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虹の彼方 201





恭弥さんが話しをしつつ、スマホの操作をしている所を見て
…思わず手を伸ばし阻止しようとするが
スルリと華麗に躱されて、
尚も何か操作をしている恭弥さんを見て焦る。




「…もしかして…さっきの写真を…誰かに送ろうとしていますか?」



スマホの操作を止めないまま恭弥さんが答える。


「…だったら?」



(…ッ!…)

あんな写真を誰かに見られるなんて、恥ずかし過ぎるっ!!


「あの、…お願いですから…止めて下さい。」


恭弥さんの手からスマホを取り上げて
操作をやめさせるのは無理そうだと感じて…
…半分泣きそうな気持ちになりつつ、懇願するように言った。





すると恭弥さんは…ゆっくり手を止めて…


「…冗談だよ。」

と軽く溜息を吐きつつ言う。




「……冗談?」



「メールを送ろうなんてしていない。」
「単に、写真がちゃんと保存されているか確認をしていただけだ。」



「…そう、でしたか…」








「さっきのダンスの時の君は、随分と余裕のある態度だったからね…」
「違うアプローチで攻めたら…どんな反応をするのか、見たかっただけだよ。」

少しニヤリとしつつ言われる。




「……意地悪ですね。」



「君程ではないよ。」



「…私が何時…恭弥さんに意地悪をしたと言うのですか…。」



「さっきから、ずっとしているじゃないか。」



「…?…。…さっきから、ずっと…?」








恭弥さんは再び軽く溜息を吐いた後に
私のカクテルにチラリとその視線を向けつつ…


「ポートワインを断ったのに…スクリュードライバー選んだのは故意ではないのかい?」



(……?……)


このカクテルがどうしたと言うのだろう?

意味が解らなくて頭の上に??を浮かべる私を見て…


「…知らずにやっているのか。」


やれやれ…と言った感じで言われるが、
…正直…恭弥さんの言いたい事が分らない。








「君が故意でやっている訳ではないのは分かったけれどね…」
「僕にとっては…意地悪をされているのと同じ意味だったんだよ。」



「…ええと…もしかして…」
「それは、…シェリー酒を女性が頼むのと同じような…何か意味があった、という事ですか?」



「…ふぅん…。」
「こんな場面で女性がシェリー酒を注文する意味は知っているようだね。」



「はい。…以前、映画で見た事があって。」



「…そう。」






「…あの、それで…ポートワインとスクリュードライバーの意味を教えて頂けませんか?」



「ポートワインの件もシェリー酒並に有名だと思うけれどね。」
「本当に知らないのか疑わしくなるが…」
「嘘は吐いてないみたいだし仕方ないから教えてあげよう。」
「…だが…本来は男に“解説”させるような物ではない事は…断っておくよ。」



「…そうですよね…変な事をさせてしまって…すみません。」












私の顔を見て、如何にも仕方ないな…という顔をした後に
…ゆっくり口を開く恭弥さん。



「ポートワインを呑むように勧めるのは…」
「相手の事が好きだと告白をしているのと…同じ意味を持つ。」



(…っ!…)



「相手が受け入れて呑んでくれれば…気持ちを受け入れてくれた事になる。」



…と、いう事は…。
私は、先ほど恭弥さんの気持ちを拒絶した…事になっているらしい。

なるほど…
それで断った時に、少し恭弥さんの表情に陰りがあったんだ。







「で、君が頼んだスクリュードライバーは、幾つかの意味があるが…」
「今の場合では“貴方に心を奪われてしまった”という意味になる。」



(…っ!…)



「つまり、僕の申し出を断っておきながら…」
「“実は貴方に心を奪われたんです”…と告白している事になっているんだよ。」
「君の選んだ、そのドレスの意味のように…どちらが本心なのか煙に巻いて…僕を翻弄して遊んでいる状態だ。」



「…そんな…、そんなつもりはなかったんです。」
「…本当に知らなかったので。」








私の方をチラリと見つつ、
恭弥さんが…更に説明をしてくれる。


「因みに僕が、君のカクテル選択に対抗して頼んだジンライムは…」
「これも幾つかの意味があるが…今回のケースの意味は…」
「“それでも僕の恋心は色褪せない・この気持ちに変化はない”…という心情を表わした物だ。」



(…っ…)



「…はぁ…。」
「まさか、カクテルの意味の解説をさせられるなんてね…」



若干、憮然としているような…
如何にも興ざめしたような表情の恭弥さんを見て、
…申し訳なさが込み上げてくる。



「私が無知なばかりに…すみませんでした。教えて下さって…有難うございました。」




カクテルに含まれた意味を知らなかった為に…
恭弥さんに恥をかかせるような恰好になってしまった。

聞いている私も恥ずかしいが…
こんな事を解説させられるのは…
何時でもスマートな恭弥さんには苦痛でしかないだろう。




しかも…今日の“今”というタイミングの悪さ…。


“無粋極まりない”…とは、正にこのことだよね…。







大体、普段は全く飲まないポートワインを
恭弥さんが勧めて来た所で、何か意図がある事に気が付くべきだった。

その後も、好きな日本酒ではなく…
わざわざカクテルを頼んだのだから、普通なら疑問に思うだろう。

こっそりスマホで調べるとか…
もう少し気を効かせるべきだったと思ったが…後の祭りだった。





これで、さっきのダンスまで頑張って恰好つけていたのも
…台無しになってしまったな。

やっぱり…私には…
スマートで恰好をつけたやり取りは似合わないとも感じる。
というか、正直…ちょっと無理がある。


どんな場面でも格好良くピシリッと決める為には…
知識・教養・空気を読む力・会話術・勘の良さなどなど
色々な能力や技能が必要だ。

今の私のレベルでは…その境地までは…まだまだだ。









「…………。」



「…………。」



その後、何だか気不味くて…二人共無言になってしまった。

多少の居心地の悪さを感じつつ…
ピアノの生演奏が静かに流れて来るのを聞きつつ…ゆっくり呑む。



隣の恭弥さんは…
何時もなら呑むペースはもっと早いと思うのだが
本当は、あまり好きではないカクテルを頼んだからなのか、
又はあまり呑む気にならないからなのか
何時もより…呑むペースがかなりゆっくりだ。

お陰で、私が飲み終わるのと…
恭弥さんが飲み終わるタイミングが殆ど同じになった。



恭弥さんがメニュー表を差し出して

「…君も、何か呑むかい?」

と聞いてくれる。




…そこで…
先程から考えていた事を…勇気を振り絞って言ってみる。



「…あの…今更ですが…」
「…その良ければ、一緒にポートワインを呑みませんか?」



(…っ…)



恭弥さんの動きが一瞬止まり…そして…


「…そこは…上手く誘導して、僕にもう一度言わせて欲しかったな…。」


と少し苦笑する。





それを聞いて、慌てて…

「あっ、そ、そうですよね…あの…さっきから重ね重ねすみませんっ。」
「こんな事に慣れてないので…本当に気が利かなくて…」

と言うと…





とても柔らかく面白そうにクスリと笑いながら…

「…いや…、そんな所も君らしくて…嫌いじゃないけれどね。」


と…どこか妖艶さを感じる瞳を向けつつ言われ…
一気に身体の体温が上昇する。




あぁ!こんなに身体が熱いのは…
さっき呑んだカクテルが強かったせいだ!

うん、間違いない。
アルコール度数が高過ぎだったのだと思う。




…と…
心の中で、良く解らない言い訳をしつつ…
恥ずかしくて俯いている私に…


「…ねぇ、優衣…。一緒にポートワインを呑まないかい?」


と穏やかだか、やや甘く響く声が聞こえ…
顔を上げると…あの美しい瞳と目が合った。



(……っ…)



「…はい…。…呑み、ます…。」




ボソリとそれだけを答えたが…
頭の中では…
初めて真正面からしっかりと恭弥さんの瞳を見た時の事を
ボンヤリと思い出していた。

あの時と変わらずに美しい瞳が…今、私の眼の前にある。



私を見て、フッと少し微笑んだ恭弥さんが、
ポートワインを2人分注文するのを
どこか遠くの出来事のように眺めていた。




(…………。)




暫くして…
二人分のポートワインが運ばれて来たので、軽く乾杯をして呑む。
…やっぱり…普通のワインよりは甘い。

呑み易いが、でもアルコール度数はそこそこあるので、侮れない。



確かにこれなら…

甘い恋の告白をする場面には

相応しいお酒…なのかもしれない。
















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あきゅろす。
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