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虹の彼方 121





悶々とやり場のない気持ちを抱えて
ホテルの部屋で過ごしていた時…哲から連絡が入った。



「…恭さん!3人の女性に今回の事を依頼した男が判明しました!」
「ポルポ・ファミリーの幹部の1人が可愛がっている子分の1人でしたっ!」



「…っ!…。分った。…僕は今からポルポに奇襲をかける。」



「あっ…お待ち下さい!」
「パオロの身辺を探る関係で…ポルポの本拠地である建物を部下に常に見張らせていたのですが…」
「今日の昼前から、その者達と全く連絡が取れなくなっているんです。」



「…優衣が攫われる少し前から…?」



「はい、そうです。今朝の定時連絡はあったのですが。」
「その後が…何度呼び掛けても応答がありません。」



「そう。…取り敢えず行ってみるよ。」



「分りました。…どうか気を付けて下さい。」









激しい怒りを胸に…大急ぎで…
ポルポ・ファミリーが本拠地にしている建物に
車を飛ばして駆け付けた。

…だが…誰一人ひとりいない。



今朝までは人が居たらしい…という痕跡は
良く見ればアチコチにあった。
生活の道具が残されている所を見ると、恐らくはまた戻って来るのだろう。

ファミリー総出で何かするつもりなのか…
だが、戻って来るのを待っている訳にはいかない。




ポルポが関わっている事が確かである事までは解ったが…
相変わらず…
優衣の行方が分からない事に苛立ちが募る。


車の行方を追い、南に下った者達からは
まだ『車発見』の報告は来ていない。

それ所か…あの後、途中で何度も何度も
分かれ道がある為、探すのに苦労しているらしい。

スマホの位置情報も使えない今、探すのは至難の業だ。









そんな事を考えている所に…哲と数人の部下達が到着した。


「…恭さん…、これは…」



「見ての通り…誰ひとり居ない。ポルポ総出で何かするつもりらしいね。」



「………。」



「連絡の取れなくなっている者達なら、ソコに転がされていたよ。」





建物から少し離れた所に
恐らく後ろから殴られて気を失ったのであろう部下が二人いる事を教える。
さっき確認をしたら…
頭部から出血はしているが命に別状はないようだ。

部下の1人が、持っていた救急セットで素早く仮の手当てをし
…車に乗せたのを確認し
それぞれの車で出発しようとした所で
…哲に電話が入る。







内容を聞いた哲が…ハッとして僕を見る。

何か…情報が入ったらしい。



電話を急いで切った哲が、少し慌てたように話をする。



「優衣さんの持っていたスマホから…」
「イタリア語の会話が録音されているデータを回収出来たそうです!」
「録音開始時刻は…丁度、優衣さんが誘拐された時刻だそうです!」



(…っ!…)



「ですが雑音が多いので…今、音声のみクリアになる処理を進めている最中だそうです。」
「ただ…分析班の者はイタリア語が苦手な者が多い上に」
「ひどい南部なまりのイタリア語なので…」
「何を話しているか、今の時点では分らない…との事でした。」



「…僕が行くよ。何処で分析をしているの。」



「分りました。…車でご案内します!」









哲が早口で、今から僕達が行く事を伝え…
その後、急いで車に乗り込み
…僕の先導をするべく前を走る。

逸る心を必死に抑え部下の運転する車の後を追って
イタリアで風紀財団が拠点にしている建物のひとつに向った。




今回の任務の為に、特別仕様で作らせたスマホは
一見普通の電源スイッチに見える場所を
とあるパターンで数回押す事で
最大で4時間程度なら、外部の音の録音が出来るように作られている。

優衣は、出発前の1週間で
スマホの特殊機能をちゃんとマスターしていたらしい。




誘拐されそうになった時、
咄嗟の判断で録音操作をしたようだ。
それが…その時に取れる最大の行動であったのだろう。


英国でニックに攫われて以来…
イザという時のシュミレーションを何度も頭の中でしている…
と言っていたが、それが見事に功を奏した、と言えそうだ。








現地に着くと…
哲は、負傷している部下を出迎えた医療チームに預け
…急いで、僕を分析している部屋に案内をする。

ドアを開けるのも、もどかしく思いつつ
部屋の中に飛び込んだ。







早速、音声クリア処理が終わったばかりの会話を聞く。

ガサガサと大きな雑音がする中…
男の声で酷い南部なまりのイタリア語が聞こえる。

恐らく、優衣が必死の思いで…
鞄の中か服のポケットの中で録音スイッチを押したのだろう。


その場にいる全員で固唾をのんで
…会話に耳を傾ける。




『…どうだ?麻酔が効いたか?』


『あぁ…動かなくなったし…効いてるだろ。』


『おぃ、しっかり顔を確認しろよ!万が一、間違ってたら大変だからな!』


『日本人なんか滅多にいねーんだし、大丈夫だろ。』


『いや、やっぱり確認しろよ。』






『よし…写真だ…。…どうだ?』


『あぁ…このお嬢ちゃんで間違いねーみたいだぜ。』


『良し!じゃあ急いで車に運ぶぞ!』


『そうだな…あの男に気が付かれたら厄介だ。』


『…急げっ!証拠を残すなよ!』






その後…暫く移動しているらしい
激しい雑音がガサガサと聞こえ…

やがて車に乗り込むらしき音に続いて…





『よし!手と足を縛ったし…これで寝かせておけば大丈夫だな。』


『あぁ…これなら逃げられねーしな。』


『お嬢ちゃんの鞄は…隣に置いておくか〜。』


『よし、急いで出発しようぜっ!』








車が出発したようで
…更に周囲の雑音が大きくなる中…
何とかギリギリ聞こえる会話に必死に耳を傾ける。




『なぁ、オレ良く分らねーんだけど…どうしてこのお嬢ちゃんを誘拐するんだ?』
『誘拐するのは…“アイツ”の恋人の方じゃなかったのか?』


『それなんだけどな…なかなか“アイツ”がブツを探せねーから…』
【いい加減に探して来ねーと、本当にお前の恋人を誘拐して売り飛ばぞっ!】
【それが嫌なら早くブツを見つけて来い!】
『…って脅す為に、って事らしいぜ?』


『え?…それじゃあ…この日本人のお嬢ちゃんは無関係なのか?』


『あぁ、そうらしいぜ?』
『最近、アイツの親父さんと仲が良いってだけで…巻き込まれるなんて可哀相にな。』


『外国人の旅行者なら事件をうやむやにして…お蔵入りにし易いからじゃねーのか。』


『イタリア人を攫うと親や親族の中で“上に顔の効く”奴がいた時に面倒だもんな。』


『なるほど。旅行者なら…その点は安心だもんな。』







『…で、このお嬢ちゃんは…この後、どーすんだ?』


『さぁ〜それは聞いてねぇな。』


『ボスか幹部の情婦にでもされちまうのかな…』


『“アイツら”に売るのかもしれねーぜ?日本人の女は特別に高く売れるからな。』


『そうかもな…捉える時に“なるべく傷をつけるな”って言われたからな〜』


『あぁ、それで…このタイミングで日本人の女を誘拐したのか〜。』


『少しは自分の頭で考えろ!』


『いやぁ〜だって、上は秘密主義で詳しく説明してくれねーから。』
『自分が何やってんの分らなねぇ事多くてさ!』


『そうだよな〜オレ達下っ端には何も教えてくれねーもんな。』


『ボスも幹部も、結成当時からスゲー秘密主義だよな。』


『ボス達は…前のファミリーを裏切って…新しくファミリーを結成したんだからな〜慎重にもなるだろ。』


『だよな〜』







その後は…どうでも良い雑談が延々と続いているようだ。
今まで聞いた内容で、必要な会話はほぼ聞けたと判断して良いだろう。
だが念の為、分析班の者達に最後まで確認するように指示を出し
僕自身は、途中で聞くのを止めた。


僕と一緒に、必死に会話のある部分を聞いていた者の内
やや会話内容が理解出来たらしい者達全員が険しい顔をする。




会話内容を聞いた限りでは…
こちらの“正体”がバレて優衣を誘拐した訳ではなく
…パオロを脅す為に誘拐したらしい。

その点は良かったというべきだろう。
他に気になる内容もあるが…
取り敢えず、直ぐに殺されそうな雰囲気ではない事に安堵した。


僕や優衣が何者であるかも知らずに…
こんな大それた事をしでかしたポルポ・ファミリーには
鉄槌を下してやる必要があるな。




人生で最大の“後悔”を味わって貰おうか。




「…哲…、どんな手を使っても良い。」
「一刻も早く、優衣とポルポの居場所を突き止めて。」



「一切手段を選ばなくて良い、という事…ですね?」



「そうだよ。」



「分りました。イタリア及び欧州における全ての伝手を使い全力で捜索致します!」



「…頼んだよ。」











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