虹の彼方 19
次は、パーティ用のドレスと…
旅行中に着る予定の服など一式を、選びに行くらしい。
草壁さんから電話で聞いた内容では…
本当なら、採寸をして…
一(いち)からドレスを仕立てて貰う方が、似合う物を作れるが…
今回はデザイン等を考えているような時間もない為、
既製品の中から選ぶらしい。
一着、二着程度なら問題ないが、
数多く用意するので…と。
正直…私的にも、その方が有難い。
ドレスの生地選びから、デザインまでを決めるのは…
物凄く労力を使う。
途中の仮縫い時や試着等の事を考えても…
既製品を買う方が何倍も楽で助かる。
着物に仕立てる反物を選ぶだけで…
あれだけ大変だったのだ…
これ以上、ドレスもとなると…気持ち的にも無理がある。
車に乗ると、雲雀さんは大欠伸をして、
直ぐに寝てしまっていた。
私にとっては、無理をして会話をしなくて良いので
助かるのだけど…
“寝ている雲雀さんを起こすと怖い事になるらしい”
…と噂に聞いた事があるので、
大きな物音を立てないように気を付けている為、
変に緊張してしまい…居心地が悪かった。
車は暫く走った後、
思ったりより早くに目的地のお店に着いた。
静かに停止し、先ほどと同じように
草壁さんが雲雀さんに声を掛け、車の外に出る。
そこは…
所謂…“セレブご用達のお店”のようだった。
今まで行った事はないから憶測だけど…
この雰囲気は、たぶん間違いないと思う。
お店の入り口には、専門の警備員兼ドアマンがいて、
恭しくドアを開けてくれる。
店内に入ると、先ほどのお店と同じように、
店主さんらしき人が先頭に出て、出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、雲雀様。」
「お待ち申し上げておりました。…どうぞ、こちらへ。」
上品な装いの女性が、
奥にある豪華な内装のお部屋に案内をしてくれて…
そして…
「本日は、雲雀様のご依頼通り、当店は一日貸切になっております。」
「お時間の許す限り、ごゆるりとお過ごし下さいませ。」
「うん。…早速だけど、この娘(こ)に合う物を選んで欲しいんだ。」
「事前に伝えたように、普段着からパーティドレスまで…色々な種類を頼む。」
「似合う物なら、数が幾つになっても構わないよ。」
…！！…。
聞いて驚く。
数に制限を設けないという事…？
いやいや…
…あの…このお店の商品一点買うだけでも、
私のお給料全額使う金額だと思うのですが！
というか、それは安い品物の場合であって…
お高い物なら…お給料の数倍だと思うのですが…！
内心で驚き過ぎて、
心の中で密かに突っ込みつつも…
実際には、口を開けない私を余所に会話が続く。
「それから…」
「パーティドレスについては、後ほど合うジュエリーを買うから、全部写真を用意して。」
「最後は、電話で頼んだように…この娘を仕上げてくれるかい？」
「はい。畏まりました。」
「本日は特別に、普段は当店でお取扱いをしてないブランドの物も多数取り寄せてございます。」
「必ずや、お気に召す物があると存じます。」
「全て、わたくし共にお任せ下さいませ。」
「頼んだよ。」
「…じゃあ僕は３時間後位に、又来るから。」
と、そう言い残して、
雲雀さんは、さっさとお店を出て行ってしまった…
独り残され…
何が何だか分からなくて…茫然としていると、
店主さんから声が掛かった。
「では、お嬢様…早速始めさせて頂きたいと存じます。」
「宜しくお願い致します。」
「あ、…よ、宜しくお願いします。」
「本日は、ありとあらゆるタイプをご用意致しましたので、お気に召さない時は遠慮なく申して下さいませ。」
「お気に召しましたら、お買い上げ頂くリストに加えさせて頂き、最後にそれで良いか確認をさせて頂きます。」
「また、お疲れになりましたら、遠慮なくお声掛け下さいませ。」
「…はい。大丈夫だと思います。」
…と、その時は答えたのだが…
これが甘かった。
この後、店員さんが５名呼ばれ…
もの凄い量の服の中から、直観で選んだ服を次々にピックアップし。
それを…
その後、ひたすら試着してみる…
という事を繰り返し、正直、へとへとになった。
事前に、私の身長やスタイルの連絡が行っていたようで、
驚いた事に…用意されていた服装の殆どが、サイズ的には合う物だ。
なので…好きか嫌いか、でドンドン選別をして行き、
５人の店員さんの意見と、店主さんの意見で…
似合うか似合わないかが判定され…
気が付くと…普段着のカジュアルっぽい物(でも実は高級品)から、
少しドレッシーなオシャレ系から…大人可愛い系…など
そして、肝心のパーティドレスまで…
実に様々な服のリストが、出来上がっていた。
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