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虹の彼方 194




鷹司さんは、私の方に真っ直ぐに向き直り
少し厳しく感じる眼差しを正面から向けつつ
…ゆっくりとした口調で質問をしてくる。



「藤宮さんが、そこまで言えるのは…」
「恭弥さんに多少怖い部分があったとしても、それを含めて好きだと言えるのは…」
「彼が、地位も権力もお金も容貌も何もかもを兼ね備えた人だから…ではないのですか?」
「貴女が好きなのは…本当は恭弥さんの“条件的な部分”ではないのかしら?」




「恭弥さんの、他を圧倒する程の比類なきスペックの高さは…本当に素晴らしいと思います。」
「当然、その部分も好きです。」




「…普通は、それが本音ですわよね。」




「でも私が何よりも素晴らしいと思うのは…恭弥さんが、そこに至るまでに積んだ努力の部分です。」




「…努力の部分?」




「あれ程までに…何でも出来る人になる為には、影で人知れずに、相当に努力を重ねていた筈です。」
「明らかに…生まれ持った能力や環境にだけ依存したスペックの高さではなく…」
「恭弥さん自身が努力して獲得した能力の数々に…尊敬の念を感じます。」




「…尊敬の念を…感じる…」













「はい。恭弥さんは…もしも、あまり努力をしなかったとしても…」
「何不自由なく暮らせて、色々な才能にも恵まれいるし…そこそこの人生は送れる方だと思います。」
「けれど、その恵まれた条件に安住したり満足する事なく更に高みを求めて、自ら行動し…」
「あらゆる努力をして来たし、今現在も常に努力の人です。」




「…あの恭弥さんが…努力の人ですって…?」




「はい、私には…そう見えています。」
「幾ら器用だとしても…何の努力もしないで、あそこまで何でも出来る筈がありません。」




「…………。…そうなの…かしら…。」




「絶対に、人知れずにかなりの努力をして…自己鍛錬を積んでいる筈だと私は思っています。」








「確かに…言われてみれば、そうなのかもしれませんわ。」
「でも、恭弥さんはとてもプライドの高い方ですもの…そのプライドを保つ為にも、必要な努力なのではないかしら。」




「何かを習得する為の出発点が…」
「自分自身の自尊心を保つ為である事は、珍しい事ではないと思います。」
「勉強や運動を始めとし、仕事を覚える事なども含めて…良くある事です。」
「でも実際は…プライドは高いけれど、口ほどでもない人や中途半端な人は…世の中に大勢います。」




「…そうですわね。」
「わたくしの身近にも、そんな方々が大勢いらっしゃいます。」




「でも恭弥さんは、中途半端な妥協をしないで…あれもこれも驚く程に一定以上のレベルに到達しています。」
「例えば…使える言語の数や、その完璧さは驚くばかりです。」




「ええ。それは…わたくしも感心しておりますわ。」
「一体、何時の間に…お勉強なさったのかしら。」
「藤宮さんが仰るように…人知れず、相当な時間を掛けてお勉強されたのかもしれませんわね。」




「ダンスや乗馬は、運動神経の良さである程度カバーできるかもしれませんが…」
「それでもあのレベルは高過ぎるし、言語習得は絶対時間が必要な世界ですし…」
「間違いなく、相当量の勉強をしている筈だと思うと…ふつふつと尊敬の念が出てくるのです。」











「…貴女が仰りたい事は、大体分りましたわ。」
「つまり…藤宮さんは…外向きに見えている恭弥さんの素敵な部分だけに惹かれたのではなくて…」
「恭弥さんの内面的な物や、努力を怠らないような部分が、特に好きだという事ですわね?」




「…はい、そうです。私は、“今現在の雲雀恭弥”が出来上がるまでの…」
「隠されている恭弥さんの努力の部分に一番惹かれているのだと思います。」




「表から見えてない所こそが一番の魅力…と感じているという事なのね。」




「はい。そして…今後の恭弥さんの事を考えるとワクワクします。」




「…今後の恭弥さん?」




「恭弥さんは、今後ももっと素晴らしい人になって行くに違いないと思うので」
「今後も…楽しみなんです。」



そこまで一気に会話をした所で、ふと…意識が自分自身に向いた。
どんどん素敵になって行くであろう恭弥さんの隣に
…私は何時までいる事が許されるのだろうか。











「…でも…、これ以上、素敵な人になったら…少し困るかもしれません。」


つい…本音がポロリ、と出てしまう…。




「…?…。どうして藤宮さんが、困る事になるのですか?」




「…それは…今でも恭弥さんの傍にいる事に劣等感を感じているのに…更に差が拡がるかと思うと…」
「…今よりもっと…居た堪れない気持ちになりそうで…。」



「藤宮さんも、恭弥さんも…お二人揃って、まだまだ上を目指すおつもりなのですか?」
「お二人共、もう十分過ぎる程に…能力も、様々な技術も磨いて来られたのではないですか?」




「恭弥さんは兎も角、私は能力的にも、経験値的にも…まだまだです。」
「私の場合は…今の自分がどれ程未熟者であるか自覚がありますので…」
「向上を目指すのは、ごく当たり前の事だと思います。」











私の言葉を聞いた、鷹司さんが…少し笑いつつ…


「貴女はきっと、一生…そう言っておられるのでしょうね。」




「今の私は、年齢的にもまだ20代の若輩者ですし…今後も向上を目指すのは…当然の事だと思います。」
「でも確かに…50歳になっても60歳になっても同じ事を言っている気がします。」
「私は、今まで一度も“これで十分だ”と満足した事がありません。」
「それに結構劣等感も強いので…向上心を持っていないと自己卑下が強くなるんです。」




「比べる対象を、恭弥さんに設定してしまうから…そうなるのではなくて?」




「それもありますが、私は元々…自信を持てる事が少なくて…」




「でも、そんな貴女の事を恭弥さんは好きになったのですよね。」
「藤宮さんの…どこがお気に召したのか詳しくは存じませんが…」
「“雲雀恭弥”が惚れ込む要素が藤宮さんには備わっているという事だと思いますの。」




「…………。」




「ですから…そのように、あまりに自己評価を低くするのは失礼ですわ。」




「…失礼?」




「ええ。…恭弥さんに失礼ですわ。」
「恭弥さんは、そんなに見る目が無い方だと思われますか?」




「…いいえ…通常はそんな事は…」
「でも、恋愛に関しては盲目になっているだけかも知れませんし…」




「わたくしは…恭弥さんが恋愛に関してだけ…そんなに見る目が無いとは思いません。」
「悔しいけれども貴女は本当に素敵な女性だと思いますし…恭弥さんが気に入られたのも、頷けますもの。」




「…ありがとう…ございます。」




先ほど私の事を、恋のライバルと呼んでいた鷹司さんに
言われた言葉に、内心でとても驚く。




もしかして…本当は私の事を認めてくれているのだろうか。

ちょっと、くすぐったい様な…少し複雑な気持ちだ。















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