[携帯モード] [URL送信]
虹の彼方 122




…………。




…頭が…とても痛い…ガンガンする。





…それに、ぼんやりして…何か、変だ…

手と足に違和感がある…
これは…手足を縛られているのだろうか?




良く回らない頭でゆっくりぼんやりと考える。
うっすらと意識が浮上しつつあるけれど
まだ目を開く事が出来ない。



どういう訳なのか…目が非常に重く感じる。

なんだろう…この感じ。
それにピクリとも身体が動かない。



(…………。)


かなり朦朧とした頭で、ゆっくりと考えている内に
ふと…
自分が吸入型の麻酔剤を吸わされて、眠らされたことを思い出した。

あの後…私は誘拐されたという事だろうか?



となると、つまり…今は何処かに連れ去られていて
逃げられないように
手足を縛られた状態でいるという事だろうか?





頭の中で、そんな事を考えるけれど
相変わらず目を開く事も出来ないし、身体を動かす事は全く出来ない。


上手く意識は浮上したけれど
身体に効いている麻酔剤の効果はまだ切れていない状態なのだろう。

そう思いつつも、少しでも周囲の状況を知ろうと
耳を澄ませてみる。





すると…遠くに小さくエンジン音のような音が聞こえ
少し振動も感じるような気がする。


ココは一体、どこなのだろうか?




遠くに僅かに響くエンジン音に
意識を集中させてみるけれど…良く、分らない…。

あぁ…まだ、ゆっくりとしか思考出来ない。




それに…ひどく眠い…

まだ、麻酔が切れる時間ではないのだろうか?








そのまま、耳を澄ませていると…
足跡が聞こえてきてだんだんと近くなる。

ガチャリとドアが開くような音がして
複数の足音が近寄って来た。

そして南部なまりのイタリア語で…



「…まだ、麻酔が効いているようだな。」



「あぁ。目は覚めていないが“品定め”には問題ないだろう。」



「そうだな。じゃ、呼んで来ていいか?」



「あぁ。案内を頼む。」



「わかった。」


その後、1人分の足跡が遠ざかって行く。





と、残った1人が…

「お嬢ちゃん…上手く行けば、あんたの引き受け先が決まりそうだぜ?」

と呟く。







その後、その男は室内にある椅子に座ったような音がして
その後は電子音が少し聞こえる。
恐らく携帯電話かスマホのような物を操作しているのだろう。





そう言えば…私のスマホはどうしたんだろう?

あれには位置情報が分る部品が内臓されているので
もし今も私の傍にあるなら、恭弥さんにココの事が分る筈だ。


それに、こんな時に心配する事でもないとは思うけれど…
私にとっては大事なデータをこっそり保存している。

もし、あのデータが全部無くなってしまったら
…かなりガッカリだ。




麻酔を嗅がされた時、咄嗟の判断で
スマホが録音状態になる操作をし…
そのまま手探りで、ヒバードのストラップを引き抜いた。

スマホはそのまま鞄の中に潜ませたが
ヒバードのストラップは、何かの役に立つかもしれないと思って
履いているズボンのポケットにコッソリ滑り込ませている。

ぼんやりした頭で、ストラップの確認をしようとしたが…
まだ麻酔が効いている身体では…確認する事が出来なかった。







にしても、さっきの「引き受け先」とは何のことだろうか?
この男達は私を誘拐した男達だろうと思うのだけれど
…誰に私を引き渡すつもりだろう?


意識だけは浮上したが
未だに目も開けられないし身体も動かないので
当然、声を発する事もできない。

そのまま不安な気持ちを抱えて…
意識が戻り、周囲の音が聞ける状態なのを
気が付かれないようにしようと…必死に息を潜めた。








間も無くして、複数の足跡が近寄って来て
ドアを開いた音がした。
数人の男が部屋に入って来たのを感じる。

と、さっきから部屋で待っていた男が
椅子から立ち上がる音がして…

誰かに向かって話かける…


「まだ麻酔が効いて眠っているが…このお嬢ちゃんだ。」


その声に対して…
酷く聞き取り難いイタリア語で誰かが返事をする。


「…本当に日本人か?間違いないか?」


この話し方は…
イタリア語を母国語とする者ではないようだ…外国人だろうか?



「あぁ。間違いないぜ。…どうだ、まぁまぁだろう?まだ若いしな。」



「近くで見せてくれ。」







そう言った後に誰かが近くに寄って来た気配がした。
そして…今度は中国語…の中の広東語で会話をしている。

私は両親と共に香港にいた事があるので
そこまで饒舌ではないが広東語なら解るし会話も出来る。

主に英語で過ごしてはいたが
やはり香港の地元の友人達と話すためには
広東語を覚えた方が良かったので一生懸命に覚えたのだ。




「このムスメ、どう思う?」



「あぁ、これなら良い。若いし上等な部類だ。」



「そうだな。如何にも日本人らしい所もいい。」



「これならオークションに出してもいいと思う。たぶん人気商品になる。」



「じゃあ、購入決定だな。」







会話が終わった後に
今度はたどたどしく聞き取り難いイタリア語で話す。



「悪くない。これならいい。」



「気に入ったようだな。」



「日本人の女を欲しがる奴は大勢いる。これだけ若いなら、商品価値も高い。」



「日本人のお嬢ちゃんは…そんなに金になるのか?」



「…長年かけて作った闇のシンジケートがあるからな。」
「日本人の女は、一番の高値がつく金の卵。世界中の男どもが欲しがる。」



「噂には聞いているが…世界には下種な野郎が大勢いるんだな。」



「金で、欲しい物を買うだけのこと。ペット買うのと同じ。」



「…ハッ!酷ぇ話だな。このお嬢ちゃんも…どんな変態野郎に売られるんだか!」



「このムスメはオークションにかける。かなり高額になるだろう。決して傷をつけないように。」



「あぁ分ってるぜ。気に入ったんなら値段交渉は上としてくれ。」
「正式に取引が成立したら、そっちに運ぶ手配をする。」



「わかった。では話して来る。」







少し離れた所で会話を聞いていた男が…

「こっちだ。案内するぜ。」

そう言って、どうやら中国人らしき男達を
何処かに案内して行ったようだ。









残された男は…ドアが閉まり、足音が遠ざかった後に…


「お嬢ちゃん…あんた、闇のオークション品になるみたいだぜ?」

「攫って来たのはオレ達だけどさ…流石にちょっと可哀そうだよな。」
「まぁ、こんな地域に旅行で来たのが悪かったと思って諦めてくれ。」
「せめて…落札相手がド変態野郎でないコトを祈っててやるぜ。」


と呟き…暫くした後に部屋を出て行ったみたいだ。








(…………。)

今の会話から推測すると…

何処かの組織に攫われた私は
更に他の組織=中国人の組織、に売られるようだ。
そして、その中国人組織は
闇のオークションを開催する能力がある組織のようだ。

使う言語が広東語であった所や会話内容から推測すると
恐らくは香港マフィアの中の一派だろう。




香港マフィアの中には
世界中で人身売買をする闇ルートを持っている組織があると
以前に聞いた事がある。
今回のあの男達は、もしかしたらその組織の者かもしれない。

そして、臓器などの人体の一部であれ
人間1人丸ごとの売買であれ…どちらの場合も日本人は高値が付くらしい。
それだけ欲しがる人間が多いのだと聞いた記憶がある。








私はイタリアに来ていたのに…
まさかこんな所で香港マフィアと関わる事になるなんて。

驚くと共に…私を攫った連中が誰なのか気になる。

相手が香港マフィアなのだから
同じマフィアである何処かの組織に攫われた線が濃厚だろう。

…一番怪しいのは…ポルポ・ファミリーだろうか?








まだ意識がハッキリしない中…ぼんやりとそんな事を考える。

こんな状況なのに…自分でも驚く程に、とても冷静だ。


ジタバタしても仕方がないと分っているし
(そもそも、まだ身体は動かないし、目を開く事すら出来ない)
何より…攫われる直前に
偶然…恭弥さんと約束した内容が…私を支えてくれていた。




あの時の言葉を思い出し…頭の中で繰り返す。



『万が一、何か…君に危険が及ぶような事があっても、僕が必ず助けに行く。』
『絶対に…自分の命を粗末にしないと誓って欲しい。』
『どんな事をしても…生き延びると誓って欲しい。』




ボンヤリした頭だけど
音声付きでハッキリと思い出す事が出来る。
恭弥さんは、きっと…いえ、必ず助けに来てくれる。

だけど…もしかしたら、時間がかかるかもしれない。
助けられるまでの間に…酷い事をされる可能性だって…ある。


でも、私は諦めずに恭弥さんを信じて待つ。

決して…自ら命を絶ったりしない。

どんな目に合おうとも…決して希望を捨てない。


そう心の中で…改めて誓った。







そこまで考えた所で…
先程から何度か襲って来ていた睡魔が再び強く襲ってくる。
余程強い麻酔剤を吸引させられたようだ。

まだ、本当の意味で覚醒できる時間では無かったのだろう。



…ダメだ…意識が遠のいていく…



折角、一度浮上した意識が
暗闇に吸い込まれるように…



再び…ゆっくりと、眠りに落ちた。



(…………。)














+++++++++++++++++++++++



★お知らせ★

この後にお読み頂ける小話を
「虹の彼方」過去拍手の部屋にUPしています。

宜しければ、そちらもお読み下さい。













[*前へ][次へ#]

29/48ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!