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虹の彼方 178





…さぁ、恭弥さんの未来の為に…

勇気を持って…口に出そう!



私は…少々性格の悪い女を演じ切る。
…まるで、それが私の本性に見えるように!






内心で自分を鼓舞して…再び、口を開く。


「…あの時、ポルポの船には最初から骸さんが助けに来てくれていました。」
「だから、恭弥さんが来て下さらなくても…」
「私は助かったし、無事に帰れただろうと思っています。」




(……ッ……)

恭弥さんが…ピクリッと小さく反応をする。




それに構わず…言葉を続ける。


「骸さんは、幻覚を使って相手にダメージを与えるけれど…」
「その内容を私には見せないので…幻覚を使っている間は、怖い思いをする事もなく済みます。」
「戦闘場面も…恭弥さんよりは少ないです。」

「…あの時、もし恭弥さんが来なければ…」
「あんなに恐ろしい場面を、たくさん見せられる事がなければ…」
「多分、私は…こんなトラウマを抱える事はなかったと…思うのです。」




(……っ!……)

恭弥さんが…何とも複雑で、少し苦しそうな顔をする。





リボーンから…
『ヒバリと骸は過去に因縁があってな…』
『ヒバリの前で、迂闊に骸の動向を伝えるのはヤバイ事もあると覚えておけ。』
…と、ボンゴレに来た当初に聞いた事がある。

恭弥さんと骸さんの間に、一体どんな過去があるのか知らないけれど…
どう“ヤバイ”のかも…良く分らないのだけど…
兎に角、変なトラブルになる事を防ぐ為にも
単なる情報の一環以外の…
骸さんの話は、基本的にはしない方が無難だと言う事は知っている。


だから敢えて…
『骸さんだけに助けて貰えば良かった。』
『骸さんだけなら怖くなかった。』
『恭弥さんは来る必要なかっただけでなく…私にトラウマを植え付けた。』
…と“受け取れる話”をした。





勿論、そんなのは全部…嘘だ。

これでも数年間、裏社会に身を置いて来たのだし…
あれぐらいの戦闘場面を見るのに耐えられなければ
…巨大マフィアのボスの秘書など、到底務まらないだろう。


…あの日、実際に皆さんの戦闘場面を見たのは、初めてだったけれど
ツナは勿論、守護者のメンバーの戦闘力が半端なく高い事は
リボーンから簡単に教えられていたので、ある程度の想像はしていた。
(全員…その想像を遥かに上回る凄さだったけれど)


何時の日か…
悲惨な戦闘場面を見るような日が来るかもしれない
…という覚悟も、密かにしていた。




それに…あの日の戦闘は、恐らく…
全員、手加減をしていたのではないだろうか?

ツナの方針(=何事も、なるべく穏便に済ませる)もあるのだろうけれど…
私や、誘拐されて来た一般の人達も居たのだし
『あまりに凄惨な場面にならないように』
相手が、動けない&逃げられない程度の攻撃で済ませている…ように見えた。

その証拠に…
誰ひとり死亡者はなく…見事に全員を生け捕りにしていた。

手加減された戦闘の結果…
多少の怪我をして動けない人が大勢いる場面を見ただけなのに
その程度の事でトラウマになる程…私の精神はヤワではない。








(…………。)



恭弥さんは、何も言わずに
…少しだけ哀しそうな顔をして、ただ私を見ている。



そんな表情を見ると…心がチクチクと痛む。

心臓がキリキリするような気がする。




自分が、どれほど酷い事を言ったのか
…それを再認識させられるようで…辛い。

恭弥さんからの追及をかわす為とはいえ…
綺麗に、私への未練を断ち切って貰う為とはいえ…
やはり、これはかなり辛くて心が痛む状態だ。




でも、ここまで来て引き下げれない。

…心を鬼にして…最後までやり切ろう。









一呼吸置いた後…

今までの、深刻そうな話方を一転して変えて…
敢えて明るい大きめの声で…話を始める。



「…あ、あのっ…」
「…でも…別に、恭弥さんの事が嫌いな訳ではないんですっ。」
「尊敬もしていますし…色々と教えて頂いて心から感謝もしています。」
「…それは、本当です!」

「ただ、ちょっと…戦闘中の恭弥さんが怖いだけで、決して嫌いではないので」
「どうか…そこは誤解しないで下さい。」

「だから、その…今後も、良き先輩として、親しい友人として…」
「色々とご指導頂ければ、大変に有難いと思っています。」





(…………。)






ワザと無理をして、
決して嫌いな訳ではない“言い訳”をしているように、
…まるで、その場を“取り繕う”ように…わざわざ話す。

こんな風に…
『お断わりの返事をした後の“友人として”今後も宜しく』
…という言葉程、辛い物はない。


それを解っていて、敢えてあっけらかんと、
如何にも害がないような話方をするなんて…本当に意地悪な行為だと思う。




「それで、あの…この後の旅行の事ですが…その、こんな事を言った後ですが…」
「本当に、お仕事の為に帰国する必要がないなら…」
「このまま旅行を続けるなら、という場合のお話ですが…」

「出来れば今までと変わらずに、お付き合い頂いて…」
「今回の仕事の“辛い部分”を打ち消すような…」
「楽しい思い出作りが出来ると…とても嬉しいのですが。」




(……っ……)


“辛い部分”を、若干強調して話して
…暗にトラウマの穴埋めをしたいのだと…言外に滲ませる。










そして、少し間を空けた後に…
如何にも悪意が全くないような言い方で…



「…すみません。先程から…自分に都合の良い事ばかり言ってしまって。」

「あの、やっぱり…」
「あんな返事を聞いた後も一緒に旅行するなんて、恭弥さんは嫌ですよね…」
「こんな時は旅行を途中で取り止めるのが普通だと思いますし。」
「それに、お仕事も忙しいようですし…帰国するべき、ですね…」





少しシュンとした感じで言いつつ…恭弥さんの反応をそっと見る。

…すると…



「…いや、旅行は…このまま続けよう。」



「…!…。…良いのですか?…でも、あの…無理はなさらないで下さい。」



「無理はしてないよ。…楽しい思い出作りをしたいんだろう?」



「…はい。…ですが、本当に宜しいのですか?」



「僕も…君との楽しい思い出が欲しいからね。」



(……っ……)
「…有難うございます。」
「では、お言葉に甘えて…最後まで旅行を楽しませて頂きます。」






軽く頭を下げつつ返事をしながら、内心では…
恭弥さんの『僕も楽しい思い出が欲しい』という言葉が…突き刺さる。


本音では、旅行を取り止めて帰国しようと言ってくれた方が助かった…
私的には、これ以上…恭弥さんと一緒にいるのは辛い。

でも、この演技を続ける為には…
遠慮や申し訳ない気持ちを持ちつつも、ここで喜ばなくてはいけないのだ。




恭弥さんは、私の性格を良く知っている。
ある意味…私以上に、私の事を知っているかもしれない。

だからこそ…
先ほどの私の言葉が“全部本当だったなら”取りそうな行動をしないといけない。
私が…本心を隠している事を悟られないように…
“演技の私”と“本来の私”の両方が取りそうな行動を慎重に選んで、
このまま演技を続けなければならない。








事前に必死に考えたシナリオ通りに…今の所は進んでくれている。
緊張しまくって、今にもボロが出そうになる所を、
…決死の思いで理性を総動員して、何とか演じきった。


…でも、もう…
正直、この緊張状態には…耐えられそうにない。


胸も…張り裂けそうな程に…痛い。

心が痛くて…辛い。






それに、この状態で恭弥さんに更に突っ込みを入れられたら
…綻びが出そうで怖い。

本当は、この後…
一定の恭弥さんからの追及を敢えて受けて、どんな事を言われるかを確認して…
その上で、眠い事にして
『上手く返事をする為の時間稼ぎ』をする予定だったが…


…もう、私の方が限界だ。


恭弥さん相手に嘘を吐くのは…
精神力を使う上に、大変に辛くて苦しくて仕方ない。








ほぼ、一方的に話しをした後は…早々に、この場を終わらせたくて…
恭弥さんが、更に口を開く前に
『もう、今日は疲れたので…』という言い訳をしてベッドに逃げ込んだ。



“おやすみなさい”を言った時に見た恭弥さんの…
何か言いたげな…どこか寂しい表情が気になりつつも…

極度の緊張から解き放たれた解放感と安堵感、
事前に呑んでいたワインの効果で…

案外あっさりと…その日は眠りについた。



















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あきゅろす。
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