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虹の彼方 185





今日中に…
自ら“真実”を話すように言われているので
最低でも、今夜の内に恭弥さんと話をしなければならない。


観光中に話しても良いとは言われたが
…どのタイミングで話をするべきだろうか。

昨夜から散々に悩んでいるのだが、
どんな風に話せば良いのかも含めて…全く心が決まらない。




でも、どちらにしろ…今更、変な小手先の小細工をした所で
どうせ恭弥さんには通じないような気もする。

…となると、いっその事…
“嘘がバレているのを前提にして開き直る”
のが一番良いような気もしてくる。

バレバレの大嘘でも“それの何が悪いの”…という位に
完全に開き直ったら…恭弥さんはどんな反応をするのだろうか?



(…………。)








丁度お昼になった頃、通りがかったホテルの中にある
レストランでランチを食べる事になった。

英語が通じるお店だったので、
お勧め料理を聞いて注文をしてみたが、大変に美味しい。

有名ホテルの中に入っているお店だけあって
“当たり”だったみたい…
と思いつつ食事をしながらも…心の中では悩みの続行。




一通り食事が終わり…
最後にデザートを食べるか迷った挙句に注文した。

日本人の感覚では少々甘すぎるデザートが多いので、
覚悟はしていたが…やはり甘い。

甘すぎるなぁ〜と思いつつも、昨夜からの事で
…心は悶々としたまま。






そんな私の様子に、流石に見かねたのだろうか

…恭弥さんが…


「…優衣。そんなに悩んでも真実が変わる事はない。」
「下手に上手く言おうとせずに…正直に全部話せば良いんじゃないの。」


と、半ば呆れたように…声を掛けて来た。




昨夜からずっと…悩み通しである事は勿論、
私が何に悩んでいるかも全てお見通しのようだ。

きっと、今の恭弥さんは…
既に全ての推測が出来ていて、
後は私の証言を待つだけ…という事なんだろうと思う。


そして、その推測はきっと…正しいだろうとも思う。
でも、例えそうだとしても
…私の方には“譲りたくない一線”がある。







もうこうなったら…一か八かで…
もの凄く今更…である事を承知で
“空とぼけてみる”のもアリかもしれない。

あまりに長く悩み過ぎている事もあり、
少々投げ遣りな気持ちで、ふと…そう思った。




そして、その場の勢いで…つい言葉を発する。


「…あの…その事ですが…」
「昨夜は、その…少々混乱していたので…今日中にお話しをするという事に同意しましたが。」
「ええと、…そもそも、私は何についてお話をすれば良いのでしょうか?」



私の言葉を聞いた恭弥さんが、とても怪訝な顔をする…


「…君、そんなに状況が読めない人だったのかい?」
「それとも…分からないフリをしているの。」



「…………。」


やっぱり、無理があり過ぎたかな…と内心で思いつつも
表面ではキョトンと装う。






「まぁ、良い…。分らないという事にしてあげようか。」

そう話して、小さく溜息をついた後に…



「僕が尋ねたい内容は大きく言って2つある…」
「先ず1つは、どうして君と綾子が一緒に居たのかという事。」



「…その事でしたら…」
「あの方…鷹司さんとは…船内で偶然にお会いして、お話する機会があっただけです。」
「あの船の中では日本人は珍しいですし…」
「お互いに気になったので声をかけて…お話していました。」



「…ふぅん…偶然、ね…。」
「偶々知り合いになった相手に…どうして僕のスケジュールを教える必要があるの。」



「あ、それは、その…今後も機会があればお逢いしたいと思って…」
「恭弥さんがお仕事で忙しい時間に…二人で待ち合わせをしようかと考えていたんです。」



「あの時の話ぶりでは、そんな感じじゃなかっただろう?」
「僕と綾子が鉢合わせしない為に…君が情報提供すると言っていたように聞こえたよ。」



「…ええと…それは、たぶん恭弥さんの聞き間違えだと思います。」



「…そう…」



…あの時…
恭弥さんが、私達の話のどこから聞いていたのか分からない。

最初からなのか、私達に声を掛ける直前なのか…
もし最初の頃から聞いていたのなら、
今の私の言葉が大嘘である事はバレバレだけれど
もう、この際だ…完全に嘘で塗り固めてしまう事にした。








チラリと私に視線を向けながら…恭弥さんの次の質問が来る。


「じゃあ次に聞きたい事だけれど…」
「先日の君の…僕への返事と、綾子との“因果関係”の説明を聞きたい。」



「…あの、因果関係…とは何の事ですか?」



「君の返事の内容と、綾子と知り合いになった事が」
「…何か関係しているんじゃないのかと、聞いているんだよ。」



「私のお返事と鷹司綾子さんの関係…ですか?…特に何もありません。」
「それより…鷹司さんと恭弥さんがお知り合いだった事に驚きました。」
「世間って、狭いですね…。」









あまりにもワザとらしいかな…と思いつつも
思い切って『鷹司さんと知り合いだった事の方に驚いた』
という事にして言ってみると

恭弥さんは、少し複雑で怪訝な顔をした後
…ゆっくりと口を開く。



「…古くから、家同士の付き合いがあってね。」
「小さい頃は、母親に連れられて良く遊びに来ていたようだ。」



「…幼馴染…という事ですか?」



「一応、そうなるのだろう。一緒に遊んで過ごした訳じゃないけれどね。」



鷹司さんの話では“小さい頃は良く一緒に遊んだ”
…と聞いたのだけれど、
恭弥さんの認識では、一緒に遊んだ事にはなっていないのだろうか?

…それに…
“彼女は許嫁である”…という言葉は出て来なかった。



まぁでも…それは当たり前かもしれない。
“付き合って欲しい”と告白をした相手に
“実は彼女は許嫁なんだ”などという話は出来ないだろう。



「…とても綺麗で、優美さを感じる素敵な方ですよね。」



「…まぁ…そうだね。」



曖昧な感じの返事をした所で
…黙ってしまった恭弥さんが…私の方をじっと見て来る。


うぅぅ…この視線は…痛い。

そのまま視線を交えるのが辛くなり、俯いてしまう。






さっきの…
“分らないフリ” “聞き間違えとの主張” “驚いたフリ”
は、流石に子供じみていただろうか?

“如何にも言いそうな”内容過ぎて、
聞いた恭弥さんも呆れているのかもしれない。



でも…今はこれで通してみよう。
どちらにしろバレバレなら、
もう思いっ切り開き直って…嘘八百を並べてやろう。





心の中で、私が少々無謀にも思える決意をしたと所で、
…恭弥さんが再び口を開く。



「改めて確認をするけれど…君の、僕への返事が大嘘だった事も認めないし…」
「その嘘に、綾子が絡んでいる事も認めない…という事かい?」



「偶々クルーズ船の中で…同じ年頃の日本人女性の鷹司さんとお知り合いになった事と」
「先日の私のお返事の内容が…」
「どう関係しているのか、恭弥さんが何を言いたいのか…私には分りません。」



「そう。…あくまでシラを切り通すつもりのようだね。」



「どうして…そんな風に断定なさるのですか?」
「私の言葉は、信じて頂けないのでしょうか。」



「今の君の言葉は全く信じられないね。」
「この僕に…そんな下手な嘘が通じるとでも思うの。」



「…そんな風に捉えられるなんて…哀しいです。」



「何故、そこまでして嘘を貫こうとするんだい?」
「…綾子に…何を言われたの。」



「この件に鷹司さんは全く関係ありません。」
「彼女を、無理矢理に巻き込むのは止めて下さい。」







私の言葉を聞いた恭弥さんは、
…呆れたように、大きく溜息をつく。

…そして…



「そう。…分かった。…もう、良いよ。」



(……っ……)



少し哀しそうな顔で、
吐き捨てるように言った恭弥さんの言葉を聞き

…心がズクンッ!と音を立てた気がした。




場面的には『もう追及されなくて済む』ので
…喜ぶべき所なのに…

ついに…恭弥さんに見放された事が分かり…

私の心には、キリキリとした痛みが拡がって行った。













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