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虹の彼方 157





特に取り柄らしい取り柄もない私は…
元々、自分にはあまり自信が持てないでいた。

そこへ…
恭弥さんという素晴らしい人と同行する機会を貰い
一緒にいればいる程
自分のダメさが浮き彫りにされて…更に自信を失うという悪循環。




そんな状態だったので…
“恭弥さんの本音・気持ち”が一瞬見えたように思ったと同時に…

“そんな事がある筈はない”と即座に強く否定して
…それ以上深く見ようとはしなかった。


それ以上深く見て
『恭弥さんと自分の気持ちを正しく認識』してしまったら…
必然的に、そこから先に進まないといけなくなる。




…私は、それが…怖かったのだ。

より、正確に言うと…
お互いの気持ちを受け入れて、先に進んだ…“更にその先”が怖かった。







今は、特殊な仕事の最中であるし
“一緒にいなければならない状況”だから良いとしても…
この一連の仕事が終わり、夢のような期間が終わった時に
…今と同じように
『恭弥さんの隣にいる自信があるか?』
と問われれば…どうしても否定的な答えになる。

もしかしたら…少しの期間…数か月ぐらいなら
“今の勢い”で隣に並ぶ事ぐらい出来るかもしれない。


…でも…

3か月…半年…1年経ったら?

更に…その先は?


長くなればなるほど、きっと…
私のダメな部分が恭弥さんに沢山知られる事になり、
失望させる事が増えて…そして…

そして…恭弥さんの“熱”も冷めるに違いない。



今の恭弥さんは、何というか…
ちょっとした“熱病”に一時的に罹ってしまったような感じであって…
何時もの恭弥さんとは違うのであって…

それはきっと、今の仕事の…
この特殊な設定がそうさせているのであって

何時か“病が癒えたら”
…恭弥さんの気持ちも冷めるんだろう、と…


そんな事を、
心の奥の奥の方で…私は“無意識に考えて怖れていた”のだ。









ゆっくり、じっくり自分の心を振り返って見るまでは…
全く気が付かなかった…“私の本音”…がそこにある。

未来に“あるかどうかも分らない出来事”を、勝手に想像して…
そして、その時に

“自分が傷つきたくないから”
“傷付くのが怖いから”

…逃げて逃げて、真正面から向き合う事を避けていた。




つまり…未来に“訪れるかもしれない別れ”に対して、
恐怖し、怖れ…逃げていたのだ。

全ては…自分を守りたいが為…だ。





『将来、もしかしたら傷付くかもしれない』事になるのを恐れ…
“自分自身を守るつもり”で
…無意識に“気が付かない演技”をしていたのだ。


最初から気が付いてないフリをして
恭弥さんの気持ちも、自分の気持ちも“解らないフリ”をしていれば…

イザという時…
つまり、恭弥さんの熱が冷めたとしても…

“何もなかった”と言えるし“自分の心は守られる”
…と、そんな風に心の奥で思っていたのだ。




私は、なんて…愚かだったのだろうか…。

そして、なんて臆病なのだろう…。



これは…恋をしたから、なのだろうか。

それとも、元々の私の気質なのだろうか。



…両方、なのかもしれない。









…けれど…思い掛けずに、
イタリアでアレックス夫人に私の気持ちをズバリ指摘され…
あの時に、自分の気持ちには正直に向き合う機会を貰った。

あまりにハッキリ私の心情を言われたので
…流石に逃げられなくて…
心の底に押し込めていた自分の感情をあの時に認めて、しまった。

そして正面から…自分の気持ちを受け入れた。





でも…恭弥さんの側の気持ちについては…
相変わらず、頑固に認めないようにした。

いや寧ろ…自分の気持ちを認めてしまった事で…
これ以上恭弥さんの気持ちまで認めると…

“後がないよ”
“ここから先は新たなステージに入るよ”
“貴女に、その覚悟があるの?”

と心の中で警告が発され…
無意識にだけれど
今までより更に“必死に気が付かないフリ”をしていたように思う。





…その結果…
『私が、恭弥さんを苦しめている』事になっていたのに
それにも見て見ぬ振りをした。

先日のレストランでの恭弥さんの様に…
怒らせてしまう程に…
恭弥さんを悲しませ、苦しませてしまった。

…自分が傷つくのが怖いばかりに…
私は、大好きな恭弥さんを苦しめていたのだ。


表面的には、
大好きな恭弥さんの為なら何でも出来るような気がしていたけれど
…それも嘘だった。




私は…私は…なんて酷いエゴイストなのだろうか。


なんて自分勝手な…
自己中心的な利己主義な人間なのだろうか。






『何時か訪れるかどうかも分らない未来=恭弥さんに見放されるかもしれない未来』
を勝手に想像し…
“恐怖心”を持った事が、全ての出発点だった。

そこをスタートにして…
『将来、自分が傷つかないように』する為に…
自分の気持ちにも、恭弥さんの気持ちにも
「気が付ないフリ」を続け…自分をも騙して行動し…

アレックス夫人の指摘で、自分の気持ちを認めてからは
「頑固に必死に、恭弥さんの気持ちを無視」して来た。








最初の頃の私は、色々な人に聞いた噂を元にして
恭弥さんの事を
『我儘な自己中の人』と認識している時期があったけれど

…とんでもない!

私の方が、何倍も何倍も酷い!




何時だったか…
恭弥さんに『君は頑固だ』と言われた時は、正直キョトンとした。

『頑固に認めない』とも
『ここまで頑固なのは、僕に対してだけだろう』とも言われて驚いた…
今まで、そんな事を言われた事は無かったから。

でも、今なら…その意味がとても良く分る。






こうして冷静に振り返ってみると…
細かい心配りの人で、忍耐の人であり、真に優しいのは
…恭弥さんのほうだ。

そして、私は…
実は、凄く臆病で、自己中心主義で、利己的で我儘だ。


我ながら…最低な人間だと思う。



…こんな私相手に、ここまでしてくれていた恭弥さんは、
本当に凄い人だと思う。

そして、同時に…ここまで辛抱強く、忍耐に忍耐を重ねてくれて
あくまでも紳士的に、私があまり混乱しない程度に
教え諭してくれていた事に
…心の底から、深く深く感謝をした。







私の、今までの言動を思い出せば…
並大抵の忍耐力では無理だっただろうと思う。

恭弥さんには、それだけの忍耐力を発揮するだけの
元々の実力もあるのだろうけれど…

でも、同時に…その背後には
“私に対する真剣な気持ち”があるからだとも…解かる。

それが…どんなに有難い事であるのか。




それなのに…
私は…真逆の事をして、恭弥さんを苦しめていたなんて…

どんなお詫びの言葉を言えば良いのか、考え付きもしない程だ。




相変わらず…
クラウスに対して今後の事についてのアドバイスを
丁寧にしてあげている恭弥さんを見つつ


胸が少し…キュッと苦しくなった。














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