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虹の彼方 180




カジノで散々遊んだ結果…
私は元々より1.3倍位のチップの量になり、
それなりに楽しめたし大満足もした。


一方…同じ頃の恭弥さんは、
元の量と比べると数百倍にもチップを増やしていて

『…飽きた。』

との一言で、一緒に遊ぶのを止め…
カジノのスタッフや他のお客さんが唖然としつつ見送る中…移動をする。





その後は、カフェラウンジに行き飲み物を注文して、一休み。

とても静かでち着いた雰囲気のラウンジで、
ゆっくり休んでいるフリをしつつも
あまりに普通な恭弥さんの態度と、
全く一言も追及がない事に…妙な緊張感を覚える。

思わず知らず…挙動不審になっていそうで怖かった。





カフェラウンジを出た後は…
船内をゆっくり移動しつつ、取り留めのない話で会話を繋ぐ。
お天気の良い日だったので、デッキ階に行き、
穏やかで美しい海を眺めながら時間を掛けてゆっくり散歩した。
…少し歩き疲れた所で、再び休憩。



…その後…
気が付いたら、もうすぐ夕方になろうとする時間だったので
一旦お部屋に戻り、夜の時間帯用の服装に着替えて…
船室で、二人で船内ガイドを見つつ
今夜の夕食を何処で食べるかなど今後の過ごし方の相談をする。



程良くお腹が空いた所で…ごく普通に美味しいディナーを堪能し
…食後はジャズ・バーに移動をして軽く呑む。

生演奏のピアノの軽快な音楽が流れる中の会話は、
明日の寄港地であるクロアチアのドブロブニクでの観光についての会話。

私は一度も行った事がない国だが
恭弥さんは数度仕事絡みで行った事があるそうで…
お勧めの場所などを聞いた。








つまり…
朝から今まで全部…何時も通りだった。

もしかしたら…
『昨夜、私がNOのお返事をしたのは、私の夢の中での話だったのだろうか?』
と、思う程に…

全く、少しも、微塵も…昨夜の話題には触れて来ない。




ここまで徹底されると…
本気で“昨夜の事は幻”だったのだろうか?
と、つい思ってしまいそうになる。

…いや、そんな事はない筈。
私は確かに…昨夜、恭弥さんと話をした筈だ。

あれは…決して夢などではない。




注文したカクテルが
予想以上にアルコール度数の高い物だったので
少しぼんやりしだした頭で…必死に考える。

これは、一体どういう事なのだろうか?



朝…チラリと考えたように、
本当に昨日の私の言葉が…
『胸に刺さったので納得してくれた』のだろうか?

その上で…
『楽しい思い出を作りたい』という話を受けて
私を楽しませようと…
良い思い出作りが出来るように…考えてくれているのだろうか?


それとも…他に何か考えがあっての事なのだろうか?






…今日一日恭弥さんが…
全く、何も…昨夜の事には触れない事で…
かえって私の頭の混乱が増しているような気がする。

ひとことも何も言われない為…
恭弥さんの気持ちが全く分らないのだ。
これでは、恭弥さんの本音の推測すら出来ない。



私の演技を信じてくれたのか、疑っているのか…
NOという返事を…
受け入れてくれたのか、納得していないのか…

…それすらも…良く分らない。




(…………。)




チラリと恭弥さんを観察しつつ考えるけれど…

自分から昨夜の話題を蒸し返してまで
恭弥さんの真意がどこにあるのかを探る勇気は…出て来なかった。







+++++


++










翌朝…早い時間に、次の寄港地である
クロアチア共和国のドブロブニクに到着した。

大変に美しい海である事で有名なアドリア海に面したクロアチアは
一時期は民族紛争などがあり、渡航するのは危険な時期もあったのだが
今では観光立国を目指し、
外国からの観光客を多く受け入れる体制になって来ている。


『アドリア海の真珠』とも呼ばれ…
日本の有名なアニメ映画のモデル都市にもなっているし
世界遺産でもあるドブロブニクの街並みは、一度は見てみたいとも思っていたので
寄港地の中に含まれているのを確認した時は、嬉しかった。


軽い朝食を船内で食べた後に、早速下船し…
昨夜の内に恭弥さんと話して決めた観光地を巡った。






イタリアに少し似た雰囲気がありつつも、
ハンガリー・オーストリア帝国の影響も強く受けた文化。

この時期は、気候も穏やかで過ごしやすい。
世界中からの観光客で賑わう光景は活気があり、
人々は、比較的旅行者に親切。




明るい表情の人々を見ると、
少し前まで激しく争う扮装があった事など感じられないけれど…
きっと、過去の辛い記憶に負けずに
一生懸命に前向きに生きようとしているのだろうな。

そんな事を考えつつ、ついつい今の自分の状況と重ねてしまう。



私も、今は辛いけれど…何時かきっと…
いえ、日本に帰国したら…
なるべく早い時期に気持ちを切り替え、新しく再出発をしたい。


一時であるとはいえ、
恭弥さんと共に過ごす事が出来た事に感謝をしつつ
私は私の人生を…前向きに生きて行きたい。

…そんな事を…強く思った。








観光をしつつ、軽く休憩したりランチを食べたりする。

食文化を注意して見ると…
イタリア、ハンガリー、オーストリア、トルコなどの影響が
濃く見てとれる内容で、日本人の口に合う物が多く美味しい料理が多い。

食事が美味しいというだけで…とても幸せな気分になれる。




心の中の、辛い気持ちがなくなった訳ではないけれど…
以前から行きたかった都市を訪れ、好きな人と観光をし散策をし、
美味しい食事が出来る事は…単純に嬉しくて楽しくもある。

恭弥さんに、昨夜告げた…
『トラウマの穴埋めの為にも、楽しい思い出を作りたい』
という話の部分の中で

『トラウマ云々(うんぬん)の部分』
は、嘘の話だけれど…

『出来れば恭弥さんとの楽しい思い出が欲しい』
という部分は…私の本音の一部でもある。








同じクルーズ船に…
許嫁の鷹司綾子さんが乗船している事を隠し…
こうして恭弥さんを独占し、
一緒の時間を楽しんでいる事に、全く罪悪感がない訳ではない。

自分の許嫁が…
一緒の船に乗っている事を知らない恭弥さんの方は兎も角…
もしかしたら、遠くからでも…
私達の姿を見ているかもしれない…鷹司綾子さんに対しては
正直、申し訳ないな…と思う気持ちがある。



でも…
今の旅行は“仕事の一環”という説明になっているし…
恭弥さんにも許嫁である彼女にも…
お二人に真実を言う訳にはいかないけれど…

今、私が取っている行動は
“この後、お二人が幸せな未来を築いて貰う為のもの”
でもあるのだから…ある意味では、仕方ない事でもあるよね。




…そう考えて…

自分の気持ちに正直に
“本当に心から今の時間を楽しんでいる”

…という事実を、無理矢理に正当化し…

自分で自分を納得させつつ、その日一日を十分に楽しんだ。















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あきゅろす。
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