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虹の彼方 116




パーティから2日後…
いよいよアレックスの自宅を訪問する事になった。

日本で用意をして来たお土産を幾つか持って
時間ぴったりに到着するように向かう。



私達が到着するのを…
今か今かと待っていたらしい夫妻がとても嬉しそうに迎えてくれて
そのまま邸内を簡単に案内してくれた。

アレックスの自宅は両親から受け継いだ葡萄農園と
ワイナリーの隣の敷地にある。
広い農園では、とても立派な葡萄が育っていた。




そこそこの大きさのワイナリーで作られるワインは
数があまり多くないので
愛好家の間では「まぼろしのワイン」と言われ
…結構な人気であるらしい。


ワイナリーの運営を任せている工場長の
一番のお勧めワインを、皆で味わってみる。
とてもフルーティな香りと深い味わいの中に
キリリとした適度な辛さも感じられる。

とても丁寧に作られたのだろうな…
と思えるワインだった。






ふと見ると…
アレックスと恭弥さんは、ワイン談義に花が咲いていた。

アレックスは、この地方のワインにはどんな特徴があり
如何に美味しいかを熱烈に語っている。
それを受けた恭弥さんの返答も
相当なワイン通でないと知らないだろうなという内容。

う〜ん…流石、という感じだ。


私も夫人も、その会話に混ざりつつも
時々女同士の会話をして楽しく過ごした。








昼間からワインを飲んで
楽しい会話をして…アレックスは凄く機嫌が良い。

ドイツの時のように
情報の在処を探る会話は恭弥さんに任せて良いみたいだ。



となると…出来れば私は…
もう一人のターゲットであるパオロと会話をしたい。

でも、この場にパオロは顔を出さない。
今日はココには居ないのだろうか?

そう思って、さり気無く夫人に
『会いたいのですが』と尋ねて見る。






…すると…


「あの子は、今朝早くに出掛けました。」
「でも行先も言わずに行ってしまったので何時に帰るか分らないの。…ごめんなさいね。」




「そうですか…忙しいのですね。」




「…最近、特に…何も言わずに居なくなる事が多くて心配しているんです。」



夫人の言葉を聞き…先日見た…
パオロがポルポファミリーと接触している場面が頭を過る。
でも、それを言う訳には行かないので
…他の事を聞いて話題を繋げる。







「恋人とデート…ではないのですか?」




「それならそうと…以前ならちゃんと言っていたのです。」
「でも最近は、あまり彼女とも会っていないみたいです。」
「あの子が会いに来てくれないから、と…彼女が訪ねて来るまで知らなかった事ですが。」



パオロは恋人と会う時間がない程に忙しいのだろうか?
それとも…会えない事情があるのか。
ワザと会わないようにしている可能性もある。








「…それは、確かに…少し心配になりますね。」
「でも、仕事で忙しくしているだけかも知れませんよ?」



「…いいえ。仕事で忙しいかどうか…夫の会社の事ですから私達には解ります。」



「…確かに、そうですね。」



う〜ん…この後、どう言葉を繋ごうか?
と、少し考えていると…



…夫人がポツリと…

「何か…危険な事や事件に関わっていなければ…良いのですが。」

と小さく言う。









その言葉を聞いて…ドキリッとすると同時に…
心から心配そうにしている夫人が可哀相になった。

パオロのあの時の様子だけでは
ポルポファミリーとどんな繋がりがあるかは分らない。

あの後、草壁さん達が調べてくれているが
…相変わらず、詳しい事は解っていない。




ポルポファミリーは新興ファミリーなので
まだ人数も少なく、周囲への警戒心も非常に強い。

仲間内での結束がとても高くて、慎重で口の堅い者が多いようで…
簡単に情報漏れをするようなメンバーが居ない事や…
どうやらパオロと関わっているのは
その中でも選りすぐりの秘密を厳守する者ばかりの様なので
更に探るのに苦労をしているらしい。


それに一度…仕掛けた盗聴器を見破られてしまい…
それ以降、やたらと注意深くなったので
…かなり厄介なのだとか。




ただ…恐らく…
パオロは自分からポルポファミリーに近づいたのではなく
何かの理由があって、仕方なく関わっているのではないかという報告だった。


ポルポファミリーと接触する場面を数度
草壁さん達が目撃しているが…

その時のパオロは
如何にも仕方なく会っているという感じだったらしい。









だが、下手な事は言えないし
…どう声を掛けてあげれば良いだろうか。

そんな事を考えている時だった…



入口の方で物音がしたと思ったら
…ひょっこりと…パオロが顔を出した。

そして私達を見て…
少し嬉しそうに近くに来て挨拶をする。


「こんにちは。家に遊びに来てくれて有難うございます。」
「義父も義母も…貴方方が来て下さるのをとても楽しみにしていたので嬉しいです。」


私も恭弥さんも、パオロの言葉に挨拶を返した所で…



アレックスが…

「一緒に、軽くどうかね?」

とワインを示しながら言うと…




「…そうしたいのですが…今日は疲れているので部屋で休ませて貰います。」
「折角お二人が来て下さっているのに…すみません。…失礼します。」


そう言って、自室に行ってしまった。







表情も若干暗かったし、確かに疲れているようだった。
しかし…普通であれば例え少しの時間であっても
ワインの一杯ぐらいは、付き合いで飲むであろう場面だ。

それなのに、そそくさと自室に籠ってしまったのは…気になる。

アレックスも夫人も…
そんなパオロを…とても心配そうな顔で見送っていた。











その日は、結局…
夫人の自慢料理をご馳走になりつつ
ワインをたくさん飲んで結構遅い時間まで滞在した。

様々な雑談はしたけれど
肝心の情報に関わる内容が得られない。

あの恭弥さんの話術をもってしても
…何も聞き出せないなんて、初めての事だ。






草壁さんが迎えに来てくれた車の中で
…恭弥さんが口を開く。


「哲、…パオロ周辺の監視と調査をもっと強化して。」
「それから交友関係…特に恋人関連の事をもう一度詳しく調べて。」

「アレックスは、思った以上に慎重で口も堅い。」
「彼から情報を得るのはかなり大変そうだ。」
「一方、パオロは色々と気になる事が多いし、どうにもポルポとの関わりが…気になる。」




「…分りました。」
「ポルポに盗聴器を設置した事を見破られて以来、かなり警戒しているので難しいのですが…何とか、方法を考えてみます。」




「ポルポの内部に…金で買収出来るような者はいないの。」





「それが…探しているのですが…なかなか。」
「新興の弱小ファミリーで…大手に何時潰されるかも分らない規模にしては…結束だけは堅いんで。」

「何かの秘密を守る為に…色々と動いているらしいのは確かなのですが。」
「肝心のその内容が…全く漏れ聞こえて来ません。」





「そう。なら…時を待つしかないね。」
「どんなに強固に見える組織でも…何処かにきっと…“解れかけた糸”がある筈だ。」
「その切欠を見つけたら…解れるまで待つのではなく強制的に“糸を解けば”良い。」




「了解しました。引き続き、情報収集に全力を尽くします。」




「頼んだよ。」






恭弥さんは、このまま引き下がるつもりは毛頭ないらしい。
それ所か寧ろ…
若干嬉しそうな顔をしているようにも見える。

ドイツや英国の時には…見なかったような顔だ。




きっと、攻略の難しい相手に喜びを感じているのだろう。
大変な相手だったり…
乗り越えるのが難しそうな壁があったりする方が
…燃えるというかヤル気になるというか。


その方が“やりがい”を感じるのだろうと思う。

恭弥さんには…そんな所がある。













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あきゅろす。
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