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虹の彼方 17




暫く走って、静かに車が停車した。

「…恭さん。着きました。」



草壁さんが声を掛けると、
雲雀さんが、ゆっくりと目を開ける。

それを確認した草壁さんが、素早く雲雀さん側のドアを開けた。


自分でドアを開けて出ようとしたら、
草壁さんが、私の方のドアも開けてくれた。


「有難うございます。」

お礼を言って外に出る。







車が到着した先は、有名な老舗の呉服屋さんの前で…
店主らしき人が、前に進み出て挨拶をする。


「お待ちしておりました、雲雀様。」
「本日は、わざわざお越し頂きまして有難うございます。」



「…急な依頼で悪いね。」



「いえいえ、私共がこうして商いをさせて頂けるのは、雲雀様のお陰でございますので。」
「…何時でも何なりと、お申し付け下さいませ。」



「宜しく頼むよ。」



「はい。準備は出来ております…此方へどうぞ。」





そのまま店主に案内されて、店の奥の部屋へ案内された。

其処には、ひと目で高級品だと分かる品々が綺麗に並べられている。


…凄い。
どれもこれも一級品ばかり…。


聞かなくても分かる。
…とてもでは無いが、
私が手の出せる値段の品々ではないのは明白だった。





今日の買い物は全て、
風紀財団で出してくれるとは聞いているけれど…
幾ら仕事の為とはいえ、これは…ちょっと。

と、考えていると…
雲雀さんが声を掛けて来た。




「どれでも、好きなのを選んで。」



「…あの…。こ、この中から選ぶのですか?」



「…不満かい?」



「い、いえ…不満なのではなく…」
「あの…私には不釣り合いな程の、良いお品ばかりのようですので…」



「…?…。そんなに遠慮する程の物じゃないだろ。」
「言っとくけど、これ以上ランクを下げるのは却下だよ。」



「…で、でも…お値段が…」








私の言葉を聞いて、雲雀さんが溜息をつく。


「今日の買い物は、全て風紀財団で出すと、哲が伝えなかったかい?」
「…金銭の心配なんて、しなくて良い。」



「…ですが…」




そう聞いても、
直ぐには
『では、この中から選びます』とは言えずに俯いていると






今度は…少し機嫌の悪そうな…
先ほどより、低い声がした。



「君は、欧州で僕と行動を共にするんじゃなかったの。」
「…僕に、恥をかかせるつもり?」






その言葉を聞いてハッとする…

…そうだったっ!



今回の任務での雲雀さんは…
『最近急速に…全世界的に社業が伸びている“貿易商の代表”という人物像で欧州に行く』
のだった…

欧州で、更に販路を広げる為に、
“今後の取引を出来そうな相手を、探しに来た…”という設定なのだ。



ターゲットに興味関心を持ってもらう為にも、
とても“羽振りの良い所”を見せ、
会社の事業が、今後も益々上手く行きそうな雰囲気を出す…と言っていた。




となると…
同伴している私が、質素な身なりをする訳にはいかない。

それなりの物を纏って隣に居ないと…可笑しい。




私とした事が…
目の前に並ぶ素晴らしすぎる商品達に気が動転して、
そこまで考えていなかった…。

それに…
これ以上、雲雀さんを不機嫌にさせる訳にはいかない。

ここは大人しく指示に従うべきだろう。




「…すみません。其処まで考えていませんでした。」
「この中から、選ばせて頂きます。」



考えが至らなかった事を謝り、
反物をもっと良く見ようと身体を乗り出した。









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あきゅろす。
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