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虹の彼方 149





「…………。」



「…………。」




お互いに無言のまま…時がゆっくり過ぎる。

恭弥さんは、相変わらず…真っ直ぐに私を見て来ているが、
私は恭弥さんと直接視線を交わらせるのが怖くて
…下を向いて俯いている状態。






今まで私が様々に出した案は…
時に苦笑され、時には僅かに笑われつつ…やんわり却下されて来た。

シュンとする私に恭弥さんは…

『君の案は素人考えの域を出ていない物が多いが…色々とアイデアを考える中に…』
『キラリと光る案も一部だが、ある。』
『だから今後も…何か思い付いた時は、遠慮なく言ってみて。』

…と、優しく言ってくれていた。



だから私は…例え却下されるアイデアであっても
『もしかしたら役立つアイデアが含まれているかもしれない』
と思って、恥ずかしさを抑え…恭弥さんに話して来た。

今回も、同じような感じで話をしたのだけれど
…何がそんなに悪かったのだろうか?

ここまで恭弥さんを怒らせるような事だったのだろうか?








…静かだけど激しく…
怒りのオーラを向けて来る恭弥さんの気持ちが分らず
…困惑しつつも、必死に頭を回転させる。

具体的に、どの部分に怒っているのだろうか?



今は、恋人&婚約者設定で動いているけれど…
それでも…
“恋人が優しくしてくれないので他の人が良く見える”とか…
“喧嘩して自暴自棄になる”とか…
そんな事になったという設定にした上で
私が動く事は可能だと思ったのだけどな…




そう言えば、さっき恭弥さんは
『君自身が直接…クラウスに“色仕掛け”をするつもりかい?』
…と聞いて来た。



あれは、ええと…
“クラウスにハニートラップを仕掛けるというアイデア自体に怒っている”
という事よりは、

“私のようなド素人が、ハニートラップを仕掛けようとするなんて、言語道断”
“出来る筈がない。失敗するに決まっているだろう”
“そんな事を、私がすれば…かえって怪しまれるのが分らないのか”

…という感じで思っていて
こんなに怒っているのだろうか?




う〜ん…良く分らない。

自分自身でも…上手く出来る自信はないけれど
…兎に角何か行動しなければ!
と思って、ふと思い付いた案を言ってみただけなのに…

そこまで怒る程に…
私は役立たずであり、下手をすると計画が台無しになる
…という事だろうか?









いたたまれない空気の中で…
少しでも何か考えていないと、息苦しく感じるのもあって
…色々と考えを巡らせていた時…



「…優衣…。どうして僕が怒っているのか、まだ分らないみたいだね。」

…と、とても低い声が聞こえて来た。



恐る恐るゆっくりと顔を上げ
チラリッと…恭弥さんの顔を見る。

…うわっ〜凄く怒ったままだ。
う〜ん…
怖いけれど、返事をしない訳にはいかないだろう…。





勇気を出して…さっき考えた事を話す。

「…あの…私のようなド素人に出来る内容ではない…という事ですか?」

「私がやっても…どうせ失敗して、下手をすると今回の仕事が台無しになる…からですか?」

と、小さく声を振り絞って返事をしたが…






「…やはり、何も分っていないようだね。」



恭弥さんが怒っている理由の推測を言ってみたのに
…違ったようだ。

これ以上、余計な事は言わない方が良い気がして
…そのまま無言になった。



「…………。」








黙り込んだ私を見て
再び低い声で話をし出した恭弥さん。



「本当に君は…何時になったら…僕が言っている“真意”を理解出来るようになるんだろうね。」
「勘は良い筈なのに…どうしてここまで頑なに“理解を拒否”するんだい?」

「無意識なのだろうと思って、ずっと耐えて見守ってきたけれど…そろそろ僕も限界だ。」





「…………。」


無言のまま、恭弥さんの顔を見て
…今の恭弥さんの言葉の意味を考える。

私が“理解を拒否”しているって…どういう意味なのだろうか?
恭弥さんの“真意”って…何の事なのだろうか?

申し訳ないけれど…
今の私には、恭弥さんが何を言いたいのか…本気で分らない。

でも、今の雰囲気で…
それを口にするのは止めた方が良いだろうと思って…無言で通す。





「…優衣…。ここまで鈍いと…意識的にやっているようにしか見えなくなる。」
「君は…僕に喧嘩を売っているのかい?」



言われた言葉に驚いて
少し俯いていた顔を再び上げて…恭弥さんの方を見る。

私が…何を意識的にしていると言うのだろうか?

それに…私が恭弥さん相手に喧嘩を売るなんて!
そんな事…ある筈がない。



でも、自分ではそんなつもりは無くても
…恭弥さんには“そう見える”という事なのだろう。

どこをどう見たら、そんな風に見えるのか全く分からなくて
困惑すると同時に…
こんなにも恭弥さんを怒らせてしまった事が哀しくなって来た。



どうして良いか分らず…再び俯いて…
ナプキンをギュと掴んだ。




「ゆっくり…君の“成長”を待つつもりで耐えて来たけれど…」
「クラウスに対して、よりによって君自身が…ハニートラップを仕掛る案を出すなんてね。」

「今の君が、妙に焦っていて普段より冷静さを欠いているのは知っている。」
「それにしても…そんなアイデアを堂々と言うなんて…僕を馬鹿にしているようにしか見えない。」





(…っ…)

「…私は決して…恭弥さんを馬鹿にしたり…しません。」


小さい声で…でも必死の思いで俯いたまま告げる。



…が…




「ここまで言っているのに…どうして君は分からないんだ。」
「…どうして僕の気持ちを…頑なまでに、分かろうと…理解しようとしないんだ!」


低いけれど…
今までより少しだけ大きな声だった事に驚いて、思わず顔を上げる。

そこには…怒りと共に少し哀しそうな顔をした
…恭弥さんが居た。



どうやら私は…恭弥さんを怒らせただけでなく
哀しませてもいるようだ。




…あぁ…最悪だ。



でも、本当に訳が分らないのだし…
一体…何をどうすれば良いか全く分らない。








頭が混乱してゴチャゴチャになり…

もう半分、自暴自棄気味になり
…チラリと恭弥さんを見つつ、思い切って口を開く。




「そう言われましても…本当に、恭弥さんが何を言いたいのか分からないんです。」
「決して、ワザとしている訳ではありません。」
「…だから…こんな私にも解かるように…詳しく丁寧に説明して下さい!」





「…僕相手に逆切れかい?良い度胸をしているね……優衣……。」



今までより…
更に低く冷たくゾクリッと感じる恭弥さんの声色が…響いた。














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