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虹の彼方 151





…お互いに、無言で…

まるで、睨み合いの喧嘩ような
状況になった私達の所へ…



思いかげない人物=“ターゲットのクラウス本人”
…が、話し掛けて来て…
すっかり意識が他に飛んでいた私は、本気で驚いた!





「…こんばんは。」
「…あの…声を掛けて良いか迷ったのですが…見掛けたのに無視するのも変ですので。」



そう前置きをした後に…
まだ前菜の途中で全く食事が進んでいない私達のお皿を見て…



「食事が進んでいないようですが、何か…深刻なお話の最中でしたか?」


と、暗に…喧嘩中である事を察した事を言われた。







それを聞いた恭弥さんは…苦笑いを浮かべつつ…


「あぁ…見られてしまったようですね。」
「いや、たいした話ではないんです。」
「ですので…もしお一人でしたら僕達と一緒のテーブルにどうですか?」



そう話すとクラウスは…


「いや、思わず声を掛けましたが…お二人の邪魔をするつもりは無かったんです。」
「僕は、あちらで1人で食べます。」


他の場所を視線で示すクラウスに対して、恭弥さんが…
少しの苦笑いのまま…


「…では、正直に言わせて頂きますが…」
「僕達としては…貴方が一緒に食事をして下さると、大変に有難いのですが。」


そう話した恭弥さんが、私の方をチラリと見る。





そこで慌てて、私も口を開く。


「…私も同じ気持ちです。」
「ご迷惑でなければ、是非このテーブルでご一緒して頂きたいです。」
「その方が…あの、…美味しくお食事が出来そうですので。」



そう話して…懇願するような目でクラウスの方を見た。

クラウスは、恭弥さんと私の言葉と態度を見て
“喧嘩中の気まずい雰囲気を変えたいのだな”と理解してくれたようで



ちょっと笑顔を見せ…

「そうですか…では、僕も仲間に入れて下さい。」

そう話して、同じテーブルに座ってくれた。

私達が座っていた席は4人席だったので…
向かい合わせで座っていた
私と恭弥さんの間にクラウスが座る形になり丁度良かった。









追加のワインとクラウスの分の食事を頼む為に…
ソムリエとボーイを呼ぶ。

どのワインが良いか…
クラウスと会話をしている恭弥さんを見つつ
…心の中で色々と考える。



私の推測…だけれど…
恭弥さんは、私達が話している途中で
クラウスが来た事に気が付いていたのではないだろうか。

私は入口を背にして座っている事もあり
恭弥さんとの会話に夢中になっていた事もあり…
クラウスが同じレストランに来た事には…全く気が付いていなかった。

でも、入り口の方が見える位置に座っている恭弥さんが…
幾ら会話に夢中になっていたとしても
(そんなに夢中になる内容ではないけれど)
入店したクラウスに気がつかない筈はない。

そして、それを…私には教えてくれなかった。




…という事は…
ワザと剣呑な雰囲気の喧嘩している場面をクラウスに見せたのだろう。
最後の冷たい言い方の台詞などは
…その為に敢えて言ったのかもしれない。


その証拠に…
あの言葉を言う少し前までは
『恭弥さんの事をとても良く知る人』であれば…
“貿易商の雲雀恭弥”の下に
“普段の恭弥さんがチラリ透けて見える”感じだったのに…

あの一瞬で…
『貿易商の雲雀恭弥』だけのオーラに見事に変化した。

そうして…今は
『喧嘩中なので、美味しく食事をする為にも一緒に食事をして欲しい』
という事にして、クラウスと同席する事に成功した。




…どんな状況であっても…
上手くそれを利用してしまう恭弥さんに感心する。

そして同時に…ついさっきまで…
あんなに悶々としていたのに…こんなにも直ぐに“やっぱり恭弥さんは凄い”
と思ってしまう自分に…内心で苦笑した。



自分で自分に少し呆れつつも…
折角掴んだこのチャンスを上手く生かせますように!と…
運ばれて来たワインで3人で乾杯をしつつ…祈るような気持ちだった。









3人で食事をしつつ
無難なお天気の話題から始まり…今話題のニュースの話…
そして世界経済やオーストリア経済の話にまで発展する。

そこまで行くと、当然のようにクラウスの仕事の話にも触れる。
…が…
恭弥さんが、どんなに巧みに会話を仕掛けても…
クラウスは、機密事項関連の内容に少しでも近くなる話題は
…上手く避けてしまう。


流石、叩き上げでやり手のクラウスの事はある。
適度に盛り上がる会話をしつつも
重要な話題はサラリと自然な感じで避けるのだ。

う〜ん、やはり…彼はかなり手強い。





恭弥さんは、実に見事な話術で
色々な角度から、何度も話題を振っているのだが…
肝心な話題に近くなるとスルリと内容を変えて返事を返される事が続く。

だからと言って、一度避けられた話題を何度も出す訳にも行かず
…なかなか難しい。

何度か自然な会話の中で、私も恭弥さんと一緒になり
クラウスに話を振ってみるが
…決して欲しい情報関連の話題にはならない。




『外出先では、酔うまでは絶対に飲まないクラウス相手に
これ以上、この方法で接触するのは無理があるのではないか…』
『あまりしつこいと…私達の素性を疑われる可能性もあり危険かもしれない』

…と、そう思っていた時…

恐らく同じ事を考えたのであろう恭弥さんが
チラリと私を見た後からは
全く、情報関連の話題とは関係ない内容で会話をし出した。



…どうやら…
今日は、もうこれ以上の話題を振るのは止めるらしい。

そう理解した私は
折角のチャンスを生かせなかった事に内心で落胆しつつも…
状況的に仕方ない事であるし…と諦めて
ごく普通の会話を繰り広げる事にした。










肩の力を抜いて会話をするようになってからは
私も会話を楽しめるようになった。

そうやって和やかで良い雰囲気で食事が進み…
後はデザートを残すのみとなった時に…ふと、クラウスが…

笑顔を見せつつ
少しだけお茶目な言い方で話し掛けて来る。



「先ほどから、お二人がとても楽しそうなので僕も嬉しいですよ。」
「…どうやら…僕が此処に座った甲斐があったようですね?」



喧嘩の事を言われているのが分ったので…

「一緒に食事をして下さったお陰です。…本当に有難うございます。」

…と、笑顔で答えると…




恭弥さんも…

「僕からもお礼を言わせて下さい。」
「この後どうしようかと、内心で思っていた所だったので本当に助かりました。」


苦笑いと共にそう話す恭弥さんを
面白そうに見たクラウスは…


「では、僕も正直な感想を言いましょうか…」


と前置きをした後…
ふと…今までと少しだけ違う表情になり…






「…実は…」
「お二人が喧嘩をしているらしいな…と気が付いた時に…僕は、軽く嫉妬を感じました。」




「…えっ…?」




“嫉妬した”って…どういう意味なのだろうか?

意外な事を言われて…
驚くと同時に…少し怪訝な目でクラウスの方を見る。




恭弥さんのほうは…
真っ直ぐに、クラウスの方を見たまま…無言だった。













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