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虹の彼方 145





翌日…もうすっかり元気になった所へ
草壁さんから
「ターゲットのクラウスが昨夜遅くに帰国したようです。」
と連絡が来た。

丁度良いタイミングだ。
これ幸いと…早速、クラウスと接触する為の行動に出る事にした。






今回のターゲットのクラウスは、今までの中で一番“難関”だろう
…という予測なので
パーティで知り合って〜というパターンではなく
ちょっとした小細工で最初の接触をする事にしている。


その舞台となるのは…
クラウスお気に入りのカフェ&レストラン。

カジュアルな雰囲気だけど
飲み物もケーキやお菓子類も、そして食事も美味しいと評判のお店だ。

自宅からも会社からも近いこのカフェ&レストランに
クラウスはだいたい1日に1・2度は訪れる…と調査書に書いてあった。

時には、朝昼晩の3食をこのお店で食べる日もある程だという。
もう長年の常連さんなので…
お店のほうでも『クラウスのお気に入りの席』は
余程、混雑している時以外は『予約席』として空けてくれている程だ。




クラウスは、先ずは朝食の時間帯にお店に寄り
簡単な朝食を食べてから出勤するのが日課。
恐らくは今日も…
何時もの時間にその店で朝食を食べるだろう。

…という事で
クラウスが食事をしている時間帯を狙って、そのお店に行った。






到着して…店内を見渡す。
すると事前に調査した通りの「お気に入りの席」にクラウスが居た。
今、正に朝食を食べている最中だ。

恭弥さんと、さりげなく視線を交わし…
事前の打ち合わせで決めた辺りの席に二人で座る。

そして…私達も軽い朝食をオーダーし
クラウスの様子をチラ見しつつ過ごす。





暫くして…私達より先に食事を終えたクラウスが…
何時ものように、その後オフィスで飲む為の“持ち帰り用の珈琲”を注文し
そのカップが届けられると
直ぐに支払の為にレジのほうに歩き出した。

忙しいクラウスは、食事の後の珈琲をお店で飲まずに
自分の会社のオフィスに持ち帰り
その日の仕事のスケジュール確認をしつつ飲むのが日課であるそうだ。






クラウスが歩いている通路を真っ直ぐ来ると
私達の席の横を通る事になる。


…さぁ、いよいよだ。




そう思っている時…
クラウスが歩いているのを追い抜くようにして、
同じ通路を足早に男性が歩いて来て…

…ドンッ!!…

丁度、私達が座っている席の真横で
クラウスと軽くぶつかった。



(…っ!…)

その時の勢いで…
クラウスが持っていたカップの珈琲が少し零れた…!

カップのフタは、軽く上に乗っているだけに近い物で
密閉容器では無い為、フタが飛び一緒に珈琲も零れてしまったのだ。

そして…私の真っ白なスカートに
珈琲の大きな目立つシミを作ってしまったっ!




…が…
クラウスにぶつかった男性は余程急いでいたのか…
チラリと見つつ「…失礼!」と私達に声を掛けたが
全く立ち止まらずにまっすぐにレジに向かい
さっさと支払いをして、お店を出て行ってしまった。

クラウスは、自分にぶつかった人物を
憮然とした表情で見送っている。
あの態度には、流石にムッとしたようだ。







だがしかし、次の瞬間には…
慌てたように、私の方を見て謝罪して来た。


「あぁ!…申し訳ありませんっ!」
「貴女の服を、僕の珈琲で汚してしまいました!」



如何にも“悪い事をしたっ!”…という感じで
謝罪して来たクラウスの方を見てニッコリ笑顔で答える。



「貴方のせいではありません。どうか気にしないで下さい。」
「それに、少し汚れましたが…」
「幸い宿泊先のホテルが近いので直ぐに着替えられますし…大丈夫ですよ。」


そう答えると…






「いやいや!本当に申し訳ない。ちゃんと弁償します。」
「…ええと、もしかしたら旅行者の方でしょうか?」
「何処のホテルなのか教えて頂けませんか?」



それに対して、恭弥さんが…


「僕達は…日本から仕事の為に来ています。」
「○○ホテルに宿泊していますが…」
「彼女が言うように大した汚れではありませんので、どうか気にしないで下さい。」



「いや、それはダメです。ちゃんと弁償させて下さい。」
「ただ…実はこの直ぐ後に…」
「仕事で大事な商談があり先方を待たせる訳にはいかないので…」
「大変に申し訳ないのですが…商談の後に、改めて連絡をさせて下さい。」


そう言いつつ、クラウスは急いで
自分の名刺を出しつつ私達に差し出して来た。







それを私が受け取ると同時に、
恭弥さんが自分の名刺を差し出し…


「一応…僕の名刺もお渡ししますが…本当に、気にしなくて大丈夫ですよ。」


と、更に言う。
恭弥さんの名刺を受け取ったクラウスは…


「そんな訳には参りません。」
「お嬢さんのスカートをこんなに汚してしまって、そのままなんて絶対に出来ません。」
「どうか…後で連絡させて下さい。」


と重ねて言うので…


「…分かりました。」
「では、お昼過ぎまではホテルで休んでいるので…○○号室に連絡して下さい。」


と恭弥さんが返事をし
それを聞いたクラウスは何度も謝りつつも
大急ぎで支払いを済ませ…
お店を出て自分の会社に向かった。








お店の窓から、クラウスが大急ぎで歩いて行くのを見送りつつ
恭弥さんと、こっそり視線を合わせ…
お店の人に見られていない事を確認の上で
お互いに少し微笑する。



うん。

…全て、作戦通りに上手く行った。







…実は…
先程クラウスにぶつかった人物は、財団が依頼した人物だ。

日本人の財団職員では怪しまれるので…
ドイツ人の財団と関わりのある人物を特別にオーストリアに呼び
今回のようになるように『仕掛けて』貰ったのだ。

タイミングもバッチリだったし
私のスカートにも目立つシミが出来てくれて『最高の出来』だった。
その為に…
今日のスカートは、敢えて真っ白な物を選んでおいたのだ。



仕掛け人のドイツ人は、今頃はもう空港に向かっているだろう。
変にクラウスと接触する事がないように
『無事に仕事が終わり次第、出国する』事になっている。

真面目な性格のクラウスだから
このような場面では必ず『弁償します』と言うだろうと計算の上
今回のような計画を立てたのだ。

思った通りに事が運び、本当に良かった。






だが…本番はこれからだ。


そう気持ちを引き締めつつ、そのお店を出ようとしたら…
私達の分の支払いは、既にクラウスが済ませていた。



…うん。
こんな所は、如何にもクラウスらしいと感じる。


そう思いつつ、私達はホテルに戻り
…クラウスからの連絡を待つ事にした。













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