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虹の彼方 170





恭弥さんとダンスをしつつ、
ひとり無言で、悶々と考え事をしていると…


「…難しい顔をしてるね。」


と小さく囁くように恭弥さんに声を掛けられて…ハッとする。






(…っ!…)
「…少し、考え事をしていました。」



「君が何を考えていたか…想像はつくよ。」



…やっぱり…バレているみたい。



「…すみません。」



「幾らでも好きに考えて構わないよ。…1人になりたいなら、遠慮なく言って。」



「いえ、今は…大丈夫です。」



「…そう。」







まだ全く、頭の中は真っ白なままだ。
どう返事をするべきなのか、検討もつかない。

今の状態で1人になった所で、考えがまとまるとは思えない。

でも、もしかしたら…
恭弥さん的には早く返事を貰ってスッキリしたい…のかもしれない。
普通に考えたら、それは当然の事だ。



「…あの…直ぐには、お返事を差し上げる事は出来そうにありません。」
「…すみません。」


今日や明日の間には返事が出来そうにない事を告げると…


「問題ないよ。」
「僕は、君の気持ちが落ち着くのを…ゆっくり待っている。」


穏やかな声で、そう答えてくれた事に安堵する。







「…有難うございます。」


ホッとして、少し微笑むと…


「折角、一緒にダンスしているんだから…」
「そうやって笑顔になってくれたほうが、僕も嬉しいよ。」


そう話つつ…恭弥さんも笑顔になる。






その笑顔に釘付けになり…無意識に暫くの間凝視してしまった。
ボーとしたまま踊りつつ、少しして…
自分が、ごくごく間近で恭弥さんを見詰めていた事に
ハッと気が付いて…
…急に恥ずかしくなり、慌てて俯く。

そんな様子を見て、小さくクスリと笑う恭弥さん…。




…何をやっているんだろう…私…。

すごく…恥ずかしい。







私は今のように…
恋愛初心者ぶりがバレバレな態度が、まだまだ抜け切らない。
それなのに、オーストリアで恭弥さんに告白された時に、
まるで“恋の駆け引きを仕掛ける”ような事をしたのが
…自分でも不思議に思える。

でも…今更、引き返せない。



そんな事を思って顔を上げると…



「…優衣。…また難しい顔に戻ったよ。」


と少し呆れたように言われ…慌てる。



あぁ、私は一体何をしているんだろう!
ついさっき、注意されたばかりなのに…!

そう思って、無理矢理に笑顔を浮かべると…
何とも言えない苦笑をした恭弥さんの顔が、目の前にあった。










その後、ダンスを終えて飲み物を頂いていると
…数人の人から順番に話し掛けられる。

やはり…
今回も恭弥さんの優雅で完璧なリードは目立っていたようで
どの人も皆…とても感心したように褒めてくれる。

それらに笑顔で応じつつ適度に会話に応じ、
次のワルツも一緒に踊ったら…
更に多くの人の目について、
私達に話し掛けて来る人数が、更に増えてしまった。



う〜ん…

私の地味目のドレス位で“目立たない”などと思ったのが間違いだった。

恭弥さんという人は、普通にしていても
衆目の注目を集めるオーラを持った人なのだ。



その上、こんなに素敵なダンスを踊る所を目にしたら
…こうなるのは当然の事だった…

このままココにいたら、イタリアの最初のパーティの時のように
大勢に囲まれて身動きが取れなくなる可能性がある。

という事で…恭弥さんと目で合図をして…
早々にその場を離れ自分達の部屋に戻る事にした。











部屋に戻った後に…
明日の寄港地である、モンテカルロ(モナコ公国)で
どうしたいかを恭弥さんに尋ねられる…


「モンテカルロでの過ごし方の希望はあるかい?」



「出来れば行く場所を数か所に絞り、ゆっくり過ごしたいです。」



「そう…なら、君の行きたい場所を決めておいて。」



「はい、分りました。」



「ただし…旅行会社の企画している観光ツアーに参加して群れたくないから」
「自由行動で、行きたい所に行く形で良いかい?」



「はい、勿論それで良いです。」
「その方が…自分達のペースで回る事が出来ますし。」







+++++


++













…翌朝は…
予定通りにモンテカルロに到着し、早速下船をして…
事前にネットで情報収集した観光ガイドを元に、
恭弥さんと二人で見て周る。




モナコは、バチカン市国に続く世界で2番目に小さな国。
市内がそのまま国土という狭さだ。


モナコと言えば…
タックス・ヘイブン(所得税を課税しない租税回避地)である為、
世界中のセレブが集まっている国であり、
F1グランプリやオペラ、外国人向けのカジノ等が有名だ。

けれど私達は、カジノ等へは向かわずに
…博物館の見学をしたり、のんびりと散歩をしたり
少しだけショッピングも楽しんだ。





ゆっくり見て回り、美味しい物も色々と堪能して…
大満足をしつつ船に戻る事にした。

少々歩き疲れたけれど…とても楽しかったな、と思いつつ
乗船の手続きをして船内に戻り、
夕食までの間は、ぞれぞれゆっくり過ごそうという事になった。



恭弥さんは…


「僕は、部屋で少しする事があるから…好きに過ごしておいで。」


と言ってくれたけれど…
あれは恐らく、仕事があるのだろうと思う。

今回入手した情報の事で何かあるのか、
又は、全くの別件なのか、詳しい事は分らないけれど…
今日の観光中も、何度か草壁さんと連絡を取り合っていたし
…何だか忙しそうだ。




オーストリアで今回の旅行の予定を立てる時に、
仕事の面では問題ないような事を言っていたけれど…
やはり、全く仕事がない訳ではないようだ。

まぁ、当然と言えば当然だろう。
風紀財団が…何か事を進める上で…
恭弥さんの決済が必要な物はとても多い筈だ。

今回の旅行はもしかしたら…
私の返事を聞く為に少し無理をして時間を作ったのかもしれない。




忙しい恭弥さんの邪魔をしたくないし…
船内の、デッキ階にあるオープンカフェに行き
ひとりで…休憩する事にした。













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