[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 199





恭弥さんが予約を入れてくれていたのは
高級店ばかりの、このクルーズ船の中でも
1,2を争う最高級フレンチレストランだった。

窓側に一番近い席をリザーブしてくれていたのだが
外は、先程までの大雨が嘘のように
…何時の間にか晴れている。
海も、とても穏やかだ。

船が移動したのもあるだろうけれど、きっと天候も変わったのだろう。




私達の席からは…
十三夜くらいに見える美しい月と…
その月が海に、縦に光の帯を作るように映り込んでいるのが、
とてもハッキリと見える。

まるで…映画か情緒的な番組のワンシーンのようだ。



この船に乗った頃に三日月より少し大き目に見えた月が…
何時の間にか、
もうすぐ満月を迎えるまでに大きくなっている。
そう言えば、このクルーズ船にのって今日で9日目の夜だ。

ここまで、あっという間だったような気がするが
…確実に日が過ぎていたようだ。









二人で何気ない会話をしつつ、ゆっくりと食事をする。
今夜は…このクルーズ船に乗って以来、
本当の意味で一番ゆったりと落ち着いた気持ちであるかもしれない。


ここ最近の、私の心はころころ変わる天気のようで
…時には大嵐にもなった。

思えば、この3ヶ月間は…本当に色々な事があった。
まだ3ヶ月しか経っていないなんて…本当だろうかと疑いたくなる。

私の感覚では…1、2年、いやもっと…ゆうに4、5年分か、
あるいはもっと長い年月の経験と同じ位の、
とんでもなく濃い日々だったと思う。




それに…この3ヶ月に
“人生で初めての経験”を何度しただろうか…?
仕事上での経験からプライベートな経験まで
…実に様々な経験値を積ませて貰った。

ここまで、幅広く深く…
様々な経験値を積ませてくれた恭弥さんには
…心から感謝をしている。








先日のオーストリアで恭弥さんは…
今回のこの仕事は、
“私と親しくなる為の舞台として準備をした”事を教えてくれた。

その時に…
全ては、自分の欲求を満たす為であったかのような
言い方もしていたけれど
…それは…本当は少し違うのだろう。

今、振り返って考えると
“今後の私の為になる設定がメイン“
になっていた気がする。

私の為であると全面に出して言わない所が、
きっと恭弥さん流の照れ隠しや優しさなのだろう。




恭弥さんという人は…
相手に気を遣わせない程度に…
そして嘘にならない程度に…
“真実の表現を少し変えて伝える事もある”
のだという事が
先程の鷹司さんへの手紙を見た事でハッキリした。




そこから推測して考えると…
今回の仕事の件も同様に“少し表現を変えて話した”
のだろうと思う。

…もしも…
私が恭弥さんの事を受け入れる事が出来なかったとしても…
今回の経験が、私の為になるように…
今後の私の人生の“はなむけ”になるように…
と、“私中心”で考えて動いてくれたというのが、
真っ正直な真実であると思う。


この3カ月だけでなく
準備の期間も含めて諸々全てが…
恭弥さんから私への“壮大なプレゼント”であったように感じた。



(…………。)











時間をかけて、ゆっくりと食事を味わい…
月を眺めては穏やかに会話をする。

今夜は、恭弥さんも…
いつもより更に落ち着いているように見える。

彼は何時でもクールで落ち着いているのが基本だけれど、
それでも日によって違いがある。
いや、何時もよりかなり穏やかな雰囲気というべきだろうか。



時間をかけた食事が終わると、
恭弥さんはダンスホールに誘ってくれた。

良い月夜になった事も関係しているのか…
今夜のダンスホールは、そこそこの人がいる。

でも混雑している感じではなく、適度に人がいる感じで丁度良いくらいだ。










こうして…
恭弥さんとダンスをする時にも、もうあまり緊張しなくなった。
ダンスを踊ると…
周囲の女性達の羨望と嫉妬の眼差しを
大量に受ける事になるのにも…慣れて来た。

3カ月経って、漸く…
本当に心から堂々とダンス出来るようになったという事だ。





とてもゆっくりとしたワルツ曲に合わせ
相変わらずの優雅なリードをしてくれつつ…
恭弥さんが静かに声を掛けてくる。



「…優衣…。」
「僕への返事は急かさずに、君が話したくなるまで待つという約束だったが…」
「君の、その姿を見たら…少し尋ねたくなったのだが良いかい?」



「…はい。…何を聞きたいのですか?」



「君が…そのドレスを選んだ意図を…聞きたい。」



「…私が説明しなくても、お気付きなのではないですか?」



「うん。最初は…そう思ったよ。」
「だが食事の途中で…もうひとつの解釈も出来る事に気が付いた。」
「どちらが正解なのか…君の答えを聞きたい。」



「恭弥さんが、どんな解釈をしたのかお聞かせ下さい。」










「ひとつは、僕にはあまり好ましくない内容だ。」

「紫は高貴な色として知られている。」
「昔から身分の高い、一部の者だけが着用を許された色だ。」
「彼らは往々にして…周囲に慣れ合う者の居ない…その場のトップ地位の者達だった。」
「つまり“ある種の孤高の存在”である事をも示していた。」

「そこから導き出される解釈は…まぁ、今までの僕ではないけれどね…」
「自分は孤高の存在として生きていく決意をしたから…これ以上構わないでくれ。」
「…という事を表現していると受け取れる。」




「…………。」




「そしてもう一つの解釈では…“僕の色”である紫を君が纏っているのは…」
「自分は既に紫色に染まっているのだという事を表現している…と受け取れる。」

「つまり…君の心が、僕で染まっていて、僕の事で一杯になっているという事を…」
「そのドレスで表わしたという解釈が出来る。」




「…………。」












「…どちらが君の心なのか…教えて欲しい。」



「恭弥さんともあろう御方が…どちらが正解であるか分らないのですか?」



「…君も…なかなか言うようになったね。」
「勿論、心情的にも予測でも後者だけれどね…」
「最近の君は時々…僕の予想を超える行動を取る事があるからね。」



「この数か月で…色々と鍛えられましたから。」



「君の変化には、目を見張る物があるよ。」



「…恭弥さんのお陰です。」



「ここまで逞しくなるとは…思わなかったけれどね。」









「私が、実は…逞しく頑固な精神の持ち主である事は、…最初から気が付いていたのではないですか?」



「…ふぅん…。そんな事が言えるなんて…本当に君は“成長”したようだね。」



「…有難うございます。」



「で、結局…答えは教えてくれないのかい?」



「…気が向いたら…お答え致します。」



「…そう。まぁ、それならそれで…君が言いたくなるように…してあげるまでだ。」



「…………。」






不敵な笑顔を見せつつ
じっーと…挑発的で妖しい輝きを宿した瞳で
真っ直ぐに見て来る恭弥さんに負けないように…
私も一生懸命に、視線を返した。



でも、実は…内心ではとてもドキドキしている。



あまりに“何時もの私”過ぎるのもどうかと思って…
ちょっと頑張ってみたけれど…恰好を付け過ぎただろうか?


















[*前へ][次へ#]

32/43ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!