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虹の彼方 173






1人、カフェに残された私は…
茫然とした心持のまま、その場から動けないでいた。

空になったカップを前に…
頭の中がぐちゃぐちゃにグルグルと回転する。



恭弥さんには、ちゃんとした許嫁がいるのに…
私と付き合いたいとか…
恋人になって欲しいと………言ったの?



ちょっと…訳が分らない。

一体どういう事なのだろうか?






もしかして…
あの告白も何もかもが…演技だったのだろうか?


最初から全て、からかわれていた…のだろうか?
全ては恭弥さんの遊びだったのだろうか?






…又は…
こんな事は考えたくもないけれど…

恋愛と結婚は別と考えていて
例え許嫁が居ても、正式に結婚するまでは
遊ぶのは自由だと考えている…とか?

いや、でも…
そんなタイプには見えないのが正直な所だ。
恭弥さんは、どう見ても所謂…遊び人タイプではないと思う。



だって、もし、そうなら…
私でなくても幾らでも、お相手は見つけられた筈だ。

恭弥さん程の人ならば…
何もしなくても、女性の方が寄って来るだろう。
先程、鷹司綾子さんも…恭弥さんに恋焦がれる女性が大勢いたと言っていた。
でも、恭弥さんの方が…
“拒否オーラ全開”で女性の方が近づけなかったのだろう。






それとも、もし仮に…今回の私に限って…
からかったというか、遊ぶつもりだったのだとしても…

途中まではゲームとして、私を落とすのを楽しんでいたのだとして
オーストラリアで告白するまで待ってなくて、もっと適当な理由を付けるなり
或いは少し強引に…さっさと恋人になった、という事にして
私に手を出していたのではないだろうか?

何しろ、毎日同じ部屋に寝泊まりしていたのだ
…チャンスはいくらでもあった。



そして…
例え少し強引に手を出したとしても、誰も止められる人はいない。
その事が知られれば…
リボーンやツナ達には非難されるかもしれないけれど。

そんなの…私も同意の上だと言えば終わりだ。
実際、もしそうなっていたら…惚れた弱みで…
私は自分の意思であったと告げて、恭弥さんを庇う行動に出ると思う。





というか…寧ろ…
これだけ一緒にいる状況で…
お風呂上りの姿も、寝起きの姿もお互いに何度も見る環境で…

男性的には少し困る場面も多々あったと思うのに…
キス以外は全く、手を出す素振りが無かったのは…逆にスゴイ事だと思う。

その唯一のキスだって、触れるだけの優しい物だ。
それにキスが仕事上に必要な事も…
確かにあったので、仕事の為である理由も…間違いなくある。








私には男性の気持ちが、そんなに理解出来るわけではないけれど
…さっき読んだ恋愛小説にも…

好きな女の子の手を触れたい…
キスをしたい…
もっともっと本当は触れ合いたい…
感じ合いたい…

でも、彼女を傷つけるかもしれないと恐れて出来ない…
という感じの…
恋愛が初めての、とても純情なタイプの男性側が、
悶々と葛藤する場面が何度かあった。


偶然、湯上りの彼女を見て…
衝動的に抱き付いて強くハグしてしいまい、彼女を驚かせて謝る場面もあった。
あれが…初めて恋する男性の普通の姿だろう。

男性の側の…
「君が好きだから…だから、もっと君と触れ合って、君を感じたいんだ!」
「もう僕には、この感情を抑えられない!」
という台詞もあった。






女性の“ただ隣にいるだけでも幸せ”…という物と
男性の感情というか、生理は少し違う。

これは性格云々ではなくて、
男性の本能が…そういう物であるらしい。


年齢を増したり、恋愛に慣れている人の場合は
…少しは違って来るらしいけれど
普通の健康的で若い人の場合は、それが当たり前の事であるらしい。

…という事ぐらいは、知識的に…知っている。

…一応、ね…。




そして、好きな相手でなかったとしても
…そのような気持ちになる事があるのが男性だとも聞く。

恋愛感情に関係なく…衝動として、
本能を制御するのが大変に感じる事が時々ある…のだとか。
特に10代、20代は感情を抑えるのが大変な程であるらしい。








それを考えると…恭弥さんの徹底した紳士振りは、
相当にスゴイ事なんだろうと…思う。

余程、自制心や忍耐力が強くないと…
こんなに長期間に渡り
“紳士で居続ける”事は厳しいのではないだろうか?



恭弥さんは、何事に於いても強靭な精神力を発揮する人なので…
それを知っているので、私も信じていられたけれど…
もし、今回の相手が違う人だったなら、
…怖くなって、途中で逃げ出したかもしれない。

つまり…
ここまで自制心を発揮した“完璧な紳士ぶり”を考えれば
“お遊び”の為に、私に演技で告白したという可能性は低い。

というか…恐らく、ない。



(…………。)






となると…一体、どういう事なのだろうか。

今回の仕事の内容は、
恭弥さんが意図的に組んだ物である事は、先日聞いた。


その目的が、私とより親しくなり恋人になる為であった事も…
今までの…恭弥さんの気持ちも聞いた。

そして、あの時の話に…嘘は感じられなかった。
寧ろ、とても真剣な気持ちが伝わって来た。

それに普段から恭弥さんは、
余程必要がある場合でもなければ…嘘は吐かない人だ。




(…………。)








…今まで上げた仮説…
恭弥さんのお遊びでも、からかいでも、演技や嘘でもなければ…



他に考えられるのは…

許嫁はいるけれど…
私の方を真剣に好きになってしまった…という事ぐらいだろうか。

…でも…
それはちょっと…私に都合の良い仮説のような気がする。




先程会って話した鷹司綾子さんは…とても素敵な女性だった。
年齢的には、近いと思う。
もしかしたら1つか2つ上位かも…しれない。

とても美人だったし、恭弥さんのように
…全ての所作に優雅さを感じる優美な方だった。


透き通るような色白の肌に…
腰まである長く艶やかな黒髪。長い睫毛に、発色の良い唇。
そのコントラストが際立って美的。

そして丁寧で、少しゆっくりに感じる品のある話の仕方。
良家のお嬢様である事を言わなくても
…そのオーラで分かるような上品な大人の女性。

普通に街中を歩いていれば…
多くの人が振り返るのではないか…と思える程の方だ。






家柄的にも、釣り合いが取れていて…
あれ程までに、美しく魅力的な申し分ない許嫁がいるのに…
隣に並べば…
“とてもお似合い”だと誰もから賞賛されるであろう相手がいるのに…
私の方を好きになるなんて事が…あるだろうか?

余程、物好きな人ならば別だけれど
…普通の感覚なら、それは無いと思う。



恭弥さんは、確かに少し?変わった所がある…とは思う。
独特の世界観とか基準を持っている人だとは思う。


でも恭弥さんが…
そんなに“物好き”な人であるという確信は…正直持てない。
あの素敵な許嫁を上回るような…
恭弥さんを魅了する程の物が私にあるかと考えると…疑問しか浮かばない。




もしかしたら…という一抹の気持ちも正直、あるけれど…
でも、冷静に考えれば…
常識的に考えれば、この理由はない…よね。

まぁ、恭弥さんに一般的な常識を当て嵌めて考える事は、どうなの?
とも思うけれど…





(…………。)





ふと、イタリアでアレックス夫人に…
『誰かと比べて優れているから、貴女が好きな訳ではないと思いますよ。』
…と言われた事を思い出す。


確かに…
恭弥さんは、打算的に比べて『こっちの方が条件的に良い』
という事はしない人だとは思う。

でも、そうすると…
家柄や容姿や、その他の諸々の条件などを総無視して
純粋に、私の方が好きになった……って事?




いや、でも…
そこまで気に入って貰える程のスペックが…本当に私にある?
…先日の告白の時に、恭弥さんは凄く私を褒めてくれた。
気に入っている部分を、口に出して言ってくれた。

でも、聞きながら…正直、褒め過ぎだと思った。
恭弥さんは…私の事を買い被り過ぎている、よね…。




あの雲雀恭弥であっても…
恋は盲目…になる、という事なのだろうか…?



…う〜ん…。




(…………。)




(…………。)













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