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虹の彼方 159




一旦、言葉を切った後に、
再び…口を開いたクラウスは…


「僕の会社であっても、何でもかんでも自由に出来る訳ではありません。」
「会社内で管理をしている情報であっても」
「…僕が自由に出来る範囲の事は意外に少ないのです。」

「…それに…社内管理の機密事項にアクセスすると、記録が残るようになっていますし。」




今度は、クラウスの方が困惑した顔になった。

クラウスの返答を聞いて…恭弥さんが静かに口を開く。



「…それは、良く知っています。」
「その上で是非…“骨を折って”入手の“手助け”をして欲しい機密情報があるのです。」






恭弥さんのキッパリした言い方を聞いて…
私達の本気度が分かったらしいクラウスは…再度、考え込む。


…そして…


「…分かりました。」
「特別な“喜んで頂けるお礼”をしたいという話を始めたのは…僕です。」
「出来るだけ努力しましょう。」

「所で…具体的には、どんな情報を求めておられるのですか?」

「機密事項と言っても…各会社の詳しい収益の仕組みや人事関連の情報…特許などの内容。」
「他にも、今後の展開で買収予定の会社情報や傘下の小さい会社の株式公開のタイミングなど…」
「実に色々な“機密情報”があります。…詳しいお話を聞かせて下さい。」







恭弥さんは、しっかりとクラウスの方を見据えたまま
…落ち着いた口調で…


「僕が欲しい情報は…貴方の会社の心臓部で管理している超機密情報の中の1つです。」


それを聞いたクラウスが…
“えッ!”という顔をする。






一度、言葉を切った後…再び話を始める恭弥さん。


「貴方の会社の、武器輸出に関わっている部門が掴んだ情報の中の…」
「○○国と、○○国絡みで半年前に得た情報の中にある物です。」
「…その中で…超極秘扱いで管理されている“ある物のレポート”が欲しいのです。」



「…っ!!…」



恭弥さんの言葉を聞き…
クラウスは息を呑んで、完全に言葉を失ってしまった。




私達が欲しがっている情報の“内容”に推測がついたのだろう。
まさか、そんな…
“本物の超極秘情報”が欲しいと言うとは思ってもみなかったという顔だ。


先程…クラウスが“例”で挙げた『機密情報』のレベルとは
遥かに違う内容に驚きを隠せないようだ。





私達が探している情報は、一企業の範囲を超えた
…国家レベル・国際レベルの超機密事項。

クラウスの率いているグループ会社の中には、
軍事産業を“商売”にしている会社もある。
その会社が掴んだ…数か国が絡んで極秘開発中の、超機密研究レポートが目当ての物だ。



通常ならば、国や軍の管理になるであろう物だが
…内容の特殊性を鑑みて…
また“商売相手である相手の国”の事情も考え…
クラウスの独自判断で
“今の所は政府にも軍部にも内密”にして幾重にも厳重に管理している内容なのだ。









黙り込んで、色々と
考えを巡らしていたらしいクラウスが…

今までにない程に真剣な声色で…
じっと恭弥さんの事を睨むように見ながら…口を開く。


流石、一代でここまでの企業グループを作り上げた男だと思うような
…異様な迫力を感じるオーラだった。



「…色々と疑問はありますが…」
「先ずは、…どうして貴方が…あの情報の事をご存じなのですか?」

「オーストリア政府も、軍も知らない筈の“アレ”の存在を…どうして知っているのですか。」






恭弥さんは、クラウスの迫力を感じる雰囲気にも、
全く動じる事なく…
ごく淡々とした態度を変えないまま返答する。



「…それが、僕の仕事だからです。」



「貴方方は…何処かの国か、ライバル企業のスパイですか?」



「いいえ、そうではありません。」
「詳しくは言えませんが…世界中の極レア情報を取り扱うような事が、僕の仕事の中のひとつなのです。」



「…世界中の極レア情報?」



「そうです。」
「一定規模の国ならば、世界中どこに行っても…僕と全く関わった事の無い国は、皆無と言っても良い。」
「それだけ世界中を網羅して…仕事をしているのです。」



「…そうだとしても…“アレ”の情報が外部に漏れていたなんて、信じられない。」
「これは…とても看過できない“事件”です。」








超機密情報であり、
社内でも数人しか知らない筈の情報の事を私達が掴んでいる事が
どうしても腑に落ちないらしいクラウス。

…続けて…低い声で…



「一体、どうやって知ったのか…教えて頂けませんか?」



「僕の持っている“情報網”は世界中のあらゆる社会を網羅しています。…当然、表も裏も。」
「従って、貴方の会社の人間から情報を得なくとも情報を入手出来るルートは幾つもある。」

「その機密には“複数国”が関わっていて…それぞれの国での“関係者が複数”いるのでね。」




「成程…つまり、僕の会社の人間が情報漏えいした訳ではなく…」
「関わっている数国の中の、何処かの関係者経由の情報かもしれない…という事ですね。」




クラウスの心配事に答えてあげるような…
恭弥さんの“ヒント”の意味を理解し
自分の会社内部に情報を漏らした者がいる訳ではない事が分り
少しホッとした顔をするクラウス。








続けて、少し厳しい口調のまま話を始めるクラウス。


「では、次に…“アレ”をどうするつもりなのか教えて頂けませんか?」

「アレは、軍事的にも転用可能な超機密事項です。」
「あのレポートを元にすれば…人類史上でも稀な兵器を作る事も可能かもしれない…という内容です。」
「…それだけの、技術力と資金力があれば…ですが。」

「そんな物を、そう簡単に渡す訳にはいかない事はお分かりですよね?」
「何しろ貴方方は…日本人だ。」
「日本という国には、あの理論を実現するだけの人材も技術も施設も資金力もある。」





クラウスの言葉を聞いた恭弥さんは…


「確かに僕達は日本人ですが…国の為に情報が欲しい訳ではありません。」
「…政府や企業に情報を“横流し”してあげるつもりもない。」

「アレは、僕が興味を持って研究している事に関わりのある情報なので欲しいだけです。」
「主に欲しいのはレポートの中の研究実験データです。」

「レポートを元に、軍が使うような兵器開発をするつもりはありませんよ。」
「まぁ…僕の“個人的な物”に“応用”する事はあるかもしれませんが。」




「…貴方の言葉を…信じる為の証拠か何かありますか?」



「そんな物はないな。」
「…僕自身を見て、信じられるかどうかを判断して下さい。」



「…………。」


恭弥さんの言葉を聞き…少しの間無言になるクラウス。








真剣な顔で恭弥さんの事をじっと見て
…続けて私にも視線を移し、じっと見て来た。



「…嘘を言っているようには見えませんね。」
「ですが、そうなると…“貿易商”の方が嘘だった訳ですね。」



「貴方とお近づきになる為に…仕方なく、ね。」



「では、もしかして…初めてレストランで会った時の…あれも偶然ではない?」



「あの“珈琲事件”は、僕達が仕組んだ物です。」



「…やはり、そうですか。」






今までの事を、
何も隠さずに赤裸々に正直に…淡々と話す恭弥さん。


その様子を…唖然とした気持ちで、黙ったまま見ている私。




これで、もしクラウスが…
目的の情報を得る手助けをしてくれなかったら、
一体、どうするのだろうか…。

そんな心配を心の片隅で少し考えつつ…見守っていた。












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あきゅろす。
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