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虹の彼方 190





泣いている状態で…
少々感情的に言ってしまった私の言葉を聞きながら…
私の事をじっと真剣な目で見ていた恭弥さんが
ゆっくりと…口を開く。


「…なるほどね…」
「今の話で、君が何故あんな事を言ったのか大筋で分かったよ。」



「…そう…ですか…」


まだ完全には涙が止まっていないので
…俯き加減で答える。

そんな私を見て、
恭弥さんが軽く溜息をついたのが分かった。






…そして…
淡々とした口調で、声を掛けてくる。


「…優衣…。今から僕が真実を話すから…良く聞いて。」


やっと…
自分から、許嫁がいる事を話す気になったようだ…

小さく頷きながら
「…はい…」とだけ答える。

…でも…
顔を上げて恭弥さんの顔を見るのは何となく辛くて
…俯いたままの姿勢。






そこへ…低音の声色が静かに…部屋に響く。



「僕に、綾子という許嫁がいる件だけれどね……そんな話は、僕も初耳だよ。」



(……っ!……)


…えっ…!?

……初耳…って、どういう事…?






「つまり…僕に許嫁など、いないという事だ。」



(……っ!!……)


恭弥さんの言葉に驚いて、俯いていた顔を上げて
…恭弥さんの顔を見る。






「綾子が、君にどんな話をしたのか知らないけれど…」
「彼女は…僕の許嫁じゃないし、綾子以外の他の許嫁もいないよ。」





それを聞いて驚きつつも…思わず声が出た…


「あの…で、でも…」
「恭弥さん達が、まだ幼い頃に…家同士で決めた婚約だと…聞きました。」




「その話は、綾子と鷹司家だけが勝手に盛り上がっていた話で…確か、僕が9歳位の頃に…」
「“是非、正式に婚約をしたい”…と話を持って来たんだけれどね…」
「僕自身が全く乗り気ではなかったから、キッパリ断った。」

「断りの返事を、綾子本人が…どんな風に聞いたのか知らないが…」
「雲雀家としても、僕自身としても…正式に断った話だよ。」




「…え…そうなのですか?」
「ですが、あの…恭弥さんとは幼馴染で、小さい頃は良く一緒に遊んで仲が良かったし…」
「家同士も仲良くお付き合いをしていたので…そんな運びになったと伺ったのですが。」







「…それは、綾子の妄言だね。そもそも僕は…綾子と仲良く遊んでなどいない。」
「僕は、ごく幼い頃から独りでいる事を好む性格だったしね。」
「綾子のように、室内でままごとや人形遊びをしたがるような子と一緒に遊びたいとは、一度も思わなかったな。」




「じゃあ…あの…一緒に遊んだ記憶は…?」




「そんな物はないよ。」
「ただ…僕が独りで庭にいて鯉に餌をやったり…」
「庭内を散歩したり、道場で運動したりしている時に…」
「少し離れた所から…綾子が覗いて見ている事なら時々あった。」




「では…お二人で、仲良くお話したりとかは…?」




「会話は…挨拶に毛が生えた程度しか記憶にないね。」
「綾子が声を掛けて来る事も、ごく偶にあったけれど…僕は基本的には無視していたからね。」




「つまり、鷹司さんは…恭弥さんの事を、殆ど見ていただけ…なのですか…?」




「母親達が話をしたりお茶をしている間は…」
「彼女は暇だから、邸内を散歩したりして時間潰しをしてて…で、時々…僕を見掛けていた程度だろう。」




「…………。」



その部分ついては…少し違うような気がする。

幼い鷹司綾子さんは…恭弥さんに会いたくて
…毎回、一生懸命に…
雲雀邸内をウロウロして探し回っていたのではないだろうか?

きっと、幼い頃から恭弥さんに
淡い恋心を抱いていたのではないかと…女の勘で感じる。









「それにしても…君に、そんな嘘を吹き込むなんて…綾子は何を考えているんだ。」



少し怒ったような口ぶりの恭弥さんに…思わず…



「あの、それは…多分、小さい頃から恭弥さんの事が好きで…」
「今でも諦めきれないから、ではないでしょうか?」
「自分は許嫁であると私に言ったのは…」
「そうなりたいという…鷹司さんの気持ちの現れなんだと思います。」









私の言葉を聞いた恭弥さんが
…チラリと私を見つつ…


「君は…本当に呆れるほど人が良いね。」
「まぁ、そんな性格だから…簡単に、綾子に騙されたんだろうけれどね。」



「…………。」



「綾子はね…確かに小学校の3年生位までは良く遊びに来ていたようだけれど…」
「その後…僕の噂が広まると来なくなった。」



「…恭弥さんの噂…?」



「僕の“様々な噂”を耳にして…“怖がっているらしい”と両親に聞いた覚えがある。」



「…………。」



「僕が中学に上がり…並中と並盛の街を支配下に置いた頃には…」
「“恐ろしくて近寄りたくもない”と言っていたらしくてね…」
「綾子は勿論、綾子の両親も…雲雀家と僕とは距離を取り全く連絡も来ないようになった。」



「…そ、そう…だったのですか。」


(今、サラリと…中学生の時に街を支配下に置いたって…言ったよね。)
(ごく当然の事にように言うから、ツッコミ損ねたけれど…)
(どう考えても普通の事じゃないし…)
(怖がる気落ちも少し分かる気がするのですが…汗)







「自分の意思で距離を取り、僕から逃げたのに…」
「今頃になって、又、僕の前に姿を現すなんて…何を考えているんだ。」



「…………。」



何か事情があって、恭弥さんに近づいて来ているのだとしても…
鷹司さんが、今でも…
密かに…恭弥さんに好意を持っているのは
…間違いがないように、思うのだけれどな…。










そんな事を悶々と考えていると…


「…そんな事より…優衣…」
「改めて…今の真実を聞いた上での返事を聞きたい。」



(……っ……)


真剣な表情で、真っ直ぐに瞳を覗かれながら言われて
…思わず腰が引ける。



「…もう一度…ですか?」



「そうだよ。君の言う所の…“道義的な理由”がなくなったんだからね。」
「今度こそ本当の…本音の君の返事を貰いたい。」



「…………。」






…どうしよう…
正直言って、こんな展開になるとは思っていなかったので…
急にこんな事を言われ、どう答えて良いか分らない。

勿論…自分の気持ちは分っている。


だけど…
正式に返事をするという覚悟は…出来ていなかったので戸惑う。



「…………。」



暫く考え…漸く口を開く。



「あの…それについては、オーストリアで決めた通りに…」
「このクルーズ・ツアーが終わるまでの間に、お返事をする…という事で如何でしょうか?」









私の答えを聞いて、
少しだけ考える素振りを見せた恭弥さんが…


「…わかった。…それで良いよ。」

と短く返事をくれて。


それに対して…軽く頭を下げつつ
『…有難うございます。』と答える。





…その後…

少しだけ、追加でお酒を呑んで

…他愛もない会話を少しして過ごした。





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