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虹の彼方 163




クラウスに会った後は…
万が一、誰かにクラウスと私達が一緒にいる所を目撃されると困る…
という事で、あまり長居はしないで早々にレストランを後にした。





レストランまで、車で迎えに来てくれた草壁さんから、
今日、入手したばかりの情報の
調査が済んだ範囲の大まかな概要をまとめた数枚の書類を渡され
それを真剣な表情で確認した恭弥さんは…


「…うん。欲しかった情報が全て網羅されている。」
「それに、予想以上に詳しい研究データだ。」





草壁さんが…

「想定していた以上に、膨大な量の研究実験データでした。」
「恐らくは最低でも3年以上、いや4・5年程度かけたのかもしれないですね。」



「あぁ、そうだね…この内容なら、それぐらい時間が掛かっても可笑しくない。」



「大変に貴重な実験データや、こちらで掴んでなかった情報も含まれていましたし…」
「手間をかけた甲斐がある内容でした。」



「…そうだね。」


答えた恭弥さんの表情は…大変に満足そうな顔だった。












その後、ホテルに戻った所で…
先ずは、順番にゆっくりお風呂に入った後…寛いだ服装に着替えた。

…そして…
恭弥さんがホテルに用意させた、最高級シャンパンであるドンペリニョンを開ける。
今回、予定をしていた全ての仕事が無事に終わったお祝いをする為だ。



薄い琥珀色の発砲する液体を、
優雅な所作でシャンパン・グラスに注いだ恭弥さんが
静かにボトルを置いた後…
ソファーの隣に座っている私にグラスを差し出して渡してくれた。




それを受け取り…お互いのグラスを少し掲げて…


「全ての仕事が無事に終わり、おめでとうございます。…お疲れ様でした。」



「うん。…君も、お疲れ様。」


ごく簡単に、お互いを労う言葉を口にした後
…ゆっくりと高級シャンパンを味わう。




如何にも上機嫌である事が
傍目にもハッキリと解かる様子の恭弥さんは
グラスのシャンパンを一気に飲み、既に2杯目を自分で注いでいる。
それを見て私も、更にシャンパンに口を付けた。







早くも数杯目のシャンパンを飲んでいる恭弥さんを
隣から見つつ…口を開く。


「実は、正直な所…少し無理がある計画に感じていたので、出発前はとても不安でした。」
「でも、ちゃんと全ての仕事を終える事が出来て、今は…心からホッとしています。」


ニッコリと…
心からの安堵を感じつつ素直な感想を述べる。





私の言葉を聞いた恭弥さんは、隣に座る私に視線を向けてくれて
穏やかな表情で…



「…うん。途中で、何度か番狂わせもあったけれど…終わってみれば、全てが満足の行く結果だった。」
「…君が、手伝ってくれたお陰だよ。」



「…そんな、…とんでもありません。私は、大したお役には立っていません。」



「そんな事はないさ。ドイツのハンスの時は勿論、英国のニック、イタリアの件も…」
「そして最後のオーストリアでの成功も…全ては、君が関わった事で良い方向に向かった。」








「でも、…イタリアでは誘拐されたのに…ですか?」



「君が誘拐されたのは…流石に想定外だったけれど…」
「その結果には、とても満足しているし…あれはあれで“成功”と言えるだろう。」



「…でも、私は大根役者なので…」
「恭弥さんの足を引っ張る事のほうが、多かったのではないでしょうか。」



「(クス)…クラウスに、君の事を大根役者と言ったのを…拗ねているのかい?」



「私が大根役者なのは事実ですし…別に…拗ねているわけでは…」







「あの言葉は…“誉め言葉”のつもりなんだけれど。」
「…優衣…。…君はそのままで良いんだ。」
「大根役者であるという事が…君の取り柄のひとつなんだから。」



「…あの、…正直、今のお言葉は…」
「褒められているのか貶されているのか…良く分かりません。」


名女優になりたいと思っていたのに
…大根役者で良いと言われ…
どう反応すれば良いか困惑した私は、話しつつ恭弥さんをじっと見る。




…と、少し微笑した恭弥さんが…

「…その件は、後で説明してあげよう。」








そう言った後、
残っていたグラスのシャンパンを全部飲み干して
…再び自分でシャンパンを注ぐ。

そして、私にも…

「…ほら、優衣…もっと飲んで。」

と勧めて来る。


とても速いペースで…
見る間に、どんどん飲む恭弥さんに
少し驚きつつ…私もグラスの半分程を飲む。

そうして…その後、何のかんの短い時間で…
あっと言う間に二人で2本を直ぐに空けてしまい…今は既に3本目だ。







最高級ドンペリニョンを…
まるで水を飲むかのように、ごくごくと飲む日が来るとは思わなかったな…
と、そんな事を心の中で思っていた時…


あれだけ勢いよく飲んでいるのに、
全く酔っていない恭弥さんが
ほんの少しだけ酔いがまわり始めた私の眼を、
そっと覗き込むようにして来て…



「少しだけ…酔いを感じているようだね。」



「…はい。まだ大丈夫ですが…ほんの少しだけ酔いを感じる様になりました。」



「そう。なら、先に…大事な事を済ませた方が良いかな。」



(…?…)
…大事な事?と思っていると…








「今の内に…“答え合わせ”をしようか。」



(…っ!…)



そう言いつつ…
透明感のある美しい瞳で、優しくじっと見つめて来る。







…あぁ…ついに…この時が来てしまった。




覚悟していたとはいえ…イザとなると緊張する。

…とても…勇気が必要だ。








でも、今までの事を考えれば…ここで逃げる訳にはいかない。
ちゃんと正面から向き合わなくては!


羞恥心や、不安や、申し訳ない気持ちに、感謝の気持ちに…
兎に角、色々な感情が混ざり合ったドキドキ状態で…

勇気を振り絞って…
…コクンと、ゆっくり頷いた。







私の緊張した様子を見た恭弥さんは…


「君が、話難いのなら…話すのに勇気が必要なら…僕のほうから話そうか。」


と穏やかな言い方で言ってくれる。




こんなにまで気遣ってくれるなんて…
本当に恭弥さんは、なんて優しいのだろうか。

でも、ココは…私の方が話すべきだと思う。

何日もかけて、しっかり振り返って気が付いた事を…
ちゃんと自分の言葉で言うべきではないだろうか。





そう思って…ゆっくりと首を横に振る。


…そして…


「私が導き出した答えで合っているかどうか…確かめて頂きたいのです。」
「ゆっくり思い出しつつ話すので、長くなると思いますが…聞いて下さいますか?」






私の言葉を聞いた恭弥さんは…穏やかな表情のまま…


「…分かった。」
「長くなって、夜が明けても構わないから…ゆっくり、自分のペースで話して良いよ。」


と言ってくれた…






「…はい。有難うございます。」


と返事をした後、一度シャンパンで喉を潤し…

小さく深呼吸をして…ゆっくりと口を開き、話を始めた。












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