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虹の彼方 142





南イタリアから、空路でオーストリアのウィーンに着いた。

今回滞在するホテルは、ウィーン市内にあるホテルのひとつ。
ハプスブルグ時代を彷彿とさせる格調高いホテルであり、
時には迎賓館としても使われる事もあり、各国の王侯貴族に愛されている有名ホテルだった。

総大理石の階段や廊下。
とても高い天井。
まるで宮殿のような外観と内装は、歴史を感じる。



ウィーンのホテルらしく
ウエルカムフルーツ以外にも…
お菓子には、ウィーン菓子の焼き菓子とチョコレートが置かれている。

室内には、豪華なクリスタルシャンデリアが輝き、何時もにも増して豪華さを感じる室内。
お部屋には、ベッドルームが3室もあり…
大理石のバスルームにアメニティは全てブルガリ。
備え付けられているオープンバーには高級シャンパンが並んでいる。

寝室もリビングもバスルームも
…全ての部屋が広すぎる!という程の広さ。
正直言って私の感覚では豪華過ぎて…
本当に寛ぐことが出来るかな…と思う部屋だ。



更に驚いた事に…
専用のパーソナルバトラー(部屋付き執事)までいる部屋だった。
…が、恭弥さんは部屋に到着すると同時に
専属バトラーとして挨拶をしたばかりの彼に
お給料と言っても良い金額のチップを渡して断ってしまった。

仕事柄、かなりの機密事項を扱う事を考えれば当然だとも思うけれど…
ちょっと勿体ないな…と思う庶民の私。

こうして…何時ものように超豪華な部屋に
恭弥さんと二人で暫くの間逗留する事になった。







公用言語がドイツ語であるこの国は
歴史的にはハプスブルク家の帝国で有名な国だ。
(より正確には標準ドイツ語ではなく
 南部地方のドイツ語系の方言が口語として使用されている)

モーツアルトなどを生んだクラッシック音楽大国であり、
特にウィーンは音楽の都として知られている。

他にもウィーンは、様々なウィーン菓子やワインでも有名だし
芸術的な物・歴史的建造物・世界遺産などなど…
国全体としてトータルで見て…どこか優雅さを感じる国だと思う。



国土はそこそこの大きさだけど…
実は経済的にはGDP値も高く、世界の中の豊かな国の中のひとつでもある。
尤も近年は…
EU全体が落ち込んでいる為、多少苦労しているようだけど。







このオーストリアでのターゲットは
この国でも最大級の企業グループを率いている男性だ。
今回のターゲットのコードネームは『クラウス』


クラウスは、もう年齢は50歳を超えているが
大変に精力的に世界中を周り仕事をしている人らしい。
“趣味は仕事”である言い切る程の人物であり…
そのあまりの仕事熱心さには、周囲にいる人達も辟易する程だとか。

現在、夫人とは別居中で独り暮らし。
ワインが大好きなのだが
自宅で1人で寛ぐ時以外には決して酔うまで飲まないので有名。

友人知人を含め、今まで一度も『本当に酔ったクラウスを見た事がない』
というから…相当に自制力がある人物のようだ。



ドイツでのターゲットであったハンスと
若干似ている所があるタイプだと思うけれど
クラウスのほうが、更に上を行くワーカホリック(workaholic)であり
尚且つ頑固な程に…他人の前では絶対に乱れた姿を見せない主義のようだ。
これは…なかなか手強そうなターゲットだ。










到着した翌日、ターゲットのクラウスについて再度資料を確認をしつつ
地元の新聞や雑誌などで
クラウスの関係している企業の話題などに目を通していた時

草壁さんから連絡があり…
運が悪い事に
“クラウスは海外の自社支店でのトラブル対応の為に今朝早くに出国してしまった”という。
そして恐らくは、3・4日程は留守にするのではないか…という事だった。

国際社会を舞台にして仕事で飛び回っているクラウスにとっては普通の事だし
一応、そんな事もあるかもしれないと想定もしていた。





恭弥さんと今後の予定について相談したが…
クラウスや周囲の人と会話する時のネタになるかもしれないし…という事で


「ターゲットのクラウスが帰国するまで僕達は、今、話題のオペラを鑑賞したり…」
「クラウスに関係ある場所の地理を頭に入れつつ…」
「少し、この近郊の観光でもして過ごそうか。」


…という事になった。





オペラについては急だったので、良い席を取れるのが3日後しかなかったので
2日間は観光をする事に決まった。

私は、オーストリア観光は子供の頃に一度行ったけれど
小さい時だったのであまり記憶にない。
市内から少し離れているが…
以前から、一度ゆっくり訪れたいと思っていた
世界遺産にも登録されている“シェーンブルン宮殿に行きたい”
と申し出てみたら、恭弥さんは…


「良いよ。…早速、今から行こうか。」


と…あっさり了承してくれて
ゆっくり時間を掛けて見て周る事が出来た。


大人気の観光地である為、とても多くの観光客がいて
恭弥さんは嫌な顔をするのではないかと心配していたけれど
逆に、少し楽しそうに一緒に過ごしてくれたのが、とても有難かった。








この宮殿は…とても美しいバロック宮殿だと思う。
そして庭園は大変に広大で美しい。

テレジア・イエローの外壁が特徴的で目を惹く建物だ。
中は、ウィーン風のロココ風の内装で飾られており
たくさんある部屋が、それぞれの趣向を凝らされていて本当に素敵だった。

どれもこれも溜息が漏れる程の室内だったけれど
その中で、特に私の関心を引いたのはマリア・テレジア関連の部屋。
彼女の寝室や、子供達の部屋などを興味津々でゆっくり見て周った。


女帝・名君主として名高いマリア・テレジアは、大変な子だくさんである事でも有名だ。
超多忙な中、なんと16人もの子供を産み育てている。

フランスのブルボン王家に嫁ぎ…
革命で悲劇的な最後を迎えたマリー・アントワネットは彼女の末娘だ。




マリア・テレジアは、この時代の王侯貴族にしては大変に珍しく
奇跡とも言われた恋愛結婚をした人物。
夫のフランツとの仲は大変良くて夫婦円満であった事でも知られている。

大変な時代の荒波の中で…
見事な政治手腕を発揮した、あのマリア・テレジアが
恋愛結婚であった事や、夫婦円満で子供が16人もいた事を初めて知った時から
凄い人だな…と思っていて、尊敬している人の1人でもある。

なので…今回、こうしてゆっくり
マリア・テレジア関連の物を見る事が出来てとても嬉しかった。







見学中に彼女の功績や逸話が紹介されている文章を読み…
大変に責任の重い立場である彼女が
ひとりの女性としても幸福を求め、家庭を大事にし
生涯夫を愛し、大勢の子供達を育てたという事実は…
色々と考えさせられるものでもあった。


私は今まで…結婚所か、恋愛についても
…恋するという事についても、あまり深く考えるような事がなかった。


けれど、今回こうして恭弥さんと一緒に行動する機会を貰い
…何時の間にか恋に落ちてしまい…
普通の女の子並みの興味関心を持つように変化した。

更に、イタリアでアレックス夫妻の様子を見て
…二人の姿を憧れを持って眺めた。





それでもまだ…
正直言って『結婚』という単語は遠くに感じていた。

“そんな事は、まだまだ先だし当分の間は関係ない”と考えていたのだけれど…
今回、マリア・テレジアの家族の話を様々に読んだことで
…少しだけ…興味が湧いて来たように思う。


今の私には“血の繋がった家族”はひとりも居ない。
そんな私にも…
何時の日か、血の繋がりのある家族を持つ事が出来る日が来るのだろうか。


見学をしつつ…
つらつらと、そんな事を考えている事に気が付き…
この数か月で、私は随分と変わったな…と思いつつ

その最大の“原因”である恭弥さんが
展示品を眺めている綺麗な横顔を…そっと見た。









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あきゅろす。
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