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虹の彼方 181





次の日は…
再び何処にも寄らないで終日クルーズの日だった。



このクルーズ・ツアーは、ゆったりした日程で組まれている為、
寄港地を少な目に設定しているのだが…

観光で疲れたと感じれば、
次の寄港地までに十分に休む時間があるし…
まだまだ遊び足りない人は、
船内の豪華な設備をフルに使って遊び尽くす事が出来る。

自分自身で遊び方のプランニングをし
あまり疲れを貯め過ぎずに、自分のペースを保ちつつ遊べるのは嬉しい。




それに、時々仕事が入る恭弥さんにとっても、
適度に終日クルーズの日があると
その時に仕事が出来るので、丁度良かったみたいだ。


今日は、午前中と午後の早い時間帯は
恭弥さんと一緒に過ごす事になっているが
夕食後の時間帯になったら、部屋に籠り1人で仕事をしたいと聞いている。

その時間帯に、
日本にいる草壁さんから連絡が入る事になっているらしい。






恭弥さんにお返事をしてからの2日間の中で…
全く、一言も何の追及も無かった事で、
私は、やっと…少しリラックス出来るようになった。

相変わらず、恭弥さんの気持ちは推測すら出来ていないけれど…
どうやら今の所は私を問い詰めようという気持ちや、
私の考えを改めるように迫る気持ちもないようだ。


今までと全く変わらずに優しく接してくれて、私を気遣ってくれて
楽しませようとしてくれる事に安心し…
カジノに誘った時のような変な緊張感を感じなくなっていた。









今まで、スポーツ施設は一度も利用していなかった為…

「スポーツ系の施設に行ってみませんか。」

…と言ってみたら


「じゃあ、軽くテニスでもしようか。」

という事で、恭弥さんと一緒にテニスをして
身体を動かし、汗を流して心身共にスッキリとした。




「最近運動が足りてないかったからね…丁度良かったよ。」

と言いつつ…

私が相手なので、かなり手を抜いて相手をしてくれたけれど、
やはりというか当然と言うべきか…
本当はかなり上手である…というより寧ろ…
“テニスに於いても超人離れしている”のが分かる出来事があった。






私達が軽くラリーをしているのを、隣のコートで見ていた男性が

「家内では僕の相手が出来なくて、他の相手を探していたんです。」
「5セットマッチの試合に付き合ってくれませんか?」

と、恭弥さんに声を掛けて来て試合を頼まれ、
…気紛れに…

「…良いよ。少し遊んであげる。」

と答え…試合に応じていたけれど…




最初の1セットと2セットは…
私とする時のように明らかに手を抜いて軽く打ち返していた。

わざと相手の男性にも
少し余裕が持てるようにしてあげていたので、
どちらのセットでも、最後の最後で勝てなかった事を男性が悔しがっていた。



…が、3セット目は…飽きて来たのだろうか…

“もう遊びは終わり”と言わんばかりの遠慮のないテニスを展開し…
相手に全く得点を与えずに、
ドンドン打ち込んでラリーすら許さずサッサと終わらせてしまった。




サーブもレシーブも威力があり過ぎて…
あれでは普通の人ではとても打ち返せないだろう。

あんな剛球を打ち返せるのは、例えば山本さんとか…そんな人しか無理だと思う。
(でもラケットが“モツ”かどうかは別問題)
(試合中にラケットを1本ダメにして取り替えていたし)



恭弥さんの本当の戦闘力を垣間見る機会があった私から見れば…
あれでもきっと…
“コートが壊れないレベルに手加減してあげた”
のだろうなと思う。

威力があり過ぎて…
恭弥さんがサーブしたりレシーブしたテニスボールが数回破れてしまったのだが
その残骸を、茫然とした面持ちで見る男性と夫人に軽く挨拶をし
…何事もなかったようにテニスコートを去る。









その後、部屋に戻り順番にシャワーを使い着替えをする。

運動をしてお腹が空いたので、少し早めのランチを頂いた後は…
面白そうな演目が目に付いたので劇場に行ってみて、一緒に観劇をした。
現代喜劇を楽しんで笑った後は…
今まで行った事のないラウンジに足を運び、綺麗な海を眺めつつ休憩。


…その時に…明日の寄港地である
トルコのイスタンブールについての話題で盛り上がり会話が弾む。

トルコは、両親と共に子供の頃に行った事があり
その時に経験した私の思い出話をしたり…
恭弥さんが仕事で行った時に、親日家の陽気なトルコ人に絡まれた話など…
お互いに、ごく自然に話題が出て来て、普通に会話を楽しむ事が出来た。









夕方には一度船室に戻り
…少し休憩をした後は、夜時間帯用の衣装に着替えをして
予約を入れておいたレストランに早めの夕食に向かう。

美味しい食事を済ませた後は
…恭弥さんは仕事の為に1人で部屋に帰った。





一方、私は…恭弥さんが仕事をしている間の時間潰しとして
予約を入れておいたエステ・サロンに向かう。


タイ式のアロマ・エステをお願いし…
良い香りに包まれながら簡単な全身エステを受けていると
今までの事が全て夢であったような気さえして来る。

極上の癒し空間の中で、心身共にリラックスし
…日本を出発してから一番の安らぎを感じていたかもしれない。




予定通りの時間でエステが終了した後…ひとりでカフェ・ラウンジに向かう。
香り豊かなフレバリーティーを注文し、
船内のストアで見つけた日本語の雑誌を広げる。

欧州に来てから、殆ど日本語を目にする事がなかった為…
つい懐かしくなり、特に読みたい訳ではなかったが買ってしまった物だ。







今年の日本での注目のファッションなどについて書かれているページを
サラリと見て、のんびりと過ごしていた時…

聞き覚えのある小さな声が…聞こえて来た。


「…藤宮さん…今、お一人ですか?」


声の聞こえた方を見ると…
周りを警戒するように見ている鷹司綾子さんの姿があった。

近くに恭弥さんがいるのではないかと思って周囲を見ているようだ。




「恭弥さんは、今の時間は部屋でお仕事中です。」
「ですので、邪魔をしないように…ひとりで過ごしている所です。」



そう声を掛けると…少しホッとした表情になり…


「…そうでしたか。」
「あの、でしたら…ご一緒させて頂いても宜しいですか?」



「はい。…どうぞ。」



笑顔でそう答えると…
嬉しそうに、一緒のテーブルの横の席に座った。
















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