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虹の彼方 144




恭弥さんに、手厚く看病して貰ったお陰だろうか…
次の日は、お昼過ぎた頃になると
少しだけ起き上がれるようになり、僅かに食欲も出てきた。



そんな私の為に恭弥さんは
部屋に備え付けられている簡易キッチンを使って
“どうしても日本食が恋しくなった時の為に”と…
念の為に日本から持って来ていたレトルトのご飯を使って
…ワザワザ“おかゆ”を作ってくれた。

一緒に持って来ていた梅干も添えてくれた…本格的なおかゆ。



まさか、こんな場面で食べる事になるとは思わなかったけれど
…これは有難い。
食欲もなく胃腸も弱っている身体には、おかゆは最適だ。


少しだけでも食べ物を食べられた事で
ちょっとでも体調が良くなった気がする。
“やはり、食べ物を口から入れるという事は
とても大事な事なんだなぁ”と思う。


その後は、高熱で汗を掻いた全ての服を着替えて
…また眠りについた。







夜に再び起きた時には…
お昼よりも更に食欲も戻っていたのを確認の上
再び恭弥さんが
卵や根菜類が少し入った“おじや”を作ってくれる。

材料となる根菜類は
草壁さんが用意してくれたみたいだけど
調理は恭弥さんがしてくれた。



「熱いから気をつけて。」



そう言いつつ
恭弥さんが差し出してくれたお皿を受け取り



「…有難うございます。」


とお礼を言ってから、食べ始める。

(…!…)

これは…美味しい。



お昼のおかゆと違い、和風の味付けをしているおじやなので
少し食欲が戻った私には食べやすく有難い。



「…とても、美味しいです。」



「そう。良かった。」
「…まだあるから、食べられそうなら出来るだけ沢山食べて。」



「はい。」



そう答えて、ゆっくりだが完食し…
おかわりをして2杯分頂いた。




恭弥さんが何でも出来るのは
承知していたつもりだったけれど…
普段は全くしていないと思われるお料理まで
やろうと思えば出来るんだ…と改めて驚いた。

“おかゆ”も“おじや”も
両方共シンプルに作られた物だったけれど…
それだけに“素材の味を生かしているかどうか”
というような事が分りやすい。



おかゆのお米は潰れておらず水加減も丁度良かったし
…味も香りも良いおかゆに仕上がっていた。
レトルトのご飯を使って作ったのに…
ベタベタの海苔状にもならずにサラサラのおかゆだった。
一体、どうやって作ったのだろうか?


おじやの方は
薄口だが上品で美味しい“だし”で作られており、
根菜類は小さくカットされているのに
素材の味はちゃんと生きていて
それを卵が優しく包んでいて…
本当にうっとりする程に美味しく仕上がっていた。


暫くまともな物を食べていなかった事を差し引いたとしても
…掛け値なしに美味しい出来だった。
ごく限られた材料で
よくここまでの物が作れたものだ。

恭弥さんって…
器用だし料理センスもあるんだな…と、そんな事を思う。







夜通し看病で付き添ってくれた後に…
今度は恭弥さん自身の手で
わざわざ…おかゆやおじやまで作ってくれるなんて。

本当に有難く嬉しいと同時に
…こんな事になって申し訳ない気持ちになる。

けれど…その気持ちと同時に…
私の中には…別の感情もあった。



それは…
恐らくは他の人には滅多に見せないであろう恭弥さんの姿を…
たくさん見る事が出来た喜び
…という、ちょっと変わった感情。

心配顔で看病してくれたり、薬を飲ませてくれたり
自ら調理をしたり…
きっと、どれもこれも…
あまり他の人には
見せていない恭弥さんの姿なのではないだろうか。


今、恋人&婚約者設定で一緒に居るからこその特権
…とも言える状況に
ほんの少し嬉しさや喜びを感じてしまったのは
…内緒の話だ。





++++

++







高熱が出て3日目の朝には…
熱もすっかり下がり、普通に食欲も戻った。

…が、恭弥さんは
今日一日は安静にするように…と言って
基本的にベッドから出してはくれなかった。



高熱の後で、身体中が
汗でベタベタして気持ち悪いので、お願いして…
短時間で簡単にシャワーを浴びて
汗を流してスッキリして着替えをした頃には、
かなり体調も良くなり、食事はルームサービスで
お部屋に運んで貰った普通の食事を摂る事が出来た。

まだ、それほど多くの量は食べられないけれど
普通食を食べられるようになった私を見て
恭弥さんは、とても嬉しそうにしてくれた。




「食欲も戻ったみたいだし、顔色も良くなっている。」
「今日一日、念の為ゆっくり過ごせば…明日には完全に回復しそうだね。」



「…はい。お陰様で気持ち的にはすっかり元気になりました。」
「色々とお世話を掛けてしまい申し訳ありませんでした。」



「仕事に支障もないし、気にしなくて良い。」
「それに…たいした事はしてないよ。」



「いえ、そんな事はありません。夜通し付き添って看病して下さったり…」
「お食事の用意をして下さったり…とお世話を掛けました。」
「本当に有難うございます。」



「休日らしい休日も無く…」
「多少強引なスケジュールで君を連れ回しているのは…僕だ。」
「これぐらいの事は当然だよ。」


そう話した恭弥さんの表情は柔らかく穏やかだった。






その事に嬉しさを感じつつ
食事の後の紅茶を飲んでいたら…


「さっきシャワーを浴びていたけれど…」
「本当は僕が…寝込んでいる間に、暖かいタオルで何度か身体を拭いてあげたかったよ。」



「…え?」


恭弥さんの言葉を意外に思いつつ
視線を上げて顔を見ると…
そこには、悪戯っ子のような表情の恭弥さん。



「君が恥ずかしがるだろうと思って…顔を拭くタオルを数度渡すだけにしたんだ。」
「恋人で婚約者の身体を拭いてあげる事ぐらい普通の事だと思うけれど」
「…君は遠慮しそうだからね。」



そう話しつつ、僅かに目を細めて
…面白そうな顔をする。



「…………。」


これは…からかわれているんだな…と思いつつ
微妙な顔で黙っていると。



「…何、その表情。もしかして、僕に拭いて欲しかった?」



「…いいえ、結構です…。」



恭弥さんの言葉を否定すると…



「そう?遠慮は要らないよ。」


と言いつつ、どこか…
機嫌の良さそうな嬉しそうな顔をしながら
…微笑する。




私が回復した事を喜んでくれていて…
ホッとした安心感もあり、こんな事を言っているのだろう。

言われた内容は兎も角…
私的には…
恭弥さんと、こんなやり取りが出来る事自体が嬉しかった。













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