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虹の彼方 153





クラウスの話を聞いている最中に…
ピンッ!と閃いた物を…そのままストレートに聞いてみる。


「…あの…。」
「奥様と結婚前にデートをした時は、どんな風に過ごされたのですか?」




私の質問を聞いて…クラウスは
『どうしてそんな事を聞くんだろう?』という顔をしつつも
“ええと?”と少し考えてから、答えてくれた。




「あの頃は…僕の会社の仕事を軌道に乗せる為に必死な時期で、時間があまりなかったんです。」

「だから、普通のデートのように…」
「オペラ鑑賞とか音楽鑑賞したり、有名レストランでディナーを食べたり…というのは滅多になかったですね。」

「それに、そんなデートをすると…彼女も僕もそこそこ有名人だったし」
「直ぐに大勢の人間に囲まれてしまって…二人でゆっくり会話する事が出来なかったんです。」

「それで…なるべく知り合いに会わないような場所に行く事が多かったですね。」
「何とか半日だけ時間を作って…ゆっくり過ごせる郊外でのんびり過ごしたり…」
「仕事の合間を縫って…公園を一緒に散歩したり…」






話しを聞きつつ
“そんなデートを重ねた結果で結婚を決意した人なんだな”
…と思っていると…



恭弥さんが…

「そのデート内容で、文句を言われる事はなかったのですか?」
「…機嫌が悪くなるような事は?」



それを聞いたクラウスは、ちょっと笑顔を見せて…

「妻は、華やかな社交界の付き合いや、着飾ってオペラに行くよりも…自然の中で過ごす事を好むような女性なのです。」
「一緒に郊外や公園を散歩するのが好きだと…言ってくれた人です。」
「そんな気さくな人柄だからこそ、僕と上手くいったんです。」







それを聞いた恭弥さんは…

「今のお話を聞くと…先ほどの貴方のプレゼントの内容は、少々的外れなのではないですか?」



恭弥さんの言葉を聞き
ハッ!とした表情になるクラウス。



…少し考える素振りを見せた後に…

「今の今まで…そんな事は思ってもみませんでした。」
「毎回、友人達に相談して“最高”だと思うプレゼントを決めていたのですが…」
「誰も、そんな事は言わなかったし…僕も…気が付かなかった。」




クラウスの返事を聞いた恭弥さんが、更に言葉を重ねる。


「だから…プレゼントを気に入ってくれなかったのではないですか?」
「豪華なプレゼントではなく…本当に喜んでくれそうな物を贈ったらどうですか?」



恭弥さんの提案に…少し渋い顔をするクラウス。


「…確かに、貴方の言う通りかもしれません。」
「ですが…僕には、妻が本当に喜びそうな物が…分からないんです。」









それを聞いて…私も口を開いた…

「デートした日々を、良く思い出してみて下さい。」
「何か…奥様が…とても喜んだ場所とか、喜んだ出来事とかありませんか?」




私の問いかけを聞いて…
暫くの間“う〜ん”と考え込んでいるクラウス。


暫く…そのまま考えて
やっと何か思い出したようで口を開く。




「…そう言えば…思い掛けず彼女がとても喜んでくれた事があります。」
「二人で、低い山にある公園に行った時に…隣に座って話をしつつ」
「彼女に見えない位置でこっそり花冠を作って…完成した所で彼女の頭に乗せたんです。」

「そうしたら、彼女がとても大喜びしてくれて…」
「あんな、そこらに咲いている花で作っただけの花冠を、あんなに喜ぶなんて思ってなくて…」
「とても意外に思いましたが、同時にとても可愛らしい人だと思いました。」








懐かしそうに…少し嬉しそうに話すクラウスを見て…
“今でも奥様の事を、とても愛しているんだな”と感じる。

何とか…
クラウスの力になりたいと思いつつ、声を掛ける。




「奥様は、お花がお好きのようですね?」



「そうですね…好きだと言っていました。」



「では、花束をプレゼントしてみては如何ですか?」



「それは、もう何度もやっています。」
「プレゼントを贈る時には、必ず一緒に花束も贈っているのです。」



「…その花束は、どんな花束なのですか?」



「どんな、って…ええと、花屋に予算を伝えて…内容は任せているので…」



「つまり、花束も…とても豪華な花束という事ですね?」



「ええ、たぶん…」







「奥様は、野の花を喜ぶような方で…花冠をとても喜んで下さったのでしょう?」
「でしたら…そのような花束を贈ってみては如何ですか?」



「…えっ?…その辺りの道端に咲いている花で花束を作れ…と?」



「はい、そうです。」



「いや、しかし…そんなプレゼントなんて…」




そんな物で妻が喜ぶとは思えないらしいクラウスが
…迷った声を出す。


そこで、更に…

「一緒に行った事のある公園に咲いているお花の、素朴な小さな花束と一緒に…」
「心を込めて書いた手紙も贈ってみては如何でしょうか?」



「…………。」


私の提案を聞いて、クラウスは黙り込んでしまった。











そこで…もう一度、話掛ける。


「今まで色々なプレゼントをしてみてダメだったのでしょう?」
「でしたら、もし今回の案がダメでも今までと同じというだけの事ですし…試しに、一度やってみては如何ですか?」



「…………。」


無言のまま聞きつつ…迷いを見せるクラウス。






私は、それを見て更に言葉を重ねる。


「花冠を作った季節は何時なのですか?」



「ん?…季節ですか?」
「…ええとあれは…確か彼女の誕生日の少し前の時期だったから…今の、季節ですね。」



それを聞いて、思いっきりニッコリしつつ
…クラウスの背中を押す。



「それでは、今なら…思い出の花冠を作る事が出来ますね。」
「野の花の花束と手紙を届けた後に…手作りの花冠を持って、奥様に会いに行かれては如何でしょうか?」








私の話を聞いたクラウスは、
その言葉を聞き、暫くの間考え込んでいたが…

次に顔を上げた時には…
何か吹っ切れたように明るい顔になり



「…貴女のおっしゃる通り、ダメで元々ですし…やってみる事にします。」
「早速、今度の休日にでもあの場所に行ってみます。」


少し笑顔になって、言ってくれた。





その様子を見て…上手く行くと良いのだけれど…と

仕事を超えて…
クラウスの幸せを願わずにはいられなかった。
















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