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虹の彼方 162






クラウスの言葉を聞いた恭弥さんが…


「貴方だって…部下達には尊敬されているよ。」
「まぁ、ちょっと仕事のし過ぎで…周囲が付いて行くのが大変そうだけれどね。」



それを聞いて、何とも言えない苦笑をするクラウス。
続けて恭弥さんが…



「…貴方は、仕事中毒だね。もう少し部下を信頼して、仕事を任せたらどうなの。」
「そうしないと、その内に優秀な部下が逃げ出すよ。」



「…もう既に、何人かに逃げられました。」
「それも…行く行くは傘下の会社を丸ごと任せたいと思っていた人物ばかりが…」











ションボリと言うクラウスを見た恭弥さんは…


「日本の有名な実業家である、松下幸之助は知っているかい?」



「…コーノスケ・マツシタ…家電メーカーの創立者の?」



「そう。旧社名が松下電器産業、今の社名をパナソニック株式会社。」



「…あぁ。…はい、勿論、知っています。」
「彼の経営の“智慧の言葉”は、哲学的ですらありますからね。」








「彼はね、あまり身体が丈夫ではなかったらしいんだ。」
「それで、どうやって仕事をすれば会社を大きく出来るか考えて…優秀な部下に重要な事を任せる事にしたんだそうだ。」

「詳しくは自分で調べたら良いけれど、」
「…要するに…“部下を信頼して任せる事が出来る”かどうかもトップの力量だし…求められている器だという事だね。」
「“何もかもを自分でしないと気が済まない”というのは…他人を信頼出来ないからだろう?」

「その気持ちは相手にも必ず伝わる。」
「信頼されてないと思ったら…相手は“真の実力”を発揮した仕事なんてしてくれないよ。」
「そして…その内に、長くやっても信頼されない事に傷ついて辞めてしまう。」




(……っ…)




「それが嫌なら…今の内にもっと“部下に任せるシステム”を作る事だね。」
「そうしないと、本当の意味では人も育たないし。」




「…………。」










何事かを考え込むような表情になったクラウスを見つつ
恭弥さんが、言葉を更に重ねる。


「仕事の整理をして、任せられる事は他人に任せるシステムを作れば…時間に余裕が生まれる。」

「その余裕の時間を使って…」
「貴方は、次なる新規事業を立ち上げ、更に会社を発展させる事が出来るかもしれないし…」
「今より、“家族と一緒に過ごせる時間”も各段に増やせる筈だと思うよ。」



恭弥さんの言葉を聞いて、
ハッ!とした表情で顔を上げるクラウス。





「今の仕事スケジュールを変えない限り…又、奥さんの不満は溜るだろう。」
「その結果どうなるか…言わなくても分るよね。」




「……っ。」




「それを避けるには…会社の為にも部下の為にも、家族の為にも…」
「自分の仕事量と内容の見直しと、仕事を振るシステムを早急に作るんだね。」




「…………。」









「貴方が今まで必死にしていた事は…会社が小さい内は“正解”だったけれど…」
「今のような大企業に成長した時には、逆に“害”になる行動だったんだよ。」

「組織という物は…その規模に合わせた運営方法があるし…“組織規模に合わせた正義”というものがある。」
「その正義に合わせて、トップの考え方や行動も変化しないと、どこかで壁にぶつかる。」
「小さい時のまま、トップが自己変革しないままだと…組織にとっては害になる。」




「…っ!…」




「貴方は、大変に優秀な経営者だけれどね…」
「国を代表するような大企業のトップとしては…まだ未熟な点があるという事だね。」
「“大企業の顔”という器になり切れていない。」

「周囲の部下達が優秀だから、そんな貴方を支えてくれて、今まで来れたようだけれど…」
「そろそろ本当に…貴方自身が“自己変革する事を求められている”んだと…僕は感じるよ。」











恭弥さんの言葉を真剣な表情で聞いていたクラウスが…


「似たような事を、友人達に指摘された事がありますが…」
「ここまでハッキリと言われたのは…初めてですよ。」
「今の会社では、僕に遠慮して…そこまで意見する者は居ませんしね。」

「かつて言ってくれていた者達は…僕が聞く耳を持たないので、僕の元から離れて行きました。」
「でも、改めて聞くと、全くの正論ですし…反論のしようもないですね。」




「そう思うなら、すぐに実行するべきだね。」
「僕の部下を引き抜いたりしなくても…身近に“宝”が大勢いるんじゃないの?」




(…っ!…)




「その人達を、もっと大切にしてあげなよ。」
「そうすれば貴方の企業グループは…もっと強くなれると思うよ。」








「確かに…そうでした。」
「僕は…会社の為、従業員たちの為、家族の為…と言いつつ…本当は、逆の事をしていたようです。」

「もうすぐ妻も帰って来てくれますし、これを機会に…色々な事を根本から見直して見ます。」

「妻の件から、会社の経営や僕の姿勢についてまで…何もかも有難うございます。」
「本当に…何とお礼を言って良いか…。」




「礼なら、今日貰ったよ。」




「…!…。あ、そうでしたね…。」




そう言いつつ笑うクラウスの表情は、とても明るかった。

今回の件を切欠に、今までとは違う“未来のビジョン”が見えて来たのだろう。
家庭の事でも、仕事の事でも悩んでいた内容が一気に片付きそうな雰囲気に
希望の光を見ているのだろう。

後は、クラウス本人が…
どこまで恭弥さんのアドバイスを実行に移せるか…だ。










所で…恭弥さんは…組織論や経営論にも詳しいようだ。


自分の思うまま、気儘に組織を運営しているのかと思っていたけれど、
ちゃんと勉強もしているらしい。

きっと、一般的な組織学や経営学もしっかり学んだ上で、
恭弥さん流に改造して…というか、
風紀財団流の運営をしているんだろうな。




恭弥さん自身も、最初の組織は
1つの学校の風紀委員会という小さな所から初めて
徐々に大きな組織にしていき、今の風紀財団に成長させたようだし…
組織の成長論的な物も、実際にやって来たからこそ詳しいのだろう。


私の知識は、リボーンがツナに…
組織論の指導しているのを、何時も一緒に横で聞いているので
頭では知っている…という物だけれど…。

恭弥さんの場合は、
学んだ上で実体験もして来た“生きた智慧”なので、説得力もある。






先程のクラウスへのアドバイスは、
本当は、周囲の誰もが一番言いたい事である筈の内容だ。

でも頑固に我が道を歩いて来たクラウスは、
今まで誰の話も聞かなかったのだと思う。

けれど、今回…
奥様の件で、恭弥さんにたくさんアドバイスを貰った事や
その後の率直な態度などを見て、私達に対して、とても信頼を寄せてくれて
恭弥さんの“人物像に惚れ込んだからこそ”…
こうして素直に、話を聞く事が出来るのだろうな。



この様子ならば…
奥様が自宅に戻っても、何とかなるかもしれない。


家庭であれ、会社であれ…
今の現状を変えたいならば、先ずは“自分自身が変わる”事が必要だ。

相手や周囲の環境に変化を求めるのではなく、
自らが自己変革する所から始める事が重要なポイントであり鉄則だ。
それが法則だと言っても良いくらい。




でも、多くの“上手く行ってない人達”は…
自分は変わろうとしないで、相手や環境に変化を求める。

“自分に合わせて変わって欲しい”と無意識に願っている人が多い。

それではダメなのだと気が付かずに…何年も何十年も経つ人達も多い。






恭弥さんは…今のままでは、
家庭でも会社でも、現状から抜け出せないであろうクラウスに対して
組織論や経営論、仕事論を通して…

『現状をより良く変化させたいなら、先ずは自分の自己変革をするのが先だ』

という事を教えてあげたのだろう。





嬉しそうな顔で雑談をするクラウスと恭弥さんを見つつ…


…改めて…

クラウスの今後が素晴らしい物になるように、
…心の中で祈った。




















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