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虹の彼方 193





私の生い立ちが…海外生活の長い帰国子女だと聞くと、
羨ましがられる事が多い。

実際に、本当に貴重で有難い生活を体験させて貰ったと
思ってはいるけれど…
一方で…
ずっと日本育ちである友人達を羨ましく感じる事だって多々あった。

同じ年代なのに…日本での流行を知らないので
全く、会話に着いて行けない事も何度も何度もあった。



それに…
ずっと1つの国の、1つの文化の中で育った訳ではない私は…
数年単位で、政治も文化も、学校の学習内容も、食事も風習も…
何もかもが大きく変化したので…そのストレスは相当に大きかった。

母も私も、新しい環境になれる為に…
毎回、とても苦労をしてきたし
…両親に隠れてこっそり夜中に泣いた経験も、何度もある。

父は、そんな私と母を見て…
とても辛そうに何度も謝ってくれた事がある。






一国の単一の文化の中で、大事に守られながら暮らして
大人になる事が出来る人の事を、羨ましいと思った事も…正直、何度かある。

その育つ国が、もし日本だったなら…
最高の環境だろうと想像した事だって何度もある。


…でも…、他人の環境を羨んでも何も良い事などない。


だから、私は…自分の環境を…
今の自分自分を取り巻いている物を受け入れて行こうと決意をした。
私は、私に与えられた環境の中で、最善の生き方をしよう!
…と自分に言い聞かせて、自分なりに歯を食いしばって…頑張って来た。




私に出来ることは、それしか無いのだから。


…幾ら望んでも…
他人になり代わる事など、出来ないのだから。





それぞれの人が、それぞれの自分の環境の中で…
精一杯生きる事を求められているのだと思う。

世界中の誰でも皆…自分に与えられている環境の中で、
精一杯努力して頑張る以外の道などない。

育つ環境は、それぞれ違うけれど…
『自分に与えられた環境の中で最大の努力をするべき』
という点については
『世界中の全ての人で共通事項』なのだと思っている。









少し考えて、言葉を選びつつ…静かに口を開く。



「私は…人は皆…それぞれの魂の器に見合うような」
「“試練や苦難”の中を、生きていると考えています。」
「その人固有の“問題集を解いている”のが人生だという考え方です。」

「だから、自分以外の他の人の…“課題”の大変さを、完璧に理解するのは難しいと思っています。」


「でも…全く理解出来ない訳ではなく…」
「自分の経験に照らし合わせて“推測”は出来るし…」
「自分自身の“辛い経験”を元に、相手の大変さや苦労も、少しは推測して理解し解り合える。」

「そうやって、お互いに…“違う問題”に取り組んでいるのが人生なのだと思っています。」


「どちらの問題のほうが大変だとか、苦労が多いとか…ついつい比べたくなりますが…」
「でも、恐らくそれは…無意味な事だとも思うんです。」






「…無意味…?」






「別の言い方をすると…個別の、個人個人に適した内容の問題を与えられているので…」
「他の人と比べても意味がないという意味です。」

「私は私に合った課題を解くしかないし…」
「他の人は、その人に合った課題を与えれられているので比較するべきは“課題の内容”ではなくて…」
「“その人固有の課題を、その人が何処まで解き切ったのか”」
「という点が一番大事なんだと…そんな風に思っています。」

「評価する点や、比べるべき点は…」
「自分自身が抱えている課題に対する態度とか、どこまで努力したか…の部分ではないでしょうか?」











私の言葉を聞いた鷹司さんが、少しだけ苦笑しつつ…
ゆっくりと口を開く。



「…藤宮さんは、どこまでも真面目で、前向きで真っ直ぐなのね。」
「そんな風に考える事の出来る貴女が…羨ましいですわ。」

「…わたくしには、とても…そんな風に捉える事など出来ませんもの。」
「今のわたくしには…人生問題集を解く行為は“苦行でしかない”ようにしか思えません。」




(…?…)
…やはり、鷹司さんがわざわざこんな所まで来たのには、
何か別の理由がありそうだと感じる。


「…苦行、ですか?」
「あの、差し出がましいとは思いますが…何があったのですか?」







私の問いに対して、少し驚いた顔をした後
…ふっと表情を変え


「…別に…何もありませんわ。」



「そうでしょうか?私には…鷹司さんは本音を隠しているように見えるのですが。」
「宜しければ恭弥さんに近づいた本当の理由を教えて下さいませんか?」
「もしかしたら、何かお手伝いが出来るかもしれませんし。」




(……っ……)
「先程から何度も申しておりますように…わたくしの事は、もう放っておいて頂けませんか。」



少し影を感じる表情で、
まるで誤魔化すように話す鷹司さんの事が…気になる。
やはり、何か“本当の目的”があるのではないだろうか…。

でも、話してくれない事には相談に乗ることは勿論、
力になってあげる事は出来ない。











一瞬、どこか物憂げな顔を見せたけれど…
その表情をふっと切り替えて、再び話し掛けて来た。



「…そんな事より、わたくしから貴女に伺いたい事がございますの。」




「…?…。…はい、何でしょうか?」




「貴女は本気で…“あの雲雀恭弥”を愛せると…お思いなのかしら?」




「それは…どういう意味でしょうか。」




「恭弥さんが、本来…如何に苛烈なご性格であるか、ご存じでしょう?」
「最近は、比較的穏やかになられたと報告は受けましたが…それでも恭弥さんは恭弥さんですわ。」

「知り合って最初の内は良いとしても…今の蜜月の期間が終われば…」
「怖く感じる恭弥さんに、戻る可能性も高いとは思わないのですか?」










鷹司さんが知っているのは、かなり昔の恭弥さんだから…
そんな疑問を持つのだろうな。
でも、私は…今回の仕事の準備中を含め
旅行中に、実に様々な恭弥さんの顔を見て来た。

そして私は、それらの全てを含めて…愛おしいと思える自信がある。



「正直な本音を言えば…厳しい恭弥さんは少しだけ怖いです。」



「…そうでしょう?」



「…けれど…私はそんな恭弥さんも含めて…全ての“雲雀恭弥”が好きです。」



「…っ…。怖い程に厳しい恭弥さんも…好きだと言えるのですか?」



「…はい。恭弥さんは、内面に…厳しい面と優しい面の両方を持っていると感じます。」
「その全てを…私は愛おしいと思うのです。」



「…!…。優しい面は兎も角…厳しい一面までもを愛せると本気で仰ってるの?」
「恭弥さんが持っておられる…簡単に妥協を許さないようなご性格を、本当にご存じなのかしら。」




「…それも、恭弥さんの一部ですから。」
「私は、そんな部分も含めた恭弥さんの事が好きなんです。」
「それに…鷹司さんだって、本当は知っているのではないですか?」



「…?…。…わたくしが何を知っていると仰るの?」








「恭弥さんの中にある“優しさ”の部分です。」
「幼い恭弥さんを遠くから見ていて…」
「そんな部分を発見したからこそ、余計に惹かれたのではないですか?」

「恭弥さんの中にある、隠れた優しさを知っているからこそ…」
「今回、一か八かでこんな事をされたのではないですか?」




(…っ…)
「…確かに、恭弥さんは優しい一面もお持ちです。」
「特に、雲雀邸内に居た小鳥たちや犬や猫たちなどには…お優しい態度でしたわ。」

「幼い時分より、とてもしっかりして…厳しくも凛々しい立ち振る舞いの恭弥さんに憧れて…」
「時折見せる、優しい顔…その両方が好きでした。」

「けれど、その後…どんどん怖い方になってしまって、本当に恐ろしくて…」
「遠くから見るだけでも…怖かった。」




「…………。」




「わたくしには…厳しくて怖い部分の恭弥さんまで愛せる自信は…あまりございません。」
「そう言い切る事が出来るのは素晴らしい事だとは思いますが…」

「でも、もうひとつ…質問させて頂いて宜しいかしら?」




「…はい、どうぞ。」

























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