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虹の彼方 174




もう、ネタ切れになった。

他に…恭弥さんの行動の仮説が思い浮かばない。



そこまで考えて、ハッとして時計を確認する。
部屋を出てから、もう3時間以上も過ぎてしまった。
もう既に深夜の時間帯だ。

そろそろ部屋に戻った方が良いだろうか?
この時間ならば、恐らく恭弥さんの仕事も終わっているだろう。


…でも…
さっき聞いた話が頭の中を占めているので、正直、部屋に戻り難い。
衝撃の事実を突然…突き付けられて、どう反応して良いか…
どう受け止めれば良いのか…それが分らない…。








そのままボンヤリと夜空を眺める。
美しい星空は目には入っているが…脳が認識していない。

どうしようもないモヤモヤした気持ちを抱えたまま
…茫然としていた、ら…



「…優衣。…こんな所に居たの。」



(…っ!…)
声がした方を向くと…少しホッとした表情の恭弥さん…








「…読書は終わったのかい?」



「…あ…、…はい、終わりました。」
「あの…恭弥さんのお仕事は終わったのですか?」



「もう終わったよ。」



「そうですか…お疲れ様でした。…もしかして、探して下さったのですか?」



「図書館に行っても居なかったからね…君の行きそうな所を回っていた。」



「…わざわざ…すみません。」



「…優衣…何かあったのかい?」



「……えっ……」

内心でギクリッとする。
流石、恭弥さん…鋭いな…。

…でも、先程の事を言う訳にはいかない。









内心の動揺を抑え…なるべく平静を装って…

「…いえ…特に何も…」



「…そうかい?それなら良いけれど…沈んでいるように見えたからね。」



「…あ…、あの、読んだ本がちょっと…終わり方が哀しかったので。」



「…本?」



「…色々と…その、人生とか、人の想いについて考え込んでしまって。」



「そう。感情移入し過ぎたようだね。」



「はい。でも…もう大丈夫です。」


無理をして笑顔を向けて、出来るだけ明るい声で答える。
恭弥さんは、それ以上は何も聞かずにいてくれたので、
…内心で安堵の溜息をつく。


…咄嗟に…
本のせいにしてしまったが、本当はハッピーエンドの本だった。
他に、良い言い訳が思い付かなかったのだ。








その後に『もう遅い時間だし…戻ろうか』と部屋に戻った後も…
恭弥さんの顔を見るのが辛く感じて…
あまり話をしたくなくて…そそくさとお風呂に入り…
その後も、早々にベッドに潜り込む。


そして、ベッドの中で…再び、先程の続きを悶々と考え出した。







鷹司綾子さんの話では…、
恭弥さんは…“僕の仕事は、時に危険も伴うから”…という理由で
許嫁の彼女が仕事に関わる事を禁じているらしい。

だから…
同じクルーズ・ツアーに乗っている事が知られたら
“叱られてしまうだろう”…という事で…
先程も、私が1人だけである事をしっかりと確認の上で話し掛けて来たのだとか。


なので…
『恭弥さんには…わたくしが乗船している事を、決して言わないで下さいね。』

と、強く念を押された。



…そして…
『お仕事の期間中の恭弥さんに対して…わたくしの方から、会いに行く事は一切致しません。』
『船内でも出会わないように、極力お部屋から出ないように気を付けます。』


又、寄港地に船が寄った時の事については…
『観光目的で乗船した訳ではありませんし…』
『少しだけ気晴らしに外出する程度に留めて、出来るだけ早目に船室に戻ります。』

…と言っていた。






本当は…もう、今回の仕事は全て終わっている。
今の、このクルーズは…おまけのプライベート旅行であり、
仕事の為に乗船している訳ではない。

だが、その事実を…
許嫁である彼女に伝える訳にはいかないだろう。

まさか…
“恭弥さんに告白されて、この旅行中に返事をする事になったのです”
…なんて事を、言える筈もない。



ただ、恭弥さんについては…
旅行中でも草壁さんと連絡を取り合って仕事をしているので
“今でも、仕事中”というのも…全くの嘘という訳ではない。

そう自分で自分に言い聞かせて
…別に騙している訳ではない…よね…
と心の中でこっそり呟く。








先程の話を受けて…さり気無くでも良いので
私への告白の真意を、恭弥さんに聞く勇気は…今の私には無い。

…正直、怖くて…聞けない。

恭弥さんの本音を、確認するのが…怖い。




恐らく…
恭弥さんの性格上、お遊びではないとは思うけれど…

もしかしたら…
“思い掛けない真実(又は裏話?)”を聞く事になるかもれないのが怖いのだ。

“嘘ではないけれど…実はね…”
…という背後の事情のような物があるかもしれない。


『真剣な恋をすると臆病になる事が増える』と、良く聞くけれど
…本当にそのようだ。





(…………。)







つい先ほどまで…悩んでいた内容とは、
一気に別の内容の悩みに変化してしまった。

結局、色々と考えても…
恭弥さんが私に告白した真意は分らないまま。



でも…何か理由があったとしても…
そして、本気で私の事を好きになってくれたのだとしても…
許嫁がいるような方と、お付き合いをするような事は出来ない。

誰かの幸福を犠牲にしてまで幸せになりたいとは思わないし…
世間一般的に見て…
道義的な事に反するような行動はしたくない。

『人様に、後ろ指を指されるような事だけはしないように』
…と…
幼い頃から、繰り返し祖父母にも言われて育った。

…つまり…
許嫁がいる事が分った恭弥さんとは…お付き合いは出来ない、という事だ。




となると…必然的に…

恭弥さんへのお返事は、迷いなくNOという事で決定だ。






しかし、それを伝えれば恐らくは
『どうしてNOなのか理由を教えて』と言われるだろう。
何か恭弥さんが納得する理由を言わなければ、とてもではないが
…恭弥さんは引き下がらないと思う。

何しろ…
私が恭弥さんの事を好きである事は、もうしっかり伝わっているのだ。
それなのに
『お付き合いは出来ません。恋人にはなれません。』
と答える為には…
何か、尤もな理由が必要だと思う。

でも、今は適当な理由を見つける事が出来ない…。






真実の理由である…
“許嫁がいらっしゃる方とのお付き合いは出来ません”
という事を言えない以上
何か、他の理由をつけてお断りしなければならない。

上手く、納得して貰える内容を何とか考えなければ…。




(…………。)




ベッドに潜り込んだまま
…悶々と、同じような事ばかりを考えてしまう。

混乱状態のままの為、あまり冷静には頭が働かない。


もう、いい加減にして寝ようと思っても…なかなか寝付けなかった。





(…………。)





そうして…

何時間もモヤモヤを抱えたままでいたけれど…、

流石に瞼が重くなり…漸く、夢路についた。






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