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虹の彼方 168




12日間のクルーズ・ツアーに参加する事になった私達は…
ツアー当日の朝にオーストリアから
プライベートジェットで、スペインのバルセロナ・エル・プラット空港まで飛んだ。



その後、時間潰しを兼ねた、簡単なバルセロナ観光を少しする。

一度は見たいと思っていた…
アントニ・ガウディ作のサグラダ・ファミリア教会や、
ミロやピカソの美術館など、特に行きたい所だけに絞り、ゆっくり見学をした。

流石、世界的にも人気の観光地なだけあって、
何処に行ってもそこそこ人が多い。





恭弥さんは、何度もスペインにもバルセロナも来た事があるらしいが…
わざわざ観光をした事はなかったようで
それなりに楽しんで一緒に観光してくれたようで…良かった。

そして当然のように、スペイン語もペラペラだった。


「スペイン語を公用語としている国は多いからね。」
「円滑に仕事を進める為に、勉強して覚えたんだよ。」

…と、ごく当たり前のようにサラリと言われる。



恭弥さんは、とても簡単に言うけれど
これだけ沢山の外国語を習得するのは、そう簡単な事ではない。

特に言語体系的にも系統的にも少々特殊な日本語を使う
日本人にとっては…結構大変な事だ。
欧州人が数ヶ国語を操るのと、日本人が欧州の言語を数ヶ国語学ぶのでは
その難しさに…各段の違いがある。

やはり恭弥さんは…見えていない所で凄く努力をしている人なのだ。



一方私は、スペイン語はやっと日常会話を話す事が出来るレベル。
観光ならあまり困らない程度なので何とかなったけれど、
もっとちゃんと勉強をするべきかもしれない。











その後に、バルセロナ港からクルーズ船に乗り込む。

草壁さんの説明では…今回のツアーはクラウスが探してくれて
その上に代金までもをクラウスが負担してくれたらしい。

急遽、クラウスが予約を取ってくれた地中海クルーズのツアーは
かなり豪華な船で、寄港地を敢えて少なくした…ゆったり日程のツアーだった。




早速、宿泊する部屋に案内して貰ったけれど…
その船でも数が少ない一番最上級のロイヤルスイートのお部屋。
…あんなに急だったのに…
良く…こんな部屋が空いていたものだと感心する。

もしかしたらクラウスは、多少無理をして用意をしてくれたのかもしれない。



…お部屋は…
見た目にクイーンサイズのベッドがある寝室スペースと、
リビング&ダイニングのスペース。
船内である為か、各スペースの間にドアがなく、ゆるく家具で仕切られている。
その為、思った以上に室内が広く感じられる。


特徴的なのは海に面している…
お部屋専用の広いプライベート・バルコニーだろうか。
大理石のバスルームからは…海を眺めつつ入浴する事が出来る。

これが船の中だとは信じられない程の部屋だ。

正に…洋上のホテルと呼ぶに相応しい。










申し分のない素敵なお部屋だが、二つだけ…問題があった。

またしてもベッドがひとつしかない。
いや正しくは、二つの大き目のシングルベッドが
ピッタリとついた配置なので…2つあると言えばある。

でも隙間なく置かれているので事実上のダブルベッド状態なのだ。





もう1つの問題は…大きなソファーがない事だ。

リビングにソファーはあるのだが…
船内という事を考慮された大きさというか…
ハッキリ言えば、今までの巨大なソファーに比べて小さい。

いや、これでも十分普通の大きさではあると思う。
今まで宿泊したホテルのソファーが巨大過ぎたとも言える。



この大きさのソファーに恭弥さんが寝ると…ギリギリ…という感じだ。
非常に窮屈な思いをさせて、
恭弥さんにこのソファーで休んで貰うのは正直、とても気が引ける。

私が寝るには、十分な大きさのソファーだけれど
…でも、きっと恭弥さんは
私がソファーで寝るのを…許してはくれないだろう。


「…………。」


どうすれば良いだろうか…。
この場合、どうするべきなのだろうか…。






ピタリとついて置かれたベッドを見て…隙間を空けて置くことは出来ないだろうか?
と思って隅々まで見たが…ベッドはしっかりと床に固定されている。
波が高い時には揺れる事もあるからだろう。

良く見ると、他の大型家具もしっかりと固定されている。
固定されていないのはイス類などの小さくて軽い家具だけだ。
船内の客室としては普通の事だけれど…今の私には困る設備仕様だ。



つまり…
二つのシングルベッドを離して使う事は出来ない。

一緒に隣同士のベッド(という名の1つのベッド)で寝るか…
恭弥さんにあの狭いソファーに寝て貰うか…。

どちらを選ぶにしろ…大変に悩ましい選択だ。







そうして悶々と考えている私の所へ
早くも自分の分の荷物の整理が終わったらしい恭弥さんが来た。



「…優衣。君も荷物の整理をしておいで。」



「…はい…。」





返事はしたが、浮かない顔のままの私とベッドを見て、
…全てを察したらしい恭弥さんが。

「僕は、ソファーで休むよ。」

と予想通りの台詞をあっさりと言う。





今までも、毎回とても心苦しいと思っていたけれど
…今回は特にすぐに頷く事が出来ない。


「…でも…あのソファーは少し小さいと思います。」
「出来れば、今回は私にソファーを使わせて頂きたいのですが…」



「却下。僕が君に…そんな事をさせると思うのかい。」



「……ですが。」
「あれでは、恭弥さんはゆっくり休めないのではないですか?」






私の言葉を聞いた恭弥さんが…


「僕は何時も、今回のように全ての設備が整った環境で仕事をしている訳じゃない。」
「秘境と言われるような…ホテル所か民家も無い地域に行く事だってあるしね。」
「そもそも昔から、必要とあれば道の端でも木の上でも何処でも休める。」



「…そう、なのですか…」




今回は、私が一緒にいるから特別に環境に気を配ってくれた
…という事なのだろうか?

普段の恭弥さんは、極上の環境だろうが、超劣悪な環境だろうが
…それこそ、未開の土地であろうが…
どんな場所でも、どんな場面でも大丈夫な人だという事らしい。







でも、それとこれは…少々話が違うような気もする。

かと言って、私が恭弥さんを説得して
私がソファーで休む事に同意して貰うのも…無理そうだ。

一瞬だけ…

『シングルベッドが二つなので、それぞれのベッドに休む事にしませんか?』

…という提案を口に出しそうになったけれど…
頭の隅の冷静な私が…その言葉を飲み込む。



そんな事を言ったら…
英国で、深夜に恭弥さんの寝室を訪ねた時に、
叱られたような内容を、再び恭弥さんに言わせる事になりそうだ。

…それに…
本当にそんな事をしたら、きっと私は眠る事が出来ないだろう。
隣が気になって、自分の心臓が煩すぎて…
一晩中起きている事になるような気がする。





…仕方ない。

大変に心苦しいけれど…
今回も恭弥さんにはソファーで休んで頂こう。



申し訳ない気持ちを無理に押して、
無理矢理に自分を納得させて、荷物の整理を始めた。
















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あきゅろす。
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