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虹の彼方 176





心の中に重大な秘密を抱え…
何とか笑顔を無理矢理に作り、終始楽しそうなフリをして
…ナポリ観光を終えて、船に戻って一息ついた。



ナポリ観光をしつつ、密かに考えた3つの選択肢の内
…どれが一番マシだろうか?
と自分なりに必死に考えた結果…どれも同じく厳しいなら
…せめて…
恭弥さんに一番、迷惑が少なくなりそうな選択をする事にした。






私的には、その後が“楽”なのは…

言い逃げ…つまり旅の最後の最後に、一方的にお断りをして、
そのスグ後に日本に帰国して
ボンゴレのアジトに“お籠り”してしまうか…

何も言わずに、ひとりで下船して日本に逃げ帰るか
…のどちらかの選択だろう。




恭弥さんは、恐らく…
日本に帰国すると同時に、
今、お休みを取っている分の仕事もするのだと思う。
つまり、帰国後は忙しいのではないだろうか。

だから、日本に戻る直前の返事をした場合や…
私がひとりで日本に逃げ帰ると、
恭弥さんのお仕事に…迷惑になるような気がする。

つまり…
『旅行中なら、じっくり話も出来たのに…』
『こんな事をされては、気になって仕事が手に付かない。』
…という事になりそうだと思う。




私は助かるが…
その分、恭弥さんに迷惑を掛けるのではないだろうか。
それが予想出来るのに、その選択をする訳にはいかない。

好きな人の迷惑になると分かっていて、
そんな事をするのは…私的な道義にも反する。







となると、残りの選択肢は…
“旅行の途中で、お断わりのお返事をする”という物だ。

『お付き合いは出来ません。恋人にもなれません。』
という返事をしたら、恐らく恭弥さんは…
スグには納得してくれなくて、私の真意を探ろうとするだろう。


旅行の途中で返事をすれば、
当然…日本に帰国するまでのツアーの間は
私は恭弥さんからの…
質問や疑問に答えなければならない事が増えてしまい
返答に困ったり…
明確な事を言えずに、更に追求されたりするだろうと予想出来る。




正直な所…そんな事態になるのは…とても怖い。
今でも心が壊れそうに辛いのに、もっと辛い思いをしそうだとも思う。


お断りの返事をするという事は、
それによって恭弥さんの心を乱す事にもなると思うので
お互いに、二人揃って
…苦い嫌な時間を持つ事になってしまいそうだ。

楽しい筈の旅行が、一転して…苦い思い出旅行になりそうだ。








それでも…もし、そうなったとしても…、
言い逃げしてしまうよりは…まだ、少しはマシであると思う。

恭弥さん的には…
私を問い詰めたり、話し合いの時間を持つ機会があるだけ、
“少しでもマシ”と思えるだろう。
その方が、恭弥さんにとって良いのなら…私はそうするべきだ。



好きな人の苦悩を少しでも減らせるなら
…私は、辛くても苦しみを耐える。

それが、今の私に出来る…精一杯の愛情表現でもあるから。







私が、恭弥さんに何かしてあげる事が出来るのも
…これが最後になるかもしれないし
本気で頑張って、出来るだけ平静を装って、
極力、苦しさを表に出さないようにやってみよう。

今まで散々に大根役者だと言われて来たし、自分で自覚もあったけれど…
…これが、最後の大芝居だ…
今までにない迫真の演技で、あと8日間を乗り切ってみよう。


もしも、あっさり見破られたとしても…
それでも最後まで、本当の事を言わずに通せるのか
…今までの私なら厳しいけれど

今後の、恭弥さんの幸せの為だ…
誰もが祝福してくれるような素敵な許嫁と…
変なわだかまりなく、幸せにスムーズに結婚して貰う為にも
私がココで、綺麗に恭弥さんとお別れするのは大事な事だと思う。

だから…精一杯、頑張ってみよう。








私は、私の気持ちに…嘘を吐く事にした。

自分の本心を隠し、
恭弥さんに…嘘偽りの気持ちを告げる決意をした。



あの恭弥さん相手に…
私の演技がどこまで通用するのか分からないけれど
…やれるだけ、やってみよう。










色々と考え、旅行期間中に
「お返事はNOです。」と告げる覚悟は出来たけれど…
何時、実行しようか?と…そればかりを考えてしまう。

なかなか勇気が出なくて、実際に行動に出る決断を出来ない。


でも、このままではいけない。

悶々としつつも、機会を伺う。





レストランで夕食を食べている時は…
周囲に人もいるし、折角の美味しい食事なのに…と思って何も言えず。


その後に…「軽く、何か飲もうか?」
と誘われて、ラウンジで恭弥さんは日本酒、私は軽いカクテルを呑んだけれど
そこでも…勇気が出なくて…結局、何も言えなかった。

ナポリ観光の感想などを話しつつ…
無理に笑顔を作り誤魔化したが…苦しさは増すばかりだった。








ラウンジから船室に戻って、
恭弥さんがお風呂を使っている間に…悶々と再び考える。

明日は、どこにも寄港しないで終日クルーズの日だ。
だから、話をするなら…今夜か、又は明日の朝が良いのではないだろうか?


何処かの観光をしている合間に、
ドサクサに紛れて、街角のカフェで話すような内容ではないし…
そんな事をすれば…
私の性格を知っている恭弥さんに、益々怪しまれてしまう可能性がある。



でも、明日の朝に話したら…
下手をすればその後は一日中…恭弥さんの詰問に合う可能性もある。
それは、結構キツイ気がする。

元々演技に自信がないのに…逃げ場が全くないと辛い。





今夜の、寝る直前に話してしまえば…
その後、多少詰問されたとしても、
もう眠くて限界だという事にして…一旦、明日の朝まで逃げられる。

時間を置けば、恭弥さんからの詰問に
どう答えるべきか、ゆっくり考える事も出来るだろう。

つまり…
今日中に返事をしてしまう方が良いのではないだろうか?





何とか、演技を貫き通す為にも…
この後に言うのが良いだろうと…やっと決心がついた。


恭弥さんの後に、ゆっくりお風呂に入りつつ、
どんな風に言うか…
頭の中で数度イメージをして、シュミレーションをする。

その通りには運ばないかもしれないが…
少しでも、事前に恭弥さんの反応を予測して
あまり慌てなくて済むように…したかった。










覚悟を決めて、お風呂から上がり…
リビングに行ってみると、寝酒の日本酒を飲みつつ、
何かの書類のような…
報告書のような物を読んでいる、恭弥さんの姿があった。

…まだ仕事中だろうか。
仕事をしてるなら、話すのは止めた方が良いだろうか。

ここまで来て…まだ迷いが出来る事に
内心で苦笑しつつも…恭弥さんに声を掛ける。



「…お仕事…ですか?」



読んでいた書類から目を離し、
横にある書類ケースにしまいつつ…



「…いや、もう終わった。」



「お仕事が忙しいようでしたら…」
「旅行を途中で止めて、日本に帰国した方が良いのではありませんか?」



「そんな心配は要らないよ。」



「…そう、ですか?」



「あぁ、大丈夫だ。」
「…それに…君からの返事を貰っていないからね…まだ、日本には帰れない。」




穏やかな表情で、
少しニコリとしつつ言う恭弥さんの言葉を聞いて…
…胸がキュンと…痛くなる。


でも、ここで勇気を出さなくては!

頑張って…告げるのよ!






自分で自分を必死に鼓舞して
…何とか、声を絞り出す…


「…あの…そのお返事の件ですが…」
「もし、宜しければ…今から少しお時間を頂いても宜しいですか?」




私の言葉を聞いて、
恭弥さんは…ちょっと反応した後…


「…返事を聞かせて貰える、という事かい?」



「…はい。やっと…考えが纏まりましたので…」



「そう。…時間はいくら使っても構わないよ。」
「君のペースで、好きなように話して良いから。」



「分かりました。…そうさせて頂きます。」


















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あきゅろす。
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