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虹の彼方 132






骸さんに向かって、頭を下げたままの私の頭上で
…更に大きな溜息が聞こえた。


そして…

「…優衣…頭を上げて下さい。」

そっと頭を上げて、じっと…骸さんの顔を見る。








「貴女は、思いの外…聞き分けがないですね。」



「…………。」



「ココで、強制的に眠らせて連れ出してしまう事も出来ますが…」



(…っ!…)



「だが、それをすると…後々まで貴女に恨まれそうだ。」
「貴女の恨みを買うと…クローム達にも迷惑がかかるかもしれませんね。」



「…………。」



「僕の本意ではありませんが…ここは譲ってあげましょう。」
「…あの部屋まで貴女を戻してあげます。」




「…!…。…有難うございます!」









「戻ったせいで…貴女が、助からなくなったとしても僕は知りませんからね。」



「大丈夫です。きっと、もうすぐ…恭弥さんが来てくれます。」



「いくら雲雀恭弥でも…そんなに早く、この船を特定する事が出来るとは思えませんね。」



「恭弥さんなら、可能だと思います。」







「…良いですか、優衣。」
「この広大な公海上の海域には大小合せると何千という船が行き来しているのですよ。」
「その上ご丁寧に…この船のダミー船まで数隻用意されている。」



「…ダミー船まで?」



「ええ、そうです。」
「恐らくは…国際警察が人身売買の摘発をしに来た時に備えて」
「捜査から逃れる為に用意しているのでしょう。」




「…そうですか。…でも…恭弥さんなら、きっと大丈夫です。」








私の答えを聞いて、呆れたように…言われる。


「その自信はどこから来るのですか。」



「単なる…勘です。」
「きっと上手く、この船を特定してくれるに違いないと…そんな気がするのです。」



決して出まかせで言っている訳ではない。
本当に、そんな気がしているのだ。



「…さっきは、僕の幻覚に気が付かなかったのに。」
「雲雀恭弥の事となると、勘が働くのですか。」



「…この勘には、自信があります。」








私の言葉を聞いた骸さんは、小さく溜息をついて…



「そこまで言い切られては…返す言葉もありませんね。」
「では、貴女の勘を信じて行動する事にしましょうか。」



「はいっ。」



「貴女達を、この中国マフィアの船に連れて来て…」
「そのまま部屋の見張りをしている者達の中に…変装した千種と犬も紛れさせています。」



(…っ!…)
「そうだったのですか…全く気が付きませんでした。」



「4人で、何とか出来る所までやってみましょう。」



「はい、宜しくお願いします。」



「戻る時間が、あまりかかると怪しまれます。」
「取り敢えず直ぐに戻って…状況に合わせた判断と行動でチャンスを伺う事にしましょうか。」



「分かりました!…本当に有難うございます!」











話終わったと同時に
骸さんは、さっきのポルポの幹部の姿にサァァッ…と変身する。
相変わらずの完璧な幻術に感心して見ていると…。


「…行くぞ。」

と幹部の声に戻って言われた。







元居た部屋に戻りつつ
船の構造を少しでも頭に入れようと…キョロキョロする。
さっきは、遠慮がちに見ていたけれど
…今は、相手が骸さんだと知っているので
堂々と見て…だいだいの位置関係を頭に入れた。




変身した骸さんと一緒に…
なんとか無事に元の部屋に戻る事が出来た。

その時に、目配せで…千種と犬がどの人なのか教えて貰った。
二人共…私が戻って来たのをみて驚いた顔をしていた。





さっきとは違うルートで移動して来たので、改めて…
船の警備に当たっているポルポと香港マフィアの様子を見たけれど…。
予想外に…相手の人数が多い。武器の装備も多い。

それに骸さんの話だと“お客”達の人数も…結構多いようだ。



う〜ん。
ここまで人数が多いと…全員を無事に助けるのは結構大変そうだ。
こちらには子供達もいるし。

どう考えても…何の騒ぎも起さないで
私と骸さん達の4人だけで全員を他の船まで安全に逃がすのは
少々無理がありそうだ。

となると、恭弥さんの救援が到着して…何らかの騒ぎを起して
彼らの注意を他に向けてからでないと動けないという事だろうか。








そんな事を考えていると…ポルポの者が部屋に来て…
骸さん扮する幹部がいる事に驚きつつも…
そこにいる係の者に…



「そろそろオークションの準備にかかれ。」
と言って来た。




とうとうオークションの時間になるようだ。
ここまで時間を引き延ばせただけでも良かったけれど…
でも…もう少し…時間が欲しかった、な。

中国マフィアの者とポルポの係の者が
リストを見ながら…オークションの順番を確認する。


一番最初に、全商品の『顔見せ』をした後に
1人1人個別のオークションが行われるそうだ。




私達のいる控え室からでも“お客”達が大勢
…隣のオークション会場に入室して来た気配がわかる。


いよいよ…のようだ。


部屋に緊張した空気が流れる。










やがて…係が来て、私達全員は…
隣のオークション会場の舞台に引っ張り出された。

“お客”達のいる室内は薄暗くなっていて…
舞台の上で、強烈に明るいライトを
浴びさせられている私達には、良く見えない。

…が、少しでも会場の様子を見ようと必死に目を凝らして見る。



比較的手前に居る人達の様子を見て
『あぁ、本当に闇のオークションなんだな』と改めて思った。

何故なら…参加者たちが仮面を付けていたから。
参加者全員が…素顔が判らないように…
それぞれ仮面を付けて座っているのだ。







私達全員を簡単に司会の者が紹介した後に…
私は、ひとりだけ前に出され
『今回の目玉商品はこちら』と紹介された。

その途端…会場内の色々な所から
ねっとりとした視線が一斉に向けられたのを全身で感知して
…背中がゾクリッとして…嫌な汗が流れる。



…あぁ…何だろう、この気持ちの悪さは…

まるで蜘蛛の糸のように絡みつく複数の視線が
…全身にべったり付いたように感じる。

表現するのが難しい程の…気分の悪さだ。





ニックに邪な思いを向けられた時に感じたモノよりも
…桁違いに…遥かに嫌な感じだ。

こんな闇のオークションで
“人買い”をしようとしている者達なのだから、
当然、まともな人達でないのは覚悟していたけれど
…想像を超える“異常値”を全身で感じ…激しい悪寒がした。










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