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虹の彼方 148




ターゲットであるクラウスと
上手く接触が出来ない日々が続いていた中…

パーティでもレストランでも上手く機密事項を聞き出す事はおろか
ゆっくり会話も出来ないなら、何か他の方法を考えようと思い
自分なりに一生懸命に考えては、恭弥さんに提案したりもした。


…が、私のアイデアは…
このような事に長けている恭弥さんや財団員の皆さんから見ると
危険が大きかったり、計画に無理があったり
作戦の為に必要な物を準備出来るような内容ではなかったり…と
“使えないアイデア”が多く…
どれもこれも“やんわりと却下”されてしまった。






そんな風に、悶々とした日々を過ごしていた中で…
今日は…
“クラウスが夕食を食べに来るのではないかと目星を付けたレストラン”
に先に来て…ゆっくりゆっくり時間を掛けて食事をしつつ
クラウスの登場を待っていたのだが…

隣の席で食事をしている…
仲が良さそうなカップルを見ていて…
ふと…私が“女性”である事に気が付いた。

いや、当たり前の事なのだけれど…私も一応女性なのだ。
しかも、年齢だってまだ若い。



…という事は…
もしかしたら“アレ”が出来るのではないだろうか?
ここまで、色々試してもダメで、他のアイデアもダメなら
…もう、コレしかないのではないだろうか?


少し冷静さを欠いている頭で考えた事だけど…
今の私には“素晴らしいアイデア”に思え
目の前で、ゆっくり食事中の恭弥さんに
小さめの日本語で話し掛けた。




「あの…恭弥さん。」
「また1つアイデアを思い付いたのですが…聞いて頂けますか?」



「…ん?クラウスに接触する為のアイデアかい?」



「はい。あの…ちょっと変わったアイデアですし、」
「それに、上手く行くかどうかも…全く自信がないのですが…」



「うん。…話してみて。」








「あの…クラウスは、今は奥様とは長い期間別居中との事なので…」
「その、私が…クラウスに関心があるフリをして近づくのは…どうでしょうか?」



「…………。……優衣。…まさかとは思うが…」
「“君が”クラウスに対して“ハニートラップ”を仕掛けるという事かい?」



「ハニートラップと呼べるレベルの物ではないと思いますが…その…」
「一応私も、若い女性なので…もしかして関心を示してくれる事もあるかと思いました。」







「…優衣…。…もう一度聞くよ。」
「君自身が直接…クラウスに“色仕掛け”をするつもりかい?」



「あ、あの…私では役不足なのは充分に承知しているのですが…」
「でも、…風紀財団には女性は殆どいらっしゃらないですし…」
「その…このまま何も出来ないより…少しでもお役に立てるかと思ったのですが。」



「…………。」




私の返答を聞いた恭弥さんは
…無言になり…同時にもの凄く!不機嫌になった。

見るからに…ご機嫌斜めである事が周囲に解る程だ。


ど、どうしよう…。
ここまで不機嫌になるとは思わなかったな。



そんなにダメな案だったのだろうか。
確かに、私にハニートラップとか色仕掛けと言われる事を実行するのは…
正直、無理があるというか…出来る気がしないというか…

ハッキリ言えば、そんなに高度なレベルじゃなくて…
ちょっとお茶に誘う的なレベルしか無理だとは思う。

それでも
“そんな程度でも、私には無理かもしれない”
とは…少し思う。




でも、でも…
ここまでクラウスとの接触が上手く行かない状況を何とか打破する
“切欠”にぐらいなるのではないだろうか?
…と、自分なりに考えた結果だ。

…私だって、
少しでもお役に立ちたいと思っているのだ。






無言で睨むように見て来る恭弥さん相手に話をするのは
…正直、とても勇気が要る。

でも、少しでも自分の思いを伝えたいと思って
意を決して再び口を開く。



「…あの…正直、私には映画で見るような…、その、男性をベッドに誘うような…」
「高度な会話術やテクニックの必要なハニートラップは…絶対に無理だと良く分っています。」

「ですから、その…ちょっとお茶に誘って個人的に親しくなる…という程度の物を考えているのです。」
「そんなのは…ダメでしょうか?」




「…………。」



恭弥さんは、勇気を出して必死に話した私の話を
黙って聞いた後…

食事中だったナイフとフォークを静かにお皿に置き
その後…無言のまま憮然として、目の前のワインをグイッと一気に飲んだ。

そしてワイングラスを置き、一度ナプキンで口を綺麗に拭った後に…
徐に視線を上げ、正面から私に鋭い視線を向けてジッと
…射抜くように真っ直ぐに見て来た。


(…っ!!…)


久々に怖さを感じる…恭弥さんの視線。

何時になく、真剣に心底怒っているのが
…その射すような視線だけで解かる。




今まで、少し不機嫌にさせたり
怒らせてしまった事も何度かあったけれど…
でも、私に対して…
こんな風に怒りを露わにした視線を向けられた事は…なかった。

今までは、もっと…穏やかな怒り方というと変だけれど…
心底怒っているという感じではなくて…
“全く仕方がないな”という感じだった。



でも、今の恭弥さんは…明らかに違う。
今まで私が見た事のない怒りの感情を向けられている。

ここまで怒っている恭弥さんを見るのは…
ニックやポルポ・ファミリーに向けた物以外では…見た事がない。

まぁ、あの二つの事件とは…内容も程度も違うし
流石にあれ程には激しい怒りでもないけれど…
でも“怒り方の中身・雰囲気”としては近いような気がする。







目の前の恭弥さんの怒りのオーラに気圧されて
…何も言えなくなる。



「…………。」



私も、無言のまま…
ゆっくりとした動作でナイフとフォークをお皿に置き
その後、一口だけワインを飲んで…
同じくナプキンで口を拭って…恭弥さんが口を開くのを黙って待った。








暫くの間…無言の気まずい雰囲気で過ごす。

恭弥さんのワイングラスが空になっている事に気が付いたソムリエが来て
私達二人の微妙な空気には
全く気が付かないフリをして…テーブルの上のワインボトルを手に取り
恭弥さんのグラスに…静かにワインを注いでくれる。



それを無言で見ていた恭弥さんは
私のグラスにワインが注がれている間に…
自分のワインをクイッと一気に全部飲んでしまった。

それを見たソムリエは、再び…
何もなかったかのように恭弥さんのグラスにワインを注ぎ…

ワインボトルを置くと
…静かに私達のテーブルから離れた。















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