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虹の彼方 195





私の方を、真っ直ぐに見たままの鷹司さんが
…再びゆっくりと口を開く。


「くどいようですが、もう少しお聞きしても宜しいかしら?」



「…?…。…はい。」



「…藤宮さんは…恭弥さんの表面的な物や条件面が気に入って、好きになったのではなくて…」
「恭弥さんが、実はとても努力家である所などの…」
「内面的な物に惹かれて、好きになったという事でしたわよね。」



「…はい、そうです。実際は、もう少し複雑な感情ですが。」



「どうやって、恭弥さんの隠された内面を発見なさいましたの?」



「身近に居て、恭弥さんの“様々な顔”を見つける努力をしていただけです。」
「そして…知れば知る程好きになりました。」



「そこでも…努力なのですね。」



「相手の良い所を、積極的に探そうと思うだけで良いので簡単な事ですよ。」



「相手の良い所を…探そうと思えば良いだけ?…そう、ですか…。」



鷹司さんが、少し俯いて何かを考えるような素振りを少しだけする。
何か、心に引っ掛かるフレーズがあったのだろうか?










その後に、再びふっと顔を上げて…


「恭弥さんの事を…どれくらい、好きだと言えますか?」



「どれくらい…と聞かれても、その…上手く表現出来ませんが…」
「私は、心から恭弥さんの事を尊敬していますし、好きです。」



「例え、恭弥さんに…何があっても…?」



「はい、何があっても…私が恭弥さんを好きな気持ちに変化はありません。」



「…本当かしら?」
「例えば…恭弥さんの全財産が無くなったり、怪我をして動けない身体になっても?」
「治る見込みのない、難病に侵されて寝たきりになっても?」



「はい。それらは…恭弥さんを嫌いになる理由にはなり得ません。」



そこまで話したところで…

雨が更に酷くなり土砂降りの雨になった。










鷹司さんが一度言葉を切って、ちょっとだけ空を見上げた後
再び私をマジマジと見て
…雨音に負けないような大きめの声を掛けて来る。



「恭弥さんを…“あの雲雀恭弥”を愛していると、心から言い切れますか?」



私も、ザッ―ザッーと降り続く雨音に負けないように
…まるで小さく叫ぶように答える。



「…はい。私は…恭弥さんの事が大好きです。」
「どんな恭弥さんでも好きです。」

「彼の事を…心から、愛していますっ。」





「そうですか…。その言葉を聞けて…良かったですわ。」



大雨に負けない音量の返事を聞いた鷹司さんが、
私を見てにっこりとした後に…

私の背後に視線を向けて…少し微笑む。



(…?…)



(……っ!!……)



不思議に思って、その視線を辿ると
…なんと、そこには恭弥さんの姿があった!

デッキとの出入り口にあるドアを開けて
…少しだけ驚いたような顔をして立っていた。




一体、何時の間に来たのだろうか?

雨音も激しいし、ドアが開いた音も聞き取れなかったので、
全く気が付かなかった。

幾ら雨音が大きいと言っても
…あんな大声で叫ぶように話したのだから
間違いなく、今の言葉を聞かれてしまっただろう。




…そう思うと、一気に恥ずかしさが込み上げて来て…
自分でも自覚する程に顔が火照ってしまう。


きっと、今の私の顔は真っ赤になっていると思う。



(…………。)


(…………。)


(…………。)









ホンの少しの時間だけ、3人揃って無言で立っていたが…
すぐに恭弥さんの落ち着いた低い声が聞こえて来た。



「…君達、こんな所で何をしてるの。」




(…………。)



恥ずかしさもあり、口を利けない私は黙ったまま。


そんな私を、鷹司さんがチラリと見た後に…


「藤宮さんは…わたくしが雨に濡れているのを心配して…中に入るように声を掛けて下さったのです。」
「そのついでに…少しだけ、お話をしただけですの。」
「身体が冷えて参りましたし…わたくしは先にお部屋に戻らせて頂きますわね。」



そう言うと同時に、スッと私の横を通り
恭弥さんの立っているすぐ隣のドアから船内に入った。

そして、そのまま自分の部屋に向かって歩いて行くのが
大きなガラス越しに見える。



(…………。)



さっきまで、あんなに抵抗していたのに…
あっさりと船内に戻ってくれた。

“良かった”と思う気持ちと共に…
若干茫然とした面持ちで鷹司さんの後ろ姿を見ていた私に、
恭弥さんから声が掛かる。



「…優衣。急いで部屋に戻って濡れた服を着替えるんだ。」



その声で、自分の全身ずぶ濡れの状況を思い出し…

「…はいっ。」

返事と同時に慌ててドアに向かう。





ドアの横の恭弥さんの前を通り過ぎようとしたところで、
素早く手を繋がれた。


(…っ!…)


ぎゅっと強く握られて驚いている私を無視して、
恭弥さんは強く腕を引きながら…急ぎ足で船内を歩く。


少し気恥ずかしいけれど

…恭弥さんの大きな手が…とても温かく感じた。











手を引かれるまま、大急ぎで私達の船室に戻ると同時に…



「今直ぐに、熱い風呂で身体を温めて。」


と少し強めの口調で言われて素直に



「はい。そうさせて頂きます。」

と返事をする。






直ぐに着替えの服を用意すると、急いでバスルームに向かった。


冷え切った身体を、少し熱めの温度のお湯に浸してゆっくり温める。
じんわりとした心地良さが全身に拡がって行く。

鷹司さんも、今頃はお風呂に入っているだろうか?
そうであって欲しい。


私よりも長い時間、大雨の中で立っていたので
体温がかなり低くなっていた筈だ。
体調を崩していないか、少し心配だ。





お風呂に浸かりつつ、先ほどの事を振り返って考える。

鷹司さんは…私への質問ばかりを一方的にしただけで、
私の疑問には答えてくれなかった。

お節介なのは承知しているが、気になる物は気になる。


(…………。)


体調が大丈夫なのかも気になるし、後で彼女の部屋を訪ねてみよう。
その時に出来るなら…
何に悩んでいるのか話してくれると良いのだけどな。










充分に身体を温めて着替えを終えた後に、
リビングに行ってみると恭弥さんは何かの本を読んでいた。

近くに行き、声を掛ける。


「…あの…今から、鷹司さんのお部屋を訪ねたいのですが宜しいでしょうか?」



私の言葉を聞き、
ゆっくり私に視線を合わせてくれた恭弥さんが静かな口調で返す。



「そう言うだろうと思っていたよ。…君の体調は良いのかい?」



「はい。大丈夫です。」



「そう。なら…僕は構わないから、ゆっくりして来て良いよ。」



「はい、有難うございます。」








そこまで話したところで、恭弥さんは立ち上がって移動する。

…そして…
机に置いていた書類が入っているような大きな封筒を手に取り、
私に渡しつつ…



「これを綾子に渡して。」



(…?…)
「はい。…ただ、渡せば良いのですか?」



「中を確認すれば、何の書類なのか…綾子には解る。」



「分かりました。」





一体、何が入っている書類なのか分らないが…

言われた通りに持って行く事にした。




















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