[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 184





黙って俯いたまま…
なかなか話そうとしない私の態度を見て…

恭弥さんが再び、ゆっくりとした口調で話を始める。


「…優衣。今までも何度か話しているが…僕に君の嘘は通用しないよ。」
「つまり…ここで君が話をするのを拒んだとしても、更に嘘を重ねたとしても」
「…どちらにしろ…近い内に、全ては白日の元に晒される…という事だ。」



(…っ…)



「僕は今…君に、本当の事を言うチャンスを与えたつもりなんだけれどね。」
「その事は…君も分っているんだろう?」
「なのに、どうして素直に話そうとしないんだい?」



(…………。)



そう…それは解っている。
どうして恭弥さんが詰問をしないで、私の言葉で語るように言ったのか…
それはつまり…私が試されている事を示す。

この与えられたチャンスに…
本当の事を全て話してしまって、先日の嘘について素直に詫びるのか
この期に及んで…まだ、嘘を貫き通そうとするのか…
それを見られている事は、しっかりと自覚している。



でも、それが分っていたとしても
…全て、本当の事を言うという事が…
『本当に恭弥さんと、鷹司綾子さんの為になるのかどうか』
…は別問題だ。

今回、私は…
『恭弥さんの…未来の幸せの為になる行動をしよう』
と決意をしたのだから…
その部分については譲りたくはない。



(…………。)







暫く色々と頭を巡らせたが…
ではここで、何をどう話せば良いのか…頭がグルグルして整理出来ない。

考えた末の…
苦肉の策としての提案を、ダメ元でしてみる事にした。



「…恭弥さんが仰りたい事は…大体理解しているつもりです。」
「ですが…その…何をどう言えば良いのか…」
「今、私からお話をすると…誤解をさせてしまうかもしれないので…。」
「頭の整理が出来るまで…明日位まで…お待ち頂く事は出来ないでしょうか?」



「そのままを話せば良いと…そう言ってる筈だけど。」



「……はい。」
「…でも、その…今は、上手く話せる自信がないのです。」



「…随分と抵抗するんだね。」
「君が何を守ろうとして、そんな事をしているのか…だいたいの想像はついているけれどね。」



(……っ……)



「最近の君は、以前にも増して…頑固になったな。」
「最初は、とても素直だったのに…最近は僕に反抗ばかりする。」



「…申し訳ありません。」
「でも、意味もなくこんな態度をするのではなくて」
「一応…私なりの正義や理由があります。」



「それは知ってるよ。」
「緊張したり萎縮して、何も言いたい事を言えない初期の頃よりはマシだけれど…」
「君の、その…妙に意志が固い所は想像していた以上に厄介だな。」



「…………。」



「そこが、優衣の良い所でもあるんだけれどね…」
「イザ対立する立場になると、結構大変だという事が良く分ったよ。」
「まぁ…そんな所も含めて、君を気に入っているんだけれどね。」



(……ッ……)











そこまで話した後、恭弥さんは少し何かを考える素振りをして…


「頑なに、何かを守ろうとしている君に…」
「…無理に言わせようとしても、難しいのは知っているからね」
「仕方ないから、今日は譲ってあげよう。」



(……!……)
「有難う…ございます。」



「但し…猶予は明日までだよ。それ以上は待たない。」
「明日になったら…全てを告白して貰うよ。」



「…分かり、ました…。」



「明日のトルコでの観光時でも良いし…その後フェリーに戻った後でも良いけれど」
「兎に角、明日中に…君の言葉で説明をして。」



「……はい。」



「でも内容が、あまりに納得出来ない場合は…」
「僕から改めて質問させて貰うから…そのつもりでいて。」



「…はい、分りました。」




取り敢えず…
今現在の、四方八方が塞がった感じからは逃れる事が出来たけれど
解決策を思い付いた訳ではないので、期限が明日に伸びただけの事。

何とかこの時間内に、
少しでも上手く言う方法を考えつかなければならない。


何もかもバレているのだとしても尚…
自分の姿勢を貫き通す事が果たして出来るのか
正直、不安はあるけれど…やってみるしかないだろう。



大根役者が…
どこまで本物の女優に迫る事が出来るのか…挑戦だ。





++++


++









翌日、トルコのイスタンブールに船が到着した。

トルコと言えば、多少過激な方々が多いイメージもある国だが
…日本人に対してはとても友好的だ。


トルコという国が
『自分達こそは世界一の親日国家だ!』
という程に…日本の事が大好きになってくれた切欠は
約100年程前、日本の和歌山県沖の海で
台風に巻き込まれてトルコの軍艦が沈没した事件が切欠であるという。

(※管理人・注※)
(「世界一の親日国だ!」と自称している国は他にも多数あります)



現場から近い貧しい村の人達が…
大嵐の中、自分達も危ないのに命懸けで乗り組み員達を必死に助けたのだ。

何とか助ける事が出来たトルコ人たちに…
自分達の食べる物も着る物も殆ど無いにも関わらず…
非常食の食べ物を分け与え、服を与え、怪我の治療をし…
必死の救助活動をした事が…
トルコでは小学校の教科書に載るほどに国民に知られている。




『あの時の恩は忘れない!』
と今でも言ってくれるトルコの人々は…
約30年前のイラン・イラク戦争が勃発した時に…
勇敢な行動をとり日本人の命を救ってくれた。




当時のフセイン・イラク大統領が…
『この後…48時間以降…』
『イラン上空を航行するすべての航空機はイラク空軍の攻撃対象となる』
と、突然通告し、世界中が大パニックになった時…


各国の航空会社が自国の人間優先で国外に脱出する中で…
日本人は直行便がなかった為に逃げ遅れ

日本航空も、安全確認が出来ないと組合が反対して飛行機を飛ばさず。

自衛隊も、法律的に動かせないと判断されて
…結局、日本政府は何も出来なかった。




自国の航空会社や、
法律を盾に…自衛隊機の派遣を反対した
一部のお馬鹿な政治家達にも、見捨てられた恰好になり…
他の同盟国も、自国の事で精一杯で誰も助けてくれない状況の中で

もう死を待つだけだと絶望していた日本人達を
制限時間の切れるギリギリのタイミングで
助けてくれたのがトルコだったのだ。


当時、飛行機で助けに向かえば…
自分達の命がないかもしれない危機的状況であったのにも関わらず…
パイロット達は“我こそが!”と志願をした上で、助けに来てくれた。
(しかもその時には…)
(まだ救うべきトルコ人が大勢いたのに日本人優先で助けてくれた)

トルコという国は…そのような国なのだ。






その話を知って以来、私もトルコに親近感を持つようになり…
両親と共にトルコ旅行にも来たし、
日本でトルコ展がある時には見学に行き…
和歌山県の串本町にある、小さなトルコ記念館にも行ってみた。

そして偶には…
日本国内のトルコ料理のお店に食事をしに行く事もある。





トルコは、イスラム色が濃い国なので、
日本人には…とてもエキゾチックに思える国。

世界3大料理のひとつとも称されるトルコ料理は美味しい物が多く、
親切な人も多いし…観光スポットも大変に多い。

公用語はトルコ語なので、私は話せないのだが
…英語が話せる人達がそこそこいる。

観光地になっている地域ならば、英語での意思の疎通がほぼ出来る。






両親と共に来て以来…久々に来たけれど、
この国は、あまり変わっていないように見えた。


大好きな国を、恭弥さんと共に観光して周っているのに…
昨日までの楽しさは、あまり感じなくなっていた。

隣にいる恭弥さんを時々チラリと見ては…
内心で大きな溜息をつくような事を繰り返す。



私の落ち着かない態度には
気が付いているのであろう恭弥さんは…
特に何も言って来ないのだが、
それでも…私の心が落ち着く事はなかった。















[*前へ][次へ#]

17/43ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!