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虹の彼方 169





私達のお部屋には、専用のバトラー(執事)もいるお部屋だったが
当然のように恭弥さんは…
乗船時に多額のチップを渡した上でサービスを断ってしまった。

だから何時ものように
自分達で全部の荷物整理をして、それが終わった所で…
恭弥さんと一緒に少し船内にある設備を確認して回った。





良くある豪華客船の設備内容とほぼ同じようだ。
広い艦内には、本当に…これでもかという程の娯楽施設が整っていた。 


食堂関係は…広いメインダイニング以外にも、
各国料理の専門店が色々とあり和食のお店もある。
当然、カフェ、普通のバー、ジャズバーもラウンジも数種類ある。
食事をするのにも、毎回選択に困りそうな程。

ショッピングゾーンは、世界的有名店が軒を連ね
…そこだけでも迷子になりそうな広さ。


更に劇場や映画館も大中小あり、大きなカジノは勿論、
スポーツ施設も…
ジムやテニスコートやスカッシュコートをはじめ、あれもこれも揃っている。

例えばプールだけで…
デッキ階にある大型の波の立つメインプールをはじめとし
競泳も出来る物から、子供用、スライダー付き、サーフィン用、水中歩行用、ジャグジーなどなど…

他に、大小のダンスホール、サロン、フィットネス、スパにエステ、
図書館やコンピュータ専用ルームもある。

…兎に角、スゴイ数の施設数だった。







こんなの…とても2週間程度では遊び尽くせないと思う。
だって、船上以外に寄港する町での観光やショッピングなどもあるのだ。

全ての寄港地での観光参加は任意…つまり行きたい人だけが行くので
行きたくなければ下船しなくても良いのだけれど
…折角のツアーなのだし、体調でも崩さない限り殆どの人が、
それぞれの観光地も楽しむのだろうから
…2週間やそこらでは全てを遊び尽くすのは、やっぱり無理そうだ。



それでも、ここまで何でも揃えて見せて…
『さぁ、お好きに時間をお使い下さい』
とメニューを広げるのが、この手の豪華客船の売りなのだろう。

この船は、各国のセレブ達も度々利用する事があると聞いたけれど、
成程…と、納得の設備内容だった。





そんな事を考えつつ、
贅の限りを尽くしたかのように見える豪華客船の船内を
…ゆっくりと見学して回った。

そうして…初日は…
スペインのバルセロナへの移動と簡単なバルセロナの観光。
クルーズ船への乗船、そして荷物の片付け、船内の見回りだけで終わってしまった。





++++

++








翌日は、何処にも寄港せず1日船上でゆっくり出来る日だったので
真っ先に、美容室(ヘアサロン)に予約を入れた。

英国で行って以来…
行きたいと思いつつ行く事が出来ていなかったのだ。
これで気になっていた髪を整える事が出来た。



「一緒に行きませんか?」

と恭弥さんを誘ってみたら…


「うん。…行こうか。」

との返事だったので二人で一緒に行ったのだけれど…



仕上がりに鏡を見て

「…切りすぎ。」

…と、不満そうに日本語でポツリ。



確かに…全体的に今までより少し短くカットされたようだ。
カットして貰っている間は寝ていたので、
短くされている事に気が付かなかったのだろうか?

でも、別に印象が変わる程ではないし…普通に格好良いと思う。
私は伸びた分を切り揃えて貰っただけなので…殆ど変化はない。









その日の夜は…
キャプテン(船長)主催のウエルカムパーティーがあり、
皆思い思いに着飾って参加をする事になっている。



恭弥さんは、本当はこんなパーティは好きではないと思う。
けれど…恐らくは私に気を遣ってくれたのだろう


「…折角だから、行ってみようか?」

と誘ってくれた。






ドレスコードは、ブラック・タイ(フォーマル)。

従って恭弥さんは、タキシードに蝶ネクタイという姿。
私は…
持って来ていたイブニング・ドレスの中から派手過ぎず地味すぎない物を選ぶ。
変に目立ちたくはないので着物は止めた。


それにきっと…ダンスの時間もあるだろう。
ダンス向きのドレスを選んだ方が良いだろうな…
と思って無難そうな濃紺のシンプルだが上品で優雅なデザインの物を選ぶ。

濃紺だが、光沢のある独特の生地なので、
そこまで地味に見えない不思議なドレスだった。



ジュエリーは、ドレスに合わせ
濃紺のミッドナイトブルーサファイアをメインにして作られた品を選んだ。
濃紺の中に…時折パープルの彩りを見せる事のある珍しい高価な宝石だ。





私の姿を見た恭弥さんは…


「上品で落ち着いているし、その色は肌がとても綺麗に見えるね。」


と微笑しつつ言ってくれた。


恭弥さんに褒められると素直に嬉しい。
それに“お墨付き”を貰うと少しだけ…自分に自信が持てる。








会場に行って見ると、既に多くの人が会場に居て歓談をしている。
大型船なので人数もとても多い。
聞こえて来る言語も、何種類もある
…数人、日本人らしき人の姿も見掛けた。


船長が挨拶をし、主要クルーの紹介などお決まりの幾つかのプログラムの後
静かな音楽が流れ、ダンス・タイムに切り替わる。

一部の方々はレストランやバーなどに移動したり、
或いはデッキやホールに向かう人もいる。


適度に人数が減った所で、優雅にダンスを始める人達。
それを見て…
恭弥さんが、穏やかな笑みと共に手を差し出して来た。


「…踊ろうか。」


「…はい。」






そのままダンスの輪に入り、
お互いに無言でゆっくりダンスをする。



私は踊りつつ…
今回の旅行の切欠になった恭弥さんの言葉を思い出していた。



『先ほどの返事を…』
『その旅行の期間内の君の好きなタイミングにする…というのはどうだい?』
『旅行の初日でも良いし、最後の日でも…何時でも良い。』




恭弥さんに告白されて…その返事を引き延ばした事で、
このクルーズ・ツアーの間に返事をしなければならない事になった。

あの時は12日間もあれば、
十分にゆっくり考えられるだろうと思ったけれど
実際は、移動時間や寝る前などに少しだけ考えを巡らすだけで
…ゆっくりと考える時間はまだ持てていない。

私は、そんなに器用な質ではないので…
色々な事をしつつ同時に何かを深く考えるのは…正直、苦手だ。




…こんな事で…

本当に、旅行中にちゃんと考えた返事をする事が出来るのだろうか?

…と少し、不安に思う。






















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