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虹の彼方 167






恭弥さんに、正式に堂々と告白された事で…


…何とも高揚した気持ちと共に…

私の中には…
つい先ほどから…他の小さな感情も生まれていた。




思った以上に、何もかもを
全て恭弥さんの思惑通りに進められていた事が
改めてハッキリと分り
…ちょっと妙なモヤモヤした気持ちが拡がっていたのだ。


今まで何度か小さく感じて来た事が
…再び私の中で大きくなって来た感じだ。



「…………。」








黙って俯いて、何も答えようとしない私を見て、少し焦れたのか
…恭弥さんが口を開く。



「…優衣…?…返事を、してくれないのかい?」



「…………。」



返事をしたい気持ちを…私の中のモヤモヤ感が妨げる。


ここは、素直に返事をして…
“ハッピーエンドを迎える場面”だろうとは自分でも理解している。

もう、私の気持ちをワザワザ言わなくても…分り切っているこの場面で…
“敢えて言葉にしない”…という事に、
どれほどの意味があるのだろうか?とも思う。

…でも…
どうしても素直になれない部分が…少しだけ残っている。







私の様子を見た恭弥さんが…小さく溜息をつく。



「…優衣。…今が、どんな場面か解っているよね。」

「僕にとっては…今回の仕事の計画段階から考えれば、約7ヶ月も時間を掛けて…」
「やっとお互いの気持ちを伝える事が出来るまでになった…という場面だ。」

「ここまで来て…まさか、君からの返事が貰えないなんてね。」
「…流石に、これは完全に予想外の展開だよ。一体…何が不満なんだい?」




恭弥さんの言葉を聞いて
…ゆっくりと顔を上げて口を開く。




「…それが…嫌なんです。」
「恭弥さんの思惑通りに、何もかもを計画の通りに運ばれてしまうのが…嫌なんです。」

「…何もかもお膳立てされていた事が分り…」
「この今の流れでお返事をする事は…何と言うか、その…」
「言わされたという感じがして…後で考えたら本当に自分の気持ちだったのか“流れで”つい言ってしまった事なのか…解らなくなりそうで。」




「僕の立てた計画に、乗せられるのが嫌という事かい?」




「…はい。…だいたい、そんな感じです。」
「お答えしたい気持ちは山々ですが、そうすると後で自分が後悔しそうなんです。」












私の言葉を聞いた恭弥さんが
…少し愉しそうに…フッと笑いつつ…



「…本当に、君は面白いな。」
「優衣と一緒に居ると…飽きないよ。」

「君の心情も行動も…その殆どは推測可能で想定内なのに…時々、そうやって“反抗”する。」

「素直で従順なだけじゃなくて…妙な所で自己主張するのを忘れない。」
「…お陰で、予定変更が多くて…楽しめるよ。」






「…………。」




先程までの、とても優しい雰囲気とは少し変わって
…本当に愉しそうな表情の恭弥さん。

“獲物”が予定外の行動に出たのが…楽しくて仕方ない、という感じだ。



そう心の中で思って…ふと、気が付いた。


…あぁ…成程。




私は…“そう簡単に捕まりたくない”と…
そう思って、最後の抵抗をしているんだ。

恭弥さんは…絶対的な“狩りをする側の人間”だ。
そして、今回の欧州行きの間の私は…
狩られる側の“獲物”という立場に立たされている。

ここで素直に返事をする事は、
狩の終了を意味するように感じているから…返事をしたくないんだ。

流れに流されて…“言わされたくない”と思う気持ちの中に
“まだ終わりにしたくない”という気持ちも隠れている事を発見した。





恭弥さんが仕掛けた

“このゲーム”を…まだ、終わりにしたくない。





…この気持ちは…一体何なのだろう?


返事をしたいのに…しない、なんて…
私が…恭弥さんへの返事を拒否する、なんて…

そんな選択を、私がするなんて。
自分でも不思議に感じる程に、不可解な行動だとは思う。





この状態は俗に言う…

“恋の駆け引き”という物に相当するような気がする。




恋の初心者で、何も解っていないくせに不思議だけれど…
でも、私の本能が…
眼の前の狩人に、このまま簡単に捕まりたくないと言っている感じだ。




だけど、この後いったいどうしたら良いのだろうか?

返事を拒否したまでは良いが…
その後、どんな行動に出れば良いか分らない。

あぁ、こんな事ならもっと真剣に
恋愛物の小説や映画を、しっかり見ておくのだったな…







そんな事を考えていた時
…恭弥さんが再び声を掛けて来た。


「…優衣…。要するに…今は返事をしたくない、という事なんだね?」



「…はい、そうです。…すみません。」



「そう、分かった。僕は返事を強要するつもりはない。」








良かった…
今、この場で無理矢理言わされる事はなさそうだ。



「でも、僕にここまで言わせたんだからね。…せめて、何時返事をするか決めてくれないか。」




「…………。」



あぁ…やっぱり、このまま見逃してくれる訳ではなさそうだ。
まぁ、当たり前の事だよね。

告白されたら…
その時の返事は無理でも、近日中に返事をするのが普通だよね。

う〜ん…でも、何時なら良いのか…分からない。
私の気持ちのモヤモヤ感が無くなるまで…
決断出来るまで…ではダメだろうか?

ちゃんと時期を区切るべきだろうか…。
悶々と悩んでいると…




「決められないみたいだね。…それなら、僕に提案がある。」



(…?…)



どんな提案だろう?
そう思って俯いて考えていた顔を上げて…恭弥さんの方を見た。











「今回の仕事期間は3か月のつもりで準備をして来たけれど…」
「実際には、日程調整用の予備の日も含めると2週間程早く仕事が片付いた。」
「その時間を利用して…明後日から12日間程、一緒に旅行をしよう。」



「…え?…。この後、旅行に行くのですか?でも日本に戻らなくて良いのですか?」



「あぁ、僕は大丈夫だ。」
「でも部下達は、今まで得た情報の本格的な分析で忙しいだろう。」
「だから…彼らは、明日か明後日にでも日本に返す。」
「旅行に行くのは、僕と君の二人だけだ。」



「…でも、あの…私はボンゴレに戻らないと…」



「もし、早めに仕事が片付いても3か月間の期間内は…君の所属は風紀財団だ。」
「ボンゴレ側にも…そう話して了解を得ているから、何の問題もないよ。」



「…そうなのですか。」








「先ほどの返事を…その旅行の期間内の中で、優衣の好きなタイミングにする…というのはどうだい?」
「旅行の初日でも良いし、最後の日でも…何時でも良い。」
「それならば僕に言わされたのではなく、自分で考えて言った…と言えるだろう?」




「…………。」


恭弥さんの提案を聞き…少し考える。




12日間もあれば…どんな返事をすれば良いか…とか。
私のとるべき行動も…きっと考えがまとまるだろう。

それに、旅行という形で…
この“ゲームの続き”をするのは…
直ぐに日本に帰国するより良いような気がする。


そう考えて…返事をする。


「…分かりました。ご提案をお受けします。」
「その旅行中に…先程のお返事を差し上げる事にします。」



「うん。じゃあ、早速…旅行の手配をさせるよ。」




そう言ったと思うと、直ぐにスマホを取り出して
…草壁さんに指示をしている。

もう深夜なのに…
こんな時間から、旅行のプランを立てさせるなんて…
ちょっと草壁さんが気の毒だ…

そう思ったけれど…
きっと、草壁さんにとっては“何時もの事”なんだろう。
電話の向こうの声は、至って普通に対応している。









その後…
シャンパンを飲みつつ、今までの思い出話をしている時に
草壁さんから連絡が入り…
明後日からの…11泊12日の
地中海クルーズツアーの予約が取れたと連絡が入る。


…ん?
地中海クルーズ?

…どこかで聞いたような…と思っていると
どうやらクラウスの持っている企業グループの中の
旅行会社が主催しているツアーらしい。



…もしや…早速…
新しく出来たクラウスとの“繋がり”を利用して予約を取ったのだろうか?

風紀財団が、どんな風にして
世界中に情報網やコネクションの網を張り巡らしたのか
その過程は知らないけれど…

もしかしたら…
今回のクラウスの時のような事を繰り返した結果…
世界中に“顔が利く”ようになったのかも…しれないな。


完全に私の憶測だけれど…そんな事を少し…考えた。








さて…明日はゆっくり疲れを癒すと同時に、

12日間のクルーズ用の荷物を準備したり
もう必要のない荷物は日本に送る準備をしたり…

…という日になりそうだ。







後少しだけ…

“ゲーム”の期間が延びた事に、安堵にも似た気持ちを感じつつ


グラスに残っているシャンパンを
…ゆっくりと飲み干した。












第7章 <心模様> 完



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以上、第7章はここまでです。




☆7章の最後まで読んだ後の…

●「小話 その1」<突然の課題>
●「小話 その2」<吉と出るか凶と出るか>

の2つを『過去拍手の部屋』で公開しています。




宜しければ、そちらもお読み下さい。





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