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虹の彼方 200




恭弥さんは、何時も通りに…
多くの女性達からの眼差しを華麗にスルーし、
一度で良いので踊って欲しいというダンスの申込みに対しては
キッパリと断り…

更に、私に声を掛けてくる男性達に対して
鋭い眼光で牽制をする。



何曲分か踊ったが…
私達に対する周囲からの視線は増える一方なので…
恭弥さんは少し鬱陶しくなって来たようだ。



「このドレスを着ている君と、もう少し踊りたかったけれど…」
「ここは煩くなってきたし移動しようか。」


と声を掛けて来たので、
ダンスホールを出て他の場所に移動する事にした。







…そして…
何か所かあるラウンジの中で、
一番落ち着いた雰囲気のラウンジバーに行ってみる事にした。

ダンスホールのあった階から移動をして…デッキの階にある
しっとりとしたピアノの生演奏が流れる
大人な雰囲気のラウンジバーを訪れた。



運が良い事に、半個室のようで
ちゃんとピアノ演奏も聞けるようになっている
一番奥のボックス席が空いていたので、そこに案内をされる。

完全に壁がある訳ではなく、
観葉植物などで緩く仕切られた空間だが
プライベート感があって、とても落ち着く席だ。


窓側でもあるため、
暗い照明の店内に高く上った月の光が入り込んでいて
…なんとも良いムードを醸し出していた。









座席は、とてもゆったりしたソファー。
少し背の高い観葉植物越しに…ピアノの演奏が流れて来る。

店内の中央付近にあるピアノに向かって、
二人で横に並んで座った。




隣同士で腕が少し当りながら…メニューを見てみる。

恭弥さんに…

「…ポートワインでも飲んでみるかい?」

と言われたのだが…



ポートワインは少し甘口でもあり、
製造途中でブランデーを加えているので
通常のワインとは違い独特の風味がある。

私も恭弥さんも辛口が好きだと知っているのに、
珍しい物を勧められたなと思ったけれど
正直、今はポートワインを呑みたい気分ではなかったので断った。


そして…
多くの写真の中からとても綺麗なオレンジ色が眼に入り、
スクリュ−ドライバ−を注文した。

そんな私を見て、恭弥さんは…
珍しい事に日本酒ではなくカクテルの中から
…ジンライムを選んだ。




やがて…並んで座る私達の前に、
それぞれが頼んだ色鮮やかなカクテルが運ばれて来る。
グラスをちょっと掲げて乾杯の動作をし、少し口をつけてみる。

ん…思ったより飲みやすいかもしれない。









その後、隣で私と同じく
カクテルに少し口をつけた恭弥さんを見る。
恭弥さんがカクテルを飲む所など、初めて見た。

…正直、とても珍しい光景だと思う。


何をしても様になる人だと知ってはいても…
スマートにカクテルを口に運ぶ様は
映画のワンシーンのようで…大真面目に恰好良い。

ついつい…写真を撮りたくなる…。

スマホは持っているけれど…撮らせてはくれない、よね。



…と、そんな事を考えていると…。



恭弥さんがチラリと私を見て

「…優衣…。君が何を考えているか…当ててあげようか?」



と少しニヤリとしつつ言われドッキリする…。

…やっぱり…バレたみたい…




「…いえ…たぶん、その通りなので…言わなくても結構です。」



「…撮りたいなら撮っても良いよ。」



「…え?」



「今回の仕事中は、特別に写真を撮る事を許可すると…前に言っただろう?」



「…でも、本当に良いのですか?」



「もうあと3日程で、今回の仕事期間も終わるからね。…撮るなら、今の内だよ。」



(…っ…)









そうだった…
明日からの3日間でこのクルーズツアーも終わる。
私が恭弥さんと一緒にいるのも…後、3日しかないという事だ。



「…………。」


少し迷ったが…後で後悔はしたいないので、
やっぱり写真を撮らせて貰う事にした。

スマホのカメラではあるが、
本格的なカメラ並みに性能が良い物が内臓されているので
夜の薄暗いシーンの設定で数枚の写真を撮らせて貰ったが
明るくなり過ぎず、暗くなり過ぎず
…適度な露出でとても素敵な写真を撮る事が出来た。







撮った写真を確認して喜んでいると…

「スマホを貸して。…君も撮ってあげよう。」

と言って恭弥さんがスッと私の手からスマホを取り上げ
…私の方に向ける。




「い、いえ!…私は結構です。」



「ほら優衣、…笑って。」



慌てる私に構う事なく、
恭弥さんが私にカメラを向けて数枚の写真を撮る。


その後に撮れた写真を確認して…

「うん。良く撮れているね。」

と満足げだ。








どれどれ…と少し恥ずかしいが
自分の写真を覗き込んでいる所へ…
注文をしていたお酒のおつまみが運ばれて来た。

と、そのウェイターが英語で…

「私が写真を撮りましょうか?」

と声を掛けてくれた。




きっと、旅行の思い出に写真を撮るお客さんが多いから…
こんな場面に慣れているのだろう。
有難いお申し出だけど、恭弥さんは嫌がるだろうし…と、断ろうとしたら


「…4,5枚適当に撮って貰えるかい?」

と恭弥さんがスマホを彼に渡す。
そして、簡単に操作方法を教えている。


(…えっ?)
(恭弥さんが自ら撮影を頼んだ…?珍しいな…。)


と内心で驚いている間に説明を終わり…
素早く私の肩を抱いてカメラの方を向く恭弥さん。


(…え、ちょっと…肩を抱かれたポーズで?)


と思いつつもカメラを向けられているので
…意識してにっこり笑顔を作る。







数枚程撮影した後に…

「ほら、今度はカクテルを持って。」

と隣の恭弥さんに言われるまま
二人でカクテルを手に持っている所も撮影して貰う。


その後、恭弥さんの手が私の肩から離れたし…

(…もう終わりだよね…)
と思っていたら、恭弥さんが…


「もう数枚、ピント合わせに気を付けて…しっかり撮ってくれるかい?」

と彼に声を掛けたのを聞いて…

(え?まだ撮るの?)

と考えていると…




恭弥さんは、私の頭の後ろにスッと手を運び

…その次の瞬間…



…ちゅっ…

(……っ!!……)




…なんと!!…


こんな場所で!
恭弥さんが軽くキスをして来たっ!!


後頭部をしっかり押さえられていたので
…逃げる事も出来なかった。

観葉植物で隠されて、
他のお客さんからは見えないとは言え、ラウンジの中で!




し・か・も!

…それを写真に撮らせるなんて!!

有り得ない!!




…と心の中では大騒ぎをしていたが、
実際は驚き過ぎて、すっかり動きが固まった私の耳に、
数回スマホのシャッター音が聞こえ…

私から離れた恭弥さんが、
英語でお礼を言いつつ多額のチップを渡している姿を茫然と見る。



その後、何やらゴソゴソ私の携帯を弄り…
今撮って貰った写真を
自分のスマホに転送する様子までを
…ずっと、ボンヤリとしながら見ていた。









転送が終わり、スッと私にスマホを返してくれながら…


「なかなか良い写真が撮れたね。」


とご満悦な様子の恭弥さんの言葉で…漸くハッと現実に戻る。



「…あ、あのっ…。さっきの最後の写真は…削除して下さいっ。」



「嫌だ。」

涼しい顔で即答する恭弥さん。







「や、あの…だって、あんな写真、もしも誰かに見られたら…大変ですし。」



「見せる為に撮ったんだよ。」



(…っ!…)
「み、見せるって…あの、まさか…」


嫌な予感しかしなくて…蒼褪める。







「君の想像通りだよ。…彼らが、どんな反応をするか楽しみだな。」



(……っ!!……)



















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