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虹の彼方 203





ツアーの残り3日間は…
全てギリシャ国内を訪問する事になっている。

日本と同じ位に数多くの世界遺産があり
世界的に見ても観光地として人気があるギリシャは
このクルーズツアーの最後を飾るのに相応しい国であるかもしれない。



最初は、ロードス島を一日かけて観光する。
2日目は、ギリシャ最大の島であるクレタ島のイラクリオンがメイン観光地。
3日目は首都アテネの外港であるピレウスで下船し、
観光をした後にアテネ空港から日本に帰国する事になっている。




数多くの遺跡群と美しいエーゲ海とどこまでも続く青い空。
言語はギリシャ語。
民族の殆どがギリシャ人。
国の重要産業として観光が一番にあげられる国だ。

日本人にとっては、ギリシャ神話の国として良く知られているので
…古代文明の印象が強いだろうか。




一年中を通して世界中から観光客が集まり、大変な賑わいを見せる。
新婚旅行先としても人気の場所のひとつだ。

…が…
世界中の人が観光でお金を落としてくれるのに…
日本人的感覚では…あまり仕事をしない人々で溢れていて
更には公務員数が異常に多く…経済的にはとても弱い国のひとつに数えられる。

その国民性や国の施策が近年のギリシャの
経済破綻の原因のひとつと言われているけれど、
一向に改善の兆しがない所が…ギリシャ人らしいとも言える。


日本人から見れば、
イタリア人はあまり熱心に働かない人々に見えてしまうが
もしかしたら…
ギリシャはイタリアの更に上を行っているかも…しれない。(苦笑)

南欧の国々の経済状況が、どうしてこんなに悪いのかは…
実際にその国に行ってみると
納得する事が多いけれど、ギリシャも例外ではない。






そんなギリシャにとっては…
観光はまさに国の命綱なので、観光業に関してだけは、
まぁまぁ熱心に取り組んでいると言っても良く、
観光地の整備や補修工事などは割と一生懸命にやっている。

が、技術力や科学力が弱すぎて対応出来ない事案も多く
また資金面でも大変に苦しいので…
そのような部分に対して
日本はかなりの人的、技術的、資金的な支援を長年に渡りしている。




恭弥さんの話によると…

風紀財団にも何度か極秘で問い合わせが来て
『世界遺産を朽ち果てさせるのは忍びない』との理由で
何かしらの技術支援を行ってあげた事が数度あると聞いて
…大変に驚いた。


風紀財団って…
遺跡修復に関わるような特殊技術まで持っているようだ。

どうして、そんな技術まであるのだろうか?とか…
一体どこまで対応力が広いのだろうか?とか…
色々と疑問が浮かぶ。

3カ月間も恭弥さんと一緒に居ても、
まだ私には…風紀財団の全貌が見える事が無い。











クルーズ・ツアー10日目の爽やかな朝を迎えたが…
今日は良く晴れ渡っており、あまり雲がない程の天気の良さだ。

朝食を食べた後に、ロードス島の港に下船する準備の為に
少し早めに恭弥さんと一緒にデッキ階に移動する。


…そこで…
スーツケースを持った鷹司綾子さんが私達を見つけ
こちらに歩いて来る姿を見つけた。

観光で下船するにしては大きな荷物を持っている。

(…まさか…)

と考えていると…




私達の近くまで来た鷹司さんが…


「わたくし…ここで船を降りる事に致しましたので、ご挨拶をさせて頂きますわね。」
「恭弥さん…藤宮さん…お二人様には、大変お世話になりました。」
「本当に…色々と有難うございました。」


と言って…優美な所作で丁寧に頭を下げる。




やっぱり…
クルーズツアーの途中で船を降りる事にしたようだ。


「…今から、日本に帰国するのですか?」



「…ええ。」
「日本に帰ってしたい事が沢山ありますので…お先に帰らせて頂きますね。」



「そうですか…道中お気を付けてお帰り下さい。」



恭弥さんは、何も言わずにただ鷹司さんを見ているだけ。

彼女は、そんな恭弥さんをチラリと見た後に
私を見つつ美しくにこりと微笑んで…クルリと踵を返し移動して行った。

そして…そのまま直ぐに下船手続をして船を降りてしまった。





(…………。)



折角、友達になれたと思っていたので…少し寂しい気もする。
でも鷹司さんは…
自分の未来に向かって、心新たに歩き出したのだから
…その気持ちを応援してあげよう。

そう思って…
船の上から、その姿が見えなくなるまで見送った。









私達のロードス島への下船準備が整った所で降り立ち
何時ものように自由行動で、二人のペースでゆっくり過ごす。
二人で相談の上、
人がとても多いであろう中世の街並みなどは敢えて避けて
アクロポリスやアテナ・リンディア神殿跡、
そしてリンドスの浜辺を中心に観光して周る事にした。



新婚カップルであろう数組と途中で出逢い…
どのカップルも仲良さそうに手を繋いだり腕を組んでいるのを見て
恭弥さんも私に…さり気無く手を差し出して来た。

それを見て…私もその手をそっと握り返す。

手を繋いで歩いていること事態に照れてしまい
少しだけ態度がぎこちなくなる私に比べて…恭弥さんはいたって普通。

時々どちらからともなくチラリと目を合わせては小さく微笑み
…穏やかな気持ちでゆっくり観光をして周った。




海岸沿いにある遺跡に到着し
遥か彼方の歴史に想いを馳せながら…
海と空の境目が分らない程に透明で美しい海を眺める。

あまりに美しい海と空の風景に
感動しきりで若干浮ついた気持ちの私の手を取って
岩場や遺跡で足をとられないように、
優しく手を引いて導いてくれる恭弥さん。



穏やかで優しく満ち足りた幸福感で一杯の時間。

…夢心地で1日があっという間に過ぎた。










船に戻り…明日の予定を確認する。
翌日は、クレタ島のイラクリオンに船が着く。

イラクリオンは大きな都市で、
有名なクノッソス宮殿をはじめ様々な観光地がある。

当然、イラクリオンも大好きな都市のひとつであり行きたい所ではあるけれど
多くの有名な見所があるクレタ島の中で
…私には、密かに行きたいと思う場所があった。



それは、クレタ島の最東端に位置するシティアという小さな港街。
ほぼ手付かずの自然と、イラクリオンとは少し趣向の違う
小さな規模の年代の古い古代遺跡がある所だ。

なかなか機会がなくて来られなかったが、
折角クレタ島まで来たのだから、出来たら訪れたい。

そして、もし時間が許すなら
イラクリオンとシティアの途中にあるマリア遺跡にも
少しの時間で良いので立ち寄ってみたい。





しかし、そもそもシティアは少々遠いし、
恭弥さんはどう思うだろうか…

面倒に思うかもしれないな…と考えつつ、
夕食を食べる為にレストランに移動する時に申し出てみたら



「…良いよ。明日は君の行きたい所に連れて行ってあげる。」



「…でも、シティアは…」
「移動もかなり時間がかかりますし、観光客も殆ど居ないような小さな港町ですよ?」



「僕は人が少ない方が嬉しいから構わないよ。」








「遠くて移動に時間がかかるので…」
「イラクリオンでの観光が出来なくなる可能性がありますが、それでも良いですか?」


尚も続けてそう聞くと…

私の頭にポンッと軽く手を置きながら…


「…優衣…。僕は、君が喜んでくれる事をしたいんだ。」
「遠慮がちな君が、こうして自分の希望を正直に言ってくれた事が嬉しいよ。」



「そう言って頂けると…お願いをし易くなります。」



恭弥さんの配慮ある言葉に嬉しくなり、ニッコリ笑顔で
…改めてお願いをした。



「では、明日は朝一番にシティアに一緒に行って下さい。」



「…分かった、そうしよう。」



そのまま廊下で立ち止まり、額にちゅっと軽くキスをされ
…その後は、優しく唇を塞がれた。




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