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虹の彼方 146





朝食を食べたレストランを出た後に直ぐにホテルの部屋に戻り
着替えをした後は…
汚れたスカートや服はクリーニングに出した。

そのまま部屋で過ごしていると…
11時少し前に…
ホテルの部屋の電話に、クラウスから連絡が来た。


内容は…
『今日のディナーを一緒に食べたいがどうだろうか?』
という物だった。

『今日の夜は空いているので大丈夫です。』
と返事をして、クラウスが告げて来たレストランで会う事にした。







クラウスが指定して来たレストランは
ウィーン市内でも比較的有名な老舗レストランだった。

このお店もクラウスお気に入りのお店であると
…調査書にのっていたお店のひとつだ。


現在…夫人とは別居中であるクラウスは
3食全部を外食する事が多いようで“行き付けの店”が数か所ある。

待ち合わせのレストランは
そこそこに格式の高いお店なので、それに合わせたドレスを選び
待ち合わせの時間の5分前に到着するように出発した。




私達がお店に着くと…
丁度クラウスも到着した所だったようで、入り口で出逢った。
常連のクラウスが来たのを見つけたウエイターが
奥の予約席に私達を案内してくれる。






席に座った後…クラウスが口を開く。


「今回は、お呼び立てして申し訳ありません。」
「本来であれば、僕のほうからホテルに伺いお詫びするべき所なのですが…」
「このレストランは、とても美味しい料理を出すしワインも美味しいので」
「僕のお詫びの気持ちも込めて…是非、お二人にも味わって頂きたいと思いました。」



それを聞いた恭弥さんが…

「いや、寧ろお誘い頂いて嬉しかったですよ。」
「…実は…このレストランは美味しいと人伝に聞いていたので、行きたいと思っていたのです。」



私も隣から…

「是非一度行ってみたいねと、丁度昨日…二人で話していた所でした。」

と笑顔で言うと…



「…そうですか。それを聞いて安心しました。」
「今日の支払いは全て僕で持ちますので…」
「お好きなだけ食べて、ワインもお好きなだけ飲んで行って下さい。」



「お気遣い有難うございます。遠慮なく…そうさせて頂きます。」


と私がにっこりと微笑み、和やかなムードになった所で…
メニューを見つつ、各自で食事の注文をした。








注文したワインと前菜に当たる料理が来た頃に
クラウスは少しハッとした顔をして…


「そう言えば…名刺だけお渡しして、まだちゃんとご挨拶もしていませんでしたね。」
「大変…失礼しました。」


という前置きの後
簡単に自分の自己紹介をし、会社の概要を話す。

それを聞いた恭弥さんも、簡単に自己紹介をして
私の事は婚約者であると紹介をした上で…
改めて恭弥さんとクラウスがその場で握手をしつつ…


「今回、オーストリアには…」
「僕の事業の取引き先になりそうな相手を探すのが目的で来たんです。」

と告げると…



「それなら今度…仕事関連の人達が大勢集まるパーティを友人が主催するので…」
「もし宜しければ、僕の紹介という事で…それに参加されませんか?」
「僕の知り合いで、貴方のお役に立てそうな人物を何人かご紹介しましょう。」


と申し出てくれた。

この流れは…正に私達が狙っていた流れなので
『是非、お願いします。』という事でお願いした。








最初は、ひたすら申し訳ない…という態度だったクラウスだが
どうやら自分が役に立ちそうだと解かると
表情も明るくなり、途中からは良い雰囲気になった。

食事中…事前のデータ通りに
『人前では、決して酔うまで飲まない』のを確認しようと
ワザと恭弥さんは、遠慮なしにワインをドンドン注文したが…



「いや〜貴方は、なかなかのワイン通ですね。…とても良いワインばかり注文する。」


と笑って…
恭弥さんが注文したワインを一緒に飲んでいたクラウスだが…
途中からピタリッと飲まなくなった。



幾ら私や恭弥さんが勧めても…

「僕は、これ以上飲むと酔いそうなので…」

とキッパリ断って、絶対にそれ以上は飲もうとしない。




相当に堅い決意があるようで

「僕は、外出先では一定以上は飲まないと決めているんです。」

…と、ハッキリ言われた。







…うん。
調査結果通りの人物のようだ。

こうなると、ドイツのハンスの時のように…
“飲ませて酔わせて機密事項をしゃべらせる”
…という作戦は取れない。


怪しまれずに、上手く知り合いにはなれたし
パーティにも誘って貰えたが…
この先、どうやって情報の在処を聞き出せば良いか…悩む所だ。




その日は、機密事項に関わるような会話は一切出さずに
無難な日常会話だけで終わらせた。
変に警戒心を持たれないようにする為だ。


接触初日の目標であった
『クラウスの側に“恩を売った”形で知り合いになる』
…などは、無事にクリアー出来たので
それ以上欲張りな行動は慎む事にして、普通に食事を楽しんで終わった。







++++


++









今日は、クラウスが紹介してくれた…
彼の友人主催のパーティの当日。

恭弥さんとも相談の上
こんな時の定番とも言える「着物」で参加した。

思惑通りに目立ってくれて
クラウスが紹介してくれた人達との会話も弾む。



極端に人が多いパーティではなく
参加者達は全員クラウスの友人の仕事関連の人達なので
前回のイタリアの時のように、大勢に囲まれ過ぎて困るような事もなく安心した。

…が、肝心のクラウスとはあまり話を出来ない。




適度なタイミングで
恭弥さんを自分の知り合いに紹介してくれるのだが…
紹介が終わると

「後は、お二人でどうぞ」

と…他の場所に移動してしまうのだ。



“仕事の話が弾むように”というクラウスの心配りなのだろうし
想定していた事態でもあったが
クラウスと一緒にいる時間が“あまりに少ない”のは計算外だった。



仕方ないので恭弥さんは、架空の仕事の内容を話し
紹介された人物達と会話を繰り広げていたが
最後まで、肝心のクラウスと話す切欠が…殆ど掴めなかった。

こうして、この日のパーティは…
更にクラウスの印象には残る事は出来たとは思うけれど
深い会話をする事なく終わってしまい…

初日より、少しだけ親しくなれた気がする…
という程度で幕を閉じた。











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あきゅろす。
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