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虹の彼方 204





翌朝、かなり早い時間に恭弥さんに起される。
まだ普通は寝ている時間だ。

イラクリオンに着くまではかなり時間もあるのに、何故だろうか?
と思いつつも…

「なるべく早く準備をして。」

と言われたので、訳が分からないまま
…大急ぎで準備をする。




今日は多少ハードな日になりそうなので、
動きやすいパンツスタイルにした。
何時の間にか用意をされていたサンドウィッチと紅茶で、
かなり早めの朝食を食べた後に


恭弥さんに

「…丁度時間になったから、行くよ。」

と言われ、まだ到着時間じゃないよね?
と疑問に思いつつも…取り敢えず着いて行った。







…そして…
デッキの階に移動して外の風景を見て…驚いた!


(……っ!……)


(…ここは…もしかして…)




部屋に居る時には気が付かなかったのだが、
私達の乗っている大きなクルーズ船が
…やや無理やり、小さな港に停泊している。


この風景は…
写真でしか見た事がないけれど…シティアの街…だよね?

と、心の中で思うが驚き過ぎて言葉にならない。



「…………。」









唖然としている私と恭弥さんの元に
クルーズ船の船長が来て…英語で挨拶をしてくれる。


「おはようございます。」
「仰せの時間にシティアに到着する事が出来ました。」
「無理矢理一時的に港を使っている為、」
「ここに停泊出来る時間は短いので、なるべくお早く移動をお願いします。」

と話し掛けて来る。



恭弥さんが船長に答えて…。


「おはよう。もう準備は出来ているから直ぐに船を降りる事が出来る。」
「協力して貰えて助かったよ。…世話になったね。」



「貴方のお役に立てて光栄です。」
「私共は、この後イラクリオン港でお待ちしております。…どうか良い一日をお過ごし下さい。」



と船長が慇懃(いんぎん)に答えるのを聞いて
…だいたい状況が分かった。

恐縮しつつ…
私達二人だけ特別にシティアで船から降ろして貰う。
その後すぐにクルーズ船は、
そもそもの予定停泊港であるイラクリオンに向かって行った。







昨夜、恭弥さんとの話の後に改めて調べたら
イラクリオンからシティアまではバスが一応あるが、
『かなり時間がかかるらしい』
…という事が分り、
一日でシティア、マリア、イラクリオンを周るのは無理だろうと考えていた。

まぁ、それは仕方ない事だし
シティアに行けるだけ有難い事だと思っていたのに…


まさかの…途中下船。




確かに、ロードス島からだとシティアの前を通り過ぎる航路になるので
このような事も可能な位置関係ではあるけれど…

大勢の人と一緒の民間のクルーズツアーなのに
こんな我儘なお願いを個人的に聞き入れてくれた事が
…ちょっと信じられない。



「…………。」



一体、何時の間に…
途中のシティアで降ろしてくれるように依頼したのだろう?
巨大クルーズ船がシティアの港から遠ざかるのを、
涼しい顔で眺めていた恭弥さんが…



「少し時間が早いが、これなら君の希望の所を全部周る事も可能だろう。」


と話し掛けて来たので…


「…ご配慮、有難うございます。」


とだけ、取り敢えず…答えた。






今度から、恭弥さんに何かお願いをする時は
…もう少し慎重に考えてからにしよう。

うん、絶対にそうするべきだ。


そうしないと…思いもしない方法で
私の願いを極力叶えてくれようとしてくれる事がある…
という事が、よ〜く分かった。

恭弥さんの気持ちはとても有難いことではあるけれど
…でも、うん…。
出来れば…あまり人に迷惑を掛けたくないしね。




だけど、良く考えたら…
さっきの船長も『光栄です』と言っていたし
…もしかしたら…
『雲雀恭弥に恩を売る形になるのは、有難い事』
なのかも…しれない。

イザという時には、風紀財団に助けを求める事が出来るかも…
という立場は、
彼らにとって歓迎するものであると言えそうだ。



(…………。)



ちょっとだけ複雑な気持ちはあるものの…
折角、恭弥さんが手配してくれたのだし
有難くこの時間を使わせて貰おう。

そう思いを切り替えて…

「…さて、何処から周ろうか?」

という恭弥さんの問いに答えつつ
どちらからともなく自然に手を繋いで…歩き出した。









恭弥さんが事前に手配をして、
港に待たせていたタクシーで効率的に移動をし
小さなシティアの中で行きたかった所はほぼ全て見て周った後は…

朝が早かった事もあり
お腹が空いたので、まだお昼前の時間だったが
早めの昼食を食べる事にした。





どこまでも透明で美しい海が見える
とてもロケーションの良い港のレストランで
海の幸一杯の美味しい食事が終わった後
…恭弥さんが声を掛けて来た。



「次はマリア遺跡だったね。…そろそろ行こうか。」



「…はい。…ええと、確か向こうにバス乗り場があるので…」


と行こうとすると…


「バスでは時間がかかる。…こっちだよ。」


と言われ、手を繋いで別の場所に向かって…ぐんぐん歩いて行く。
やっぱり…バスは嫌みたいだ。

という事は、マリアまでタクシーで行くつもりなのだろうか?
結構、距離があるんだけどな…。

と心の中で色々考えながら
手を引かれるまま到着したのは…朝、私達がクルーズ船を降りた場所。



(…え…。…まさか…コレでマリアまで行くの?)



と目の前にある船を見て思っていると…
私達の姿を見つけて…
停泊している高速クルーザー船の中から船長らしき人が出て来て
イタリア語で挨拶をする。

船長はギリシャ人だか仕事でイタリアに居た事があるらしく、
流暢なイタリア語だ。

この高速クルーザーは、特別に大きい訳ではなく普通の大きさだが、

『オレの船は、イラクリオンの高速クルーザーの中でもダントツの速さだから任せてくれ!』

となかなか威勢が良い。










簡単に挨拶をした後、
早速…その高速クルーザーに恭弥さんと共に乗り込んだ。

シティアの港を離れ…
スピードを上げて走る船の中で人心地ついた頃に
窓の外の美しい海を見ている恭弥さんに…話し掛ける。



「…高速クルーザーの手配までしていたのですね。」


私の声に反応し…


「シティアからマリアまでの道は悪いし、バスは勿論、タクシーでもかなり時間がかかる。」
「高速クルーザーで行ったほうがずっと早いし快適だろう?」



「…はい、そうですね。」
「あの船長は、イラクリオンから来たようですが…」
「マリア観光の後も、この高速クルーザーで移動するのですか?」



「そうだよ。僕達がシティアの観光をしている間にイラクリオンから来て貰ったんだ。」
「この船は今日一日借り切っているから、」
「マリアの後も、このクルーザーでイラクリオンまで行く。」



「…はい、分りました…。」








「…優衣?…もしかして陸路で他に寄りたい所でもあったのかい?」
「それならそれで、最寄の港に寄らせるから遠慮なく言って。」



「…え?…いえ、それは大丈夫です!」
「そうではなくて…あの…、恭弥さんの手際の良さに少し驚いていただけです。」



「…そう。」



「クレタ島にも来た事があるのですか?」



「…昔、一度だけね。だが、シティアやマリアには行った事は無いよ。」
「…シティアは…何故か懐かしさを感じる街だったね。」



(…っ!…)
「…恭弥さんも、そう思いましたか?」
「私も…何故か全く同じ事を感じていました。」
「ギリシャには、元々…とても惹かれる物があるのですが、シティアは格別でした。」



「…そう…。」
「もしかしたら過去に…二人で一緒にシティアに生まれていたかもしれないな。」



(…それが本当だったら…嬉しいな…)



暫く無言で見つめ合って…その後、優しく唇が重なる。
穏やかで優しく感じる時間を
恭弥さんと共有出来ている事に、とても幸福感を感じていた。
















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あきゅろす。
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