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虹の彼方 155






翌日からは…
私達がクラウスとの接触を求めて
積極的にパーティやレストランに行くような行動を起すのは、
一時期に自粛する事になった。

具体的には3・4日以上空けて、
時々パーティなどに参加する程度に抑えた行動をする事にした。


今まで、毎日毎日あまりに動き過ぎているので…
これ以上、積極的に行動を続けると
クラウスの友人達などに怪しまれる可能性があるからだ。

恭弥さんの指示で行動している
“クラウスの会社内部に潜入している別部隊”
の情報収集チームがあるので、
暫くは…そちら経由で何とかならないか探ってみる…との事だ。





こうなると…
私も恭弥さんもあまり具体的に動けないので…正直、暇だ。

そこで、時々今の仕事の進捗状況を確認したり、
クラウスの様子の報告を聞いたりする以外の時間で

…恭弥さんに出された“宿題”を解こうと…
今回の仕事の話をツナから聞いた所から
順番に丁寧に、様々に振り返って行く為の時間とした。








たっぷりとした時間の中で…
振り返り…確認作業をしていて、先ず最初に気が付いたのは…
今まで恭弥さんが、一番最初の時から…
私に対して如何に細かい心配りをしてくれていたか…という事だった。

今までも、そう思っていたけれど
…どうやら私が感じていた以上に…
背後で、とても細やかな配慮をしてくれていた事に改めて気が付いた。

その事に気が付いた後は、
今までよりもっともっと感謝の気持ちが深くなり…
有難いと思う気持ちが強くなっていた。





そんな中…ある時点でハタと気が付き
“もしかして、これが答えなのだろうか?”
と思い当る“仮説”にぶつかる。



それは、今までも数度頭を過った事がある内容であり、
正直…とても戸惑う内容だった。

“まさか、それは無いだろう”と何度か否定して来た物だ。

その“仮説”を受け入れるのは、
私にとっては…かなりハードルの高い難関に感じる。

だって…
どう考えても“そうなる理由”が分らないし思い付かない。





けれど、恭弥さんから
『素直な気持ちで受け止める事』と言われていたし
…逃げる訳にはいかない。

悶々と悩んだり、心の中で散々葛藤した末…
やっとの思いで、私は…“仮説”を“仮説として受け入れた”



他に“思い当る事”がない以上…
“他の案”がない以上…
この仮説に従って考える以外に道はないから…仕方ない。



その後の日々は…
私が“導き出した答え”が合っているのかどうかを
“検証する”かのような気持ちで
今までの事を、再度、最初から丁寧にゆっくり振り返って行った。

そんな中…何度か同じような事を
繰り返し言われた内容を思い出したり…
恭弥さんの態度で
疑問に感じていた事を“仮説”に当て嵌めて考えて、
その時の“恭弥さんの気持ち”を私なりに推測したりもした。





…そして、私は…
一連の確認作業をしている中で、とても重大な事に気が付いた。

私の心の中にあった“とある感情”が…全ての原因である事に
やっとの事で…思い至ったのだ。


それまで…
思ってもいなかった、全く気が付いてなかった“自分自身の本音”が…
一連の“反省行”によって、漸く見つかったのだ。

恭弥さんに指摘され、ヒントを貰っていた様々な内容の中でも
恐らく、一番の核心部分であろう事が…やっと解かった。




それを発見した事で…


…あぁ…

…私って…最低の人間だ…。



…と、思うと同時に…
自分の“本音”を正しく見つめるのは…正直、辛いとも感じる。


でも…ここで逃げて良い筈はなく
泣きそうに辛く感じつつも…最後まで“振り返り・反省”する事を進めた。












そんな日々を数日過ごし、
今現在までの“振り返り”を、丁度済ませた日の夜…
クラウスから、突然連絡があった。

『明日、僕の自宅にお招きしたい』
という事なのだけれど…。
パーティではなく…個人的に来て欲しいのだと言う。

どうしたのだろうか?と思う一方で
…勿論、お誘いを断る事なくOKした。



翌日…昼間のお招きなので、
派手になり過ぎない程度に少しオシャレをし…
完璧な恭弥さんのエスコートで…クラウスの自宅に出向く。


クラウスの邸宅は事業で大成功している人の自宅らしい、
大きくて立派な建物だ…
入口で執事さんが出迎えてくれて…部屋に案内してくれた。

留守が多いクラウスは、
家の事を任せられる執事と使用人を数人雇っているようだ。
でも、コックは雇っていない。
料理を作るのが好きな奥様は、コックを雇うのを嫌がった為…
今でも、そのまま…雇わずにいるのだとか。

その為、クラウスは使用人達の仕事の負担量なども考慮し
…外食で済ませる事が多いようだ。








部屋に案内されると既にクラウスが待っていて…
私達を見ると同時に立ち上がり、大きく手を開いて
…とても嬉しそうな笑顔で出迎えてくれた。



「…わざわざ自宅に来てくれて有難うございます。」



「いえ、こちらこそ…お招き頂き有難うございます。」




和やかな挨拶をした後、ソファーに座った所で…
執事さんが美味しそうなウィーン菓子と珈琲を運んで来てくれた。
市内で美味しいと評判のお店のケーキなのだという。

沢山用意されていたケーキの中から、
それぞれ二つを選び、珈琲と共に味わう。

…うん…本当に美味しいケーキだ。




そう思いつつ、お天気の話題などで会話をし
…その会話が途切れた所でクラウスが
少し神妙な顔をして…語り出す。



「…今日は…お二人にご報告したい事があって、自宅に来て頂きました。」



改まった言い方をされ…何事かと視線を向けると…



「実は…先日頂いたアイデアを…実行してみたのです。」



そこまで話して、一旦言葉を切ったクラウス…
ちょっと考える素振りを見せる。

言葉を探しているのだろうか?



先日のアイデアとは…奥さんへのプレゼントの件の事だろう。
…どうだったのだろうか?
結果が気になり…無言のままクラウスの言葉を待つ。






…やがて、クラウスがゆっくりと口を開いた。



「公園に咲いている野の花を花束にするなんて…」
「思い出の花冠を作って持って行くなんて…」
「そんな事で妻の心が動いてくれるのだろうかと…正直、疑問でした。」

「でも、他に良いアイデアもないし…思い切って実行する事にして…」
「彼女と一緒に行った事のある公園に、実際に行ってみて…自分で花を摘み花束を作りました。」

「そして…心を込めて、再度僕の想いを手紙に丁寧に綴りました。」
「それを、宅配業者に頼み彼女へ届けて貰いました。」


「その2日後…今度は花冠を作った場所に朝早くから行き、昔を思い出しつつ花冠を作り…」
「その足で、緊張しつつ妻の実家に向かいました。」

「…もう、本当に…祈るような気持ちで訪れたのですが…」
「…何時も通りに、妻の両親に…玄関で追い返されてしまったのです。」






「…………。」



クラウスの言葉を聞き…どう反応して良いか分らず無言になる。



あの時は上手く行くような気がしたのに
…ダメだったみたいだ…。


案外、私の勘もあまりアテにならないな…
と、そう思うと同時に
…クラウスに対して、とても申し訳なく思った。















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