[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 161





クラウスの言葉を聞いた恭弥さんは
“何だそんな事を心配しているのか”という顔をして



「何処に保管しているのか、…詳しい場所の特定と…」
「どのような状態で保管しているのか…セキュリティーシステムの概要など…分かる範囲の事を教えて貰えば、」
「…後は、僕の方で何とかするから何の問題もない。」



「…いや、しかし…それだけでは…」



「情報は、電子データ化された状態?」
「それとも、敢えてアナログな紙媒体での保存?」



「全ての情報を電子データ化して、幾重にも厳重に保管しています。」



「…そう。電子データなら、僕がスパイの真似をして直接潜り込む必要もないね。」
「僕の部下達に任せれば、数日中に何とかするだろう。」








「でも…我が社のセキュリティーは、一国の軍並のレベルですよ?」
「何しろ、他国との軍事的取引きもしているので…」
「例えシステムの開発担当者であっても、そう簡単には破れない程の二重、三重になっているんです。」



「問題ないな。貴方の会社のセキュリティーレベルの調査は済んでるけれど…」
「あのレベルなら“少し”時間を掛ける程度で突破出来るよ。」



「あれは、一応…世界最高レベルのセキュリティーシステム…なんですが。」



「知ってるよ。」



恭弥さんのキッパリとした返答を聞いたクラウスは
…小さく溜息を吐き…


「…成程ね。世界中に“影響力”があるのは嘘ではないみたいですね。」


と、言った後に…







「では、4・5日以内には…詳しい保管場所や、僕に解かる範囲のセキュリティーシステムの概要と」
「解かる範囲の暗証番号などの資料をお渡しします。」



「なるべく早く…出来たら2日以内に頼むよ。」


“頼む”と言いつつ、
実際は恭弥さんの…有無を言わせぬ雰囲気の言い方に…





「…………。」
「明日は朝から昼過ぎまで会議だし、明後日は重要な商談もあるし…」
「…厳しいのだが…」


そう言いつつ、チラリと恭弥さんを見たクラウスは
…何かを諦めたように…


「…分かりました。」
「僕のお礼の気持ちを込めて…精一杯急いでみる事にします。」



「連絡をしてくれれば、指定の場所まで取りに行くよ。」



「…では準備ができ次第、連絡します。」



「頼んだよ。」






…という事で…
何と!とても有り得ない展開になった。

だって、ターゲット本人に
『情報取得の為の資料を準備して貰う』なんて…!
そんな事態になるなんて、全く思っても居なかった。

英国のニックの時のように無理矢理に奪うような形ではなく
本人の意思で協力させるなんて!
しかも相手は、今までで一番の難関だと言われたクラウスなのだ。




目の前でやり取りを見ていたのに
…夢ではないかと疑いたくなる程に信じられない。

結局、恭弥さんは…
レストランでの喧嘩の場面から始まって、クラウス夫妻へのアドバイスも…
イタリアでの“事件の噂”までも…
何もかもを上手く利用して欲しい情報に近づいた、という事になる。

クラウスが、先週イタリアに一日だけ出張に行った事は知っていたが…
私達の噂を聞いているかどうかまでの調査は、出来ていなかった。

という事は、流れに任せつつ…
最適な結果になるように探りつつ…の会話だったのだろうか?




出発前に…

『雲雀恭弥は、予想外のどんな場面、どんな事態になろうとも…』
『最終的には、必ず“成功した”という状態にして仕事を終わらせる』
『あらゆる事を“上手く利用する”天才的な才能がある』

という噂を聞いた事があったけれど…
その噂が本当である事を、今回の仕事ではしっかり確認出来た。







その日は、それで帰り…
後はクラウスからの連絡を待つ事にした。


…そして…

クラウスの自宅に行った日から見て2日目の昼に連絡が入り…
お昼のランチの時間に外出するクラウスに
恭弥さんが密かに接触をして、無事に資料を受け取った。

恭弥さんは、それを草壁さんに渡し…
草壁さんは直ぐに分析官達のいるビルに向かったらしい。



後は…
クラウスからの情報を元に、必要な情報をGETするだけだ。
超セキュリティーの高い施設内に厳重に保管されている為、
勘付かれずに突破するのは大変だ。

けれど、今回はクラウスから幾つかの暗号キー解読の為の情報も得ているので
少しは時間短縮になりそうだ。







そうして待つ事2日…草壁さんから連絡が入り…
無事に全てのセキュリティーを突破して、目的の情報を入手出来たと報告があった。

情報を入手した直後に、
外部から不正アクセスがあった事を相手に気が付かれて追跡をされたが、
使っているサーバーを含め全ての端末は、
特殊な回線を複雑に経路してアクセスしているので、上手く“まいて”しまって
…相手の追跡を、電子世界の迷路に置き去りにしたと言う。

そして、念の為…
その時に使った全てのサーバーも端末も
既に完璧に処分をしてしまい、全ての痕跡を削除したとの事だった。










無事に、情報を得る事が出来た日の夜…
偶然を装って、クラウスと場末の小さなレストランで会った。

クラウスが行った事がない所で、
知り合いにも会いそうに無さそうなお店だ。


一緒の小さなテーブルに座って、低めの小さな声で会話をする。
誰にも聞こえていないとは思ったが、念の為…
ドイツ語以外で双方が使える言語である英語で会話をした。





クラウスの説明では…
情報を盗られた事に気が付いた後に、会社の上層部の中で、
その情報の事を知っている数人だけが極秘で集められ、会議が開かれたが…

何処の誰だか全く分らない相手に、
超重要な情報を盗まれた事で…大変な動揺が走ったらしい。

しかし、相手が分らない以上…どうしようもない。



出来る事と言えば、
今以上にセキュリティーシステムを強固にする事ぐらいだが
今現在でも、最高レベルと考えられる内容なので…
保管端末の変更とか、暗号を変更する程度とか
その程度しか出来る事はないだろう…という結論になり、
早速、今週中に実行する事になったらしい。






小さな声でクラウスが…


「本当に、あのセキュリティーを突破出来るのだろうかと疑心暗鬼でしたが…たった2日でやってしまうなんて。」
「しかも、我が社の自慢の追跡を見事にかわし、完全に迷宮入りにしてしまった。」
「…凄い技術力ですね。恐れ入りました。」


それを聞いた恭弥さんが…小さくふっと笑う。
続けてクラウスが…


「貴方の会社の技術者達なら、今の給料の5倍、いや10倍出しても良いから…」
「僕の会社に転職してくれる人はいませんかね?」


と冗談っぽく言うと…






「…引き抜きたいなら、好きにすれば良い。」


と、答える恭弥さん。
クラウスは、その返答に驚いて…



「…えっ。…本当に良いのですか?」



「別に構わないよ。…成功するとは思えないけれどね。」



「でも、10倍の給料を提示されれば…数人くらいなら、反応するかもしれませんよ。」



「今まで何度も…色々な国の機関や企業などが、破格の待遇で迎えるから、是非来て欲しいと…」
「僕の部下達に接触して来ていてね…」
「10倍所か、年棒契約で10億の金を提示された者もいるよ。」



「日本円で10億ですか?それは、本当に破格の待遇ですね。」
「…で、その方は…どうされたのですか?」



「勿論、今でも僕の傍に居る。」
「…哲は…年間に10億や20億程度では、とても“誘惑”は出来ないよ。」
「仮に100億円積んだとしても…僕の傍を離れないだろうね。」



「…そんな人がいるのですか。…凄いですね。」



「他の者達も…年に少なくて数千万〜多くて2・3億程度を提示された者が何人もいるらしいけれどね。」
「…誰1人として、風紀財団を離れた者はいない。」








「貴方の組織の強さの秘訣は、その結束の強さなのかもしれませんね。」

「カリスマ性溢れる…優秀で魅力的なトップの元に集っている…」
「とても有能で…尚且つ、最高に忠誠心溢れる部下達。」

「組織のトップという、同じ立場に立つ者として…とても憧れます。」



心底から感心したような口ぶりで…
クラウスがうっとりと話し

…それを恭弥さんは、ごく当たり前の顔をして聞いていた。









[*前へ][次へ#]

20/26ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!