて…じっと見詰め合った。




恭弥さんの手が、ゆっくりと私の頬に優しく触れる…


「…優衣…君はこの数か月で…まるで蕾が花咲くように艶やかに美しく変身した。」
「見た目の姿形だけではなく…様々な物事の経験値的にも、精神的にも。」

「そんな君を傍で見ていて…魅了されずにはいられなかったよ。」


話し終わりに…額に軽くちゅっとキスされる。



(……っ…)



正直、くすぐったい所の話ではない…

聞いているだけで大赤面な事を、真顔で言われ
…言葉が全く出て来ない。





「…………。」




「元々、君を気に入ったからこそ…今回のような計画を立てたんだけれどね…」
「君は、あらゆる点で僕の予想を上回っていた。」




「…恭弥さんも…何もかもが…私の予想以上でした。」
「傍で見ていて、どんどん魅了されて行ったのは…私も同じです。」
「…お陰様で、今ではすっかり恭弥さんの虜です。」




「そう、なら…僕達はお互いにお互いの虜だという事のようだね。」




「そのようですね…。」













「…それなら、何の問題もないだろう?」




「…問題…?」




「本物の婚約者になるという話の事だよ。」




「…あ、…でも。その、結婚となると…私達二人だけの問題ではなくなると思いますし…」
「身寄りのない私は兎も角…恭弥さんは、ご両親様とかご親戚の意見とか………」





「そんな事は全く気にしなくて良いよ。」


私が話している途中から、
まるで言葉を被せるようにして恭弥さんがピシャリと言う。








「…でも…」




「僕は僕の思うように生きる。…僕の選択には、誰にも口出しはさせない。」




「…………。」




恭弥さんの性格上…彼がそう言うのは想定内だけれど…
でも雲雀家程の名家の跡取り息子が、
私のような者を妻にする事を…周囲は認めてくれるのだろうか?

恋人までは認められたとしても…
妻となると、また別の問題があると思うのだけどな。

好きな人と一緒に居たい気持ちは勿論大きいが…
でも周囲から祝福されない関係を、
無理矢理に貫くというのは…色々と辛いだろうと様々な事が頭を巡る。












「先日も話したけれどね…どこの誰が何を言おうとも、全く気にする必要はないよ。」
「僕には…優衣、…君が必要なんだ。」




(……っ……)



恭弥さんの…強い言葉が、
私の心の奥にまで届いて来るような気がする…。





「…そもそも…僕達が結婚する事に、反対しそうな者なんていないよ。」
「僕の両親は…間違いなく君を気に入って大歓迎するだろう。」
「親戚の連中なんて、どうでも良いが…まぁでも、反対する者はいないと思うよ。」




「…………。」



何故、気に入られるという確信があるのか…
どうして反対されないのか理由は不明だが
もしも…それが本当なら、とても有難い事だと思う。












「そんな話をするなら…僕の側より、厄介なのは寧ろ君の側のほうだろう。」




「…?…。…私の側…?」




「義父や、義兄気取りの連中とか、義姉のつもりの者とか…」
「色々と煩い外野が、大勢いるじゃないか。」




ほんの少し溜息をつきつつ…
ウンザリしている様に言う恭弥さんの話を聞いて
ツナやリボーンをはじめとしたボンゴレの皆さんの事だと理解する。




「でも、皆さんと恭弥さんはお互いに良く知る仲なのですし…」
「反対する人など居ないような気がしますが…?」



「…逆だよ。良く知る仲だからこそ…ケチを付けられるんだよ。」




「…?…。…そうなのですか?」











ちょっと頭の上に??を浮かべている時に
…恭弥さんの力強い凛とした声が響いた。




「…だが…、どこの誰が反対しようとも…阻止しようとしても…」
「例え、どんな邪魔を仕掛けて来ようが、」
「…僕が…君を手放す事も結婚を諦める事も、絶対にないよ。」




(……っ……)




毅然と言い切った恭弥さんの言葉に…じぃ〜んと胸が熱くなる。
そのまま二人で…真っ直ぐに見つめ合い視線を絡ませた。




(…………。)



(…………。)











…この様子では…恭弥さんが引くという選択肢はなさそうだ。
というか今までの話を聞いていると…
そもそも私には選択肢はない…ような気もしてくる。

一応、私に尋ねて返事を待つ形を取ってはいるが…
恭弥さんは“もう決まった事”と思っているように感じる。
恋人になる事をOKした瞬間から、
恭弥さんの中では“決定”していた事なのではないだろうか。



(…………。)














悶々とし、何をどう言えば良いのだろうかと考えていると…



「優衣には目立つ派手さはないのに…何故か目を惹いて気になる。」
「一見、清楚で可憐な弱そうな花に見えて…その実、簡単に折れない強さがある。」
「そんな心の清さと強さを合わせ持った君と、一生を共にしたい。」




(……っ……)




「…優衣…僕と結婚して欲しい。」
「この先の人生を共に歩み…妻として僕を支えて欲しいんだ。」




(…………。)




真正面で向かい合った状態で
今までになく真摯な瞳を向けられつつ…
はっきりとした強い口調で、再度丁寧な言葉でプロポーズをされた。

恭弥さんの美しい瞳に、決意や覚悟とも言えるような
強烈な光が宿っているように感じる。


単純に情熱を感じる瞳ではなく…
この先の自分の人生を決する重大な決断の時である事を語るような
強い強い想いの籠った…真剣な瞳…。











その嘘のない美しい瞳をじっと見ていて
…私の中でひとつの覚悟が決まった。

そこで、ゆっくりとした口調で口を開く。




「…先程から…過分な評価の数々を有難うございます。」
「聞いているだけで…照れるお言葉の数々ですが…」
「でも…恭弥さんが真剣にそう思って下さっているのが伝わって来ました。」

「…正直…単なる恋人ではなく結婚するとなると…」
「本当にこれで良いのだろうかと…色々な不安な気持ちが出て来ます。」





「…うん。…解るよ。」





「だから、お返事を少し待って頂きたいと言うつもりでした。」
「ですが…先程からの恭弥さんの言葉を聞いている内に…私の中で1つの想いが固まりました。」




「…………。」




「私には…恭弥さん以外の人と今後の人生を共にするイメージが湧いて来ません。」
「他の人では…全く想像も出来ないのです。」

「つまり…その…私と恭弥さんの出逢いは必然であったと感じるのです。」
「運命の赤い糸…と言われる物に近い何かが…」
「私達を出逢わせてくれたのだろうと…先程、ふと…思いました。」





「それは…僕も全く同じ事を感じている。」





「お互いにそう感じるという事は…きっと本当にそうなのでしょうね。」



少し微笑みつつ言うと…
眼の前の恭弥さんが、静かにゆっくり頷く。








「…この出逢いに感謝して…素直に自分の心に従う事にします。」
「プロポーズを…喜んでお受け致します。」

「まだまだ未熟な部分の多い不束者ですが…、…どうぞ宜しくお願い致します。」



そう言ってその場でゆっくり軽く頭を下げた。

…その後…頭を上げた瞬間に…



(……っ!……)




ぎゅううぅっ!…と…
今までになく強い力で抱き締められて…驚く。


あまりの強さに戸惑って…



「…あ、あの…苦しい、です…」



と、やっとの事で声に出すと…直ぐに少しだけ力が弱まる。

でも、まだまだ…充分に強い抱擁だ。


だが…一応、我慢出来るくらいの強さなので
…もうそれ以上は言わない事にした。




「…………。」



「…………。」






少しの間…お互いに無言だったが…
暫くして、恭弥さんが私を抱き締めたまま口を開いた。




「…優衣…。…有難う。」




それだけ言うと…
ゆっくりと私を離し、二人の間に少しだけ距離が出来る。


その後は…穏やかに優しく唇が重なった。








…辺りは何時の間にか、先ほどまでの夕焼け色から変わり
夜の帳が降りて…
私達の頭上には無数の美しい星々が輝き始めていた。



その後、私達は…

クルーズ船に戻る時刻が近くなるまでずっと、
二人の世界に浸っていた。


















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