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虹の彼方 202






ゆっくりと半分程ポートワインを呑んで…
だいぶ心も落ち着いて来た。

一番言いたかった事をハッキリ言う決意が出来た所で
内心で、必死に自分を励ましつつ口を開く…




「…あの…恭弥さん…」



「…ん…?」



「さっきの…恭弥さんの質問にお答えします。」



「…君のドレスの意味の事かい?」



「…はい…。私が、今日この服装を選んだ意図…」
「その中に込めた私の想いの…説明をしたいと思います。」



「…聞こうか。」









恭弥さんが真剣な眼差しを私に向けて来る。

私も…しっかりと隣の恭弥さんの方に向き直り、
淡い月の光に照らされて
美しい光を宿す灰蒼色の瞳をじっと見つめつつ
…ゆっくりとした口調で話を始めた。





「…私が…この高貴さ漂う紫色のドレスを纏った中に込めた想いは…」
「恭弥さんが好ましいと思われる方の解釈と同じです。」




「…………。」




「即ち…私の心は恭弥さん色に染まっている…という事を表現しました。」
「何をしていても…何時でも…どうやっても…」
「常に、恭弥さんの事ばかりが心を占める程に……私は、何時も貴方の事を想っています。」




「…………。」





「今回、このクルーズツアーの間に色々な事があったお陰で…」
「その事を、より一層確認する事が出来ました。」


「私は出来れば、ずっと恭弥さんと一緒に居たいと思っています。」
「これからも…もっと色々な恭弥さんを発見して行きたい。」
「それから、今後も努力を重ねて…少しでもお役に立てるようになりたいです。」


「そして、周囲の人達にも…」
「私が恭弥さんの隣に居る事を認めて貰えるような人になれるように…頑張ります。」


「…だから…。」
「どうか今後も…演技ではない本物の恋人として…貴方の傍にいさせて下さい。」

「これが今日のドレスに込めた想いと、…オーストリアでのお話への…お返事です。」






「…………。」











ピアノの生演奏が静かに流れる中で…

二人共無言で…
ただただ熱い視線を交わしつつ見詰め合う。





…やっと…やっと…本当の気持ちを言う事が出来た。


ホッとした気持ちでいると…
私の言葉を噛み締めるように聞いてくれていた恭弥さんが


…微笑しつつ…


「本当に聞きたかった言葉を“正式に”聞く事が出来て嬉しいよ。」



(…?…)
「…正式に?」



「君が、大雨の中で叫ぶように話した告白を偶々聞いたけれど…」
「あれは“正式な返事”ではなかったからね。」



(…っ!…)



そうだった…また忘れていた!
思い出した途端に、妙に恥ずかしくなる。

今のように覚悟して言ったのとは違って、
予定外に聞かれるというのは…かなり恥ずかしい。

しかも…
あんな大声で叫ぶように話している所を聞かれていたのだと
想像するだけで…充分に赤面出来る。







俯いてしまった私に…低く優しい声が聞こえて来る。



「…優衣…。…顔を上げて。」



(…………。)



少しためらったけれど、恥ずかしさを抑えて
…ゆっくりと少しだけ顔を上げる。




…すると…


顎を優しくそっと持ち上げられ、
上を向かされて唇が優しく優しく触れ合った。



先程の写真の為の不意打ちのキスとは全く違って

…甘くとろけるように感じる…とても優しい触れ合い。









唇が少し離れて、ごく至近距離で目を合わせる。

ラウンジに差し込んでいる月光の明るさで
…お互いの顔に濃い影が落ちている。


月の光に照らされた恭弥さんの灰蒼色の瞳が
少しだけ揺らいでいるように見えた。

色彩的には涼しげな色の筈なのに
…今は、情熱を帯びた色に見えるから不思議だ。



(…………。)


(…………。)



その後…その場でぎゅっと少し強く抱き締められた。

ほんの少しだけ苦しいけれど…その強さが…
恭弥さんの想いの強さを語ってくれているようで…嬉しく感じる。












その後、暫くそうしていたが、
…ふと…ここがラウンジバーである事を思い出した。

小さ目の声で遠慮がちに声を出す。


「…あの…恭弥さん…」
「いくらこの席は人目に付き難いと言っても…そろそろ…」


私の声を聴いた恭弥さんは、
やや仕方なさそうに腕の力を緩め…私を離してくれた。

離れて周囲を見たけれど…ラウンジ内は薄暗いし…
誰にも見られていたような感じはなかったが、やはり恥ずかしい。




恭弥さんはゆっくり立ち上がり、私に手を差し出して…


「…行こうか。」


その手を取り、私も立ち上がって…
二人で手を繋いだ状態でラウンジバーを後にした。













少し照れるが…エスコートされた状態ではなく
敢えて、ずっと手を繋いだまま船内を移動して部屋まで戻る。

部屋の電気はつけずに…
無言のままの恭弥さんに導かれるまま窓側に近い位置まで歩み寄る。
仄かに月光が照らすリビングの窓からは、
同じく優しい月光に照らされている穏やかな海が見えた。



その場所まで来た所で…

立ったまま…また直ぐに優しく唇が重ねられた。



ほんの少し恥ずかしさはあるけれど…
それより何より、心の底からの愛おしさを感じる。

恭弥さんの事が…愛おしくて愛おしくて…仕方ない。







カーテンが少し開いている所から…
先程のラウンジと同じように、外から明るい月光が射しこんで来ていて
なんとも風情があり…良いムードになっている。


その涼やかな月の光に照らされたやや薄暗い室内で…
何度目かの甘く優しい接吻の後
…恭弥さんが、静かに穏やかに口を開く。






そして…
とても優しく感じる口調で語り掛けてくれる。



「優衣、君は…先程…」
「僕の隣にいる事を、認めて貰えるような人になる為に…努力をすると、言っていたね。」



「…はい。」



「とても君らしい言葉だと思うが…でも、そんなの必要ないよ。」



「…え?…必要ない?」



「そう。…正確に言うと…関係ない、かな。」



「…関係ない、とは…?」



「君が、大雨の中で…」
「僕に何があっても、どんな僕でも…好きな事に変わりはないと言ってくれたように、」
「…僕も…どんな君でも好きだからだよ。」



「…その部分も…聞いていたのですね。」



「君の…僕への想いはみんな聞いていた。」



「……!……。」


それを聞いて恥ずかしくなり言葉が出ない。










そんな私を僅かに笑いつつ見て…


「あんな風に言ってくれて…嬉しかったよ。」


私の頭にポンと恭弥さんの大きな暖かい手が乗る。


「……っ……。」









「だから僕からも…ハッキリ言っておこう。」
「例え…世界中の人間が、君は僕に相応しくないと言おうとも関係ない。」
「他の連中の評価など、どうでも良い。」

「…僕には、君が必要なんだ。」





「…恭弥、さん…」





「この僕が…誰かと一緒に居たいと思うなんて初めての事だ。」
「僕に、こんな感情を抱かせるのは君だけなんだよ。」





「…………。」





「他の者ではダメだ。君の代わりなど居ないんだ。」
「君だけが、明らかに僕にとって特別なんだ。」

「だから誰が何と言おうとも、…僕は決して君を手放さないよ。」



そう言いつつ、強くぎゅっと抱き締められる。









お互いに立っている事もあり、先程の抱擁よりも強くて、
身体全体を閉じ込められているようだ。

私も一生懸命に腕を伸ばし…
恭弥さんの温かい背中にゆっくり手を回す。

広い背中の途中までしか届かないけれど
…こうしていると…心の底からの安心感を感じる。










恭弥さんの言葉に感激をして
幸せな気持ちでいっぱいになっている所へ…

私の耳元で、甘く囁く艶っぽい声が
…静かに響いた。




「…優衣…愛しているよ。」




しっかり抱き締められている腕の中で、
そっと上を向くと…恭弥さんが私に視線を合わせて来る。

その灰蒼色の美しい瞳をじっと見ながら…




「私も…恭弥さんの事を…心から愛しています。」




二人で微笑みつつ見つめ合っていたが

…やがて再び…吸い寄せられるように影が重なった。








そして…その日の夜は…


今までの人生で一番甘い時を過ごした。









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あきゅろす。
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