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虹の彼方 171





船内のオープンカフェで
注文した珈琲を飲みつつ、持参していた本を読む。

オーストリアの書店で見つけた恋愛小説数冊を
今回の旅行に持って来ているのだ。


正直、こんな本を読んでも…どこまで役に立つか分らない。
それでも、何か少しでもヒントになれば良いと思って
軽く読めそうな物を買った。




読み進めると…
成程〜とか、あぁ自分にも覚えがある!という描写が出て来る。
人や時代や国が違っても、
恋に悩みが伴うのは万国共通であるらしい。

大昔から、皆…
恋に夢を見て…恋に夢破れ…恋や失恋をする事で人間的に成長し…
時には、精神を病む程に悩み苦しみ
…様々な“ドラマ”を生み出して来たようだ。

恋をする、という事の中に…
如何に多くの学びや試練があるのか…気が遠くなる程だ。




そして…何時の時代も、恋の仕方に“正解”はない。
よりよい対処の方法…は何となく?あるようだけれど
「これが正解」というものはないのだ。

それぞれの人に、それぞれのドラマがある。


そもそも皆、性格も環境も違うのだから…恋の行方も違って当然だと思う。
それでも他人の経験は、ある程度は参考にはなる。
知らないよりは、知っていた方が良い。

けれども…
自分が小説や映画で学んだ展開に、現実がなってくれる事は殆どない。
まぁ、当たり前の事だけれど。


という事は…やはり…
これは自分自身で、真正面から向き合うべき問題のようだ。







…と、そんな事を考えて、
ふぅ〜と溜息をついてボッーとしていた時…

クルーが、少し離れた位置にある廊下を通りつつ…
「お部屋は、こちらです…」
と、ひとりの女性を案内しようとしている光景が目に入った。


どうやら途中からツアーに参加する人のようだ。
きっと、バルセロナから乗船するのに間に合わなかった人なのだろうな…
と思いつつ、ボンヤリと遠くからその東洋系の美人さんを眺めて…

…とても綺麗な人だな…
と思いつつ、後ろ姿を見送った。









その後、ディナーの時間に合わせた着替えの為に一旦お部屋に戻る。

夜の時間帯のドレスコードに合わせた着替えをして、
恭弥さんと一緒に食事に行った。

食事がもうすぐ終わる…という頃に…



「…優衣、悪いが今夜は君に付き合ってあげられそうにないんだ。」
「この後…ひとりでも大丈夫かい?」



「お忙しそうですね。…お仕事ですか?」



「…ちょっと、色々とあってね。」



「私は大丈夫です。」
「読みたい本があるので…図書館にでも行きたいと思います。」



「そう。…付き合えなくて悪いね。」



「本当に…ゆっくり読みたい本があるんです。どうか気にしないで下さい。」



恭弥さんは、少し心苦しそうな顔をしたが…
仕事で忙しい人に向かって
“私を優先して付き合って欲しい”などと我儘を言うつもりは毛頭無い。










食事の後に、一度恭弥さんと一緒に部屋に戻り
…私は、先ほどの読みかけの恋愛小説を手にもって
真っ直ぐに図書館に向かった。

夜の時間帯である為か、室内には…
女性が1人、何かを熱心に読んでいるだけだった。



私は、座り心地の良さそうなソファーに座り
…ゆったりとした気分で、先ほどの続きを読み出した。
そうして熱心に読んだお陰で…
暫くした所で読了する事が出来た。

ハッピーエンドの物語であったので
気分良く読み終わり、満足感に浸っていたが…
ふと、喉の渇きを覚え…カフェに行く事にして移動をする。










カフェの海を眺める事が出来る場所に座って…ホット・ジンジャーティーを飲む。

夜中の海は真っ暗で…少しだけ怖くも感じる。
穏やかに滑るように進む船のエンジンの音と波の音が…
周囲の暗闇に溶け込んで行くようだ。


視線を上に向けてみると…三日月位の月と、満天の星空。
船内の灯りが多いので、
そこまでキレイに見える訳ではないが…
それでも普段、日本の都会で夜空を眺める時と比べると
…遥かに多くの星々が輝いているのが見える。






船が起こした潮騒の音を聞きつつ、
先ほどまで読んでいた恋愛小説の事を考えていたら…


「あの…藤宮優衣さん…で、間違いはございませんか?」


…と…突然、日本語で声を掛けられて
…驚いて、声の主を見ると…
そこに居たのは…先程クルーに案内されていた美しい女性。

どうして…私の名前を知っているのだろう?
と疑問に思いつつ答える。






「…?…はい、そうです。…あの…どちら様でしょうか?」



「…はじめまして。わたくしは、鷹司綾子(たかつかさ あやこ)と申します。」



と、ニッコリと優雅な笑顔で微笑みつつ…自己紹介をされた。
鷹司家と言えば、皇室にも連なる名門の家柄だったと記憶している。

そんな人が、どうして私の名前を知っているのだろうか?
それに…一体、何の用事があるのだろうか?

そう疑問符を浮かべつつ…
私の隣で立っている人を見上げた。







と、その女性は…

「同席させて頂いても、宜しいですか?」

と尋ねて来るので慌てて…



「…あ…、はい、どうぞ。」

と答えると




「有難う。…失礼致しますわね。」


と言いつつ…
実に優美さを感じる所作で、向かい側の席に腰を下ろした。
何て美しい動きなのだろうか…と感心しつつ見ていたら…






「突然話し掛けて、ごめんなさいね。」
「…あの…お邪魔ではなかったでしょうか?」



「いえ…本を読み終わって休憩していた所ですので大丈夫です。」



「…そうでしたか…」
「わたくし、以前から貴女とお話ししたいと思っておりましたの。」



「…どうして、私の事をご存じなのですか?」
「どこかでお逢いしたでしょうか…?」



「わたくし達は、今日が初対面ですわ。」
「でも、わたくしは…少し前より藤宮さんの事を存じております。」



(…?…)



「恭弥さんが…女性をお連れになって、欧州旅行をしておられると知らせを受けて以来」
「どんな方をお連れなのかしらと…ずっと気になっておりましたの。」



(…っ!…)


鷹司綾子と名乗った女性の口から
…恭弥さんの名前が出た事に…驚く。

この人は…恭弥さんの知り合いの方なのだろうか?









「あの恭弥さんが…まさか、女性連れで旅行をするような事をなさるなんて…」
「聞いた時は、直ぐには信じられませんでしたわ。」



そう言いつつ…
その美しい顔を真っ直ぐに向けられて…少したじろぐ。



(…………。)



「一体、何がどうなったのかしら…と暫くの間、頭が混乱した程でした。」



「単なる普通の旅行ではなくて…恭弥さんの仕事のお手伝いの為に、同行しているんです。」


この女性は、恭弥さんの事を知っているようだけれど
…まだ相手の事がハッキリとは解っていない。
だから…
仕事の設定上の会話にした方が良いだろうと思って…
慎重に言葉少なめに…答える。








…すると…


「…ええ、存じておりますわ。」
「藤宮さんは風紀財団の方ではなくて、本当はボンゴレのボスの秘書なんですってね。」
「今回はお仕事の為に…特別に恭弥さんの“恋人兼婚約者の役”で同行を頼まれたのでしょう?」



(…っ!…)


どうやら…
今回の仕事の裏をある程度知っている人物のようだ…

これ以上余計な事を言う前に、
相手の事を先に探るべきかもしれない。






「…どうして…そんな事をご存じなのですか?」
「貴女は…一体、何方なのですか?」





じっと真剣な目で…鷹司綾子さんを見つつ尋ねると

ニッコリと…

実に優雅に柔らかく微笑みながら…





「…わたくしは…恭弥さんの許嫁です。」




(…っ!!?…)













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