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虹の彼方 115





ポロリ…と零れ落ちる涙を抑えられないまま
…俯き…
そのまま顔を上げられないでいたら…

私の頭に軽く優しくポンと、恭弥さんの手を置かれた。



(…!っ…)


ハッと驚くと共に…
その手の暖かさに少しだけホッとする。

すると、穏やかで優しい恭弥さんの声が耳に入る。



「…優衣…。…君を責めるような言い方をして…悪かった。」



「…………。」



「君を泣かるつもりではなかった。」



「…………。」



そう言われた後に、再び頭にポンポンと…
まるで宥めるように柔らかく触れて
…その手がそっと離れる。






「…今夜の僕は、少し可笑しいな。」
「冷静なつもりだったけれど…どうやらすっかり掻き乱されていたようだ。」
「…全く…忌々しい男だ。」




(…?…)


…男…?

誰の事だろうか?


今夜の事だとしたら
…もしかしてリボーンの事だろうか?









「…優衣、…顔を上げて。」



「…………。」



恐る恐る…少しだけ顔を上げる…
でも、恭弥さんの目は見られなくて視線を外した。

すると、恭弥さんの手がそっと私の頬に触れる。


そして…
頬に残っていた涙の後をそっと優しく拭ってくれた。

少しだけ身体がピクと反応する。





大人しくされるままになっていると
今度は両手で私の頬を軽く包むようにして
…そっと上を向かせられた。

仕方なく視線を合わせると…
そこには哀しさを感じる瞳をした恭弥さんが居た。

何時もはとても力強く感じる…
あの美しい灰蒼色の瞳が…沈んだ色に見える。



(…………。)






そのまま見詰めていたら…そっと顔が近づいて来て
目尻に残っていた涙に、そっとキスをされた。


(…っ!…)


驚いて、少しビクッとしたけれど…
恭弥さんは止めずに
両方の目の涙を自分の唇でそっと拭う。

どうして良いか分らずに固まったままの私の目を
一度覗き込まれたと思ったら…



(…っ!!…)


唇に柔らかく触れる物があり…とても驚いた。


少し…しょっぱい…な。

これって、私の涙の味…?





少し茫然とした頭で…
(どうして…キスをしたの…?)と考えるけれど
言葉にはならなかった。


そんな私を見た恭弥さんが
今度はそっと…壊れ物を扱うかのように優しく
…抱き締めて来た。

そして、そのままの格好で…耳元で囁かれる。



「悪かった、…少し焦りがあったようだ。」



「…………。」



「これだけはハッキリ言っておくよ。」
「さっきは、あんな事を言ったが…君の事を嫌っている訳ではない、不愉快にも思っていない。」
「もしそうなら…こんな風に一緒に過ごす事などないからね。」



「……っ……」



よかった…嫌われたのでは…ない、みたい…。


優しく言ってくれた恭弥さんの言葉を聞いて
安心して…少し身体の力が抜ける。

すると…今までより少しだけ強く抱き締められた。







肩を抱かれた事は何度もあるけれど
…こんな風にしっかりと抱き締められたのは…初めてだ。

…何だか…不思議な感覚だ。



恥ずかしい気持ちと、安堵の気持ちと…妙な安心感。

恥ずかしい中にも心地良いと…感じる。




「…優衣…、慌てなくて良い。僕は…ちゃんと待っているから。」





「…………。」


何に対して

“慌てなくて良い”のか…
“待っている”のか…

解らないけれど…

でも、何だかそれを聞いてすごく安心出来た。






その後、良く分らないまま暫くの間
恭弥さんに抱き締められたままだったけれど…
流石に段々と…恥ずかしさが増して来る。

少し身動ぎをすると…それに気が付いた恭弥さんが
ゆっくりと離れた。



そして…とても穏やかな顔で見つめて来た。

その顔を見て…ホッと安心する。


良かった…哀しそうな恭弥さんは…見たくない。

その原因を作ったのは私なんだろうけれど…
さっきは…
初めて見る沈んだ顔の恭弥さんに私の心までが曇る気がした。

やっぱり…恭弥さんには
何時も堂々としていて貰いたいし、笑顔でいて貰いたい。




「私は、…恭弥さんが哀しむような事は、したくありません。」
「でも、私が自分で気付けない事も多いと思います。」
「悪意なく色々な事をしてしまうかもしれません。…だから、何でも遠慮なく言って下さい。」



「分かった…なるべく、そうする。だが…物事にはTPOという物もある。」
「それらを考慮した上で…必要だと思う事は遠慮なく言う事にするよ。」



「…はい。宜しくお願いします。」






終始、穏やかに話してくれた恭弥さんに…
安心して、笑顔が出た。

…すると…


「僕も…君の哀しむ顔や泣き顔は見たくない。」
「そうやって…笑顔が出るとホッとするし、嬉しいよ。」



(……!……)



恭弥さんも、私と同じように思ってくれているんだ
…それはとても嬉しい。


…ん?あれ?

…良く良く考えたら…
先程からの流れって、
…まるで本当の恋人同士みたい…だよね。



そう自覚すると、急に恥ずかしさが大きくなり
…顔が赤らむのを感じた。

そんな私を見て…


「…優衣…、今頃、赤くなってるのかい?…反応が遅過ぎるよ。」


とからかうように言われ、更に顔が赤くなる。




意識しないようにしようと思うと
余計に意識してしまって赤くなるという悪循環。

それに…

嬉しいのか、恥ずかしいのか…
照れなのか、不満なのか…訳の分らない変な気持ちだ。
自分でも、どう表現をして良いのか…困る感情。






あぁ、なんだろう!
今日と言う日は…訳が分らない事が多い日だ。

リボーンの行動も、恭弥さんの言動も
…そして自分自身ですら、良く分らなくなる。


頭の中と。
心の中と。

その両方を…
ぐちゃぐちゃに掻きまわされたような日。





少しムキになって
…恭弥さんの素晴らしい所を熱弁してみたり…

そうかと思えば、嫌われているのかも…と
ポロリと涙してみたり。

普段の私とは思えない程の、喜怒哀楽の激しさだ。




もしかして…
これが所謂“恋する乙女”…という状態なのだろうか?

恋をすると…
こんなにも簡単に心を掻き乱されるのだろうか?


自分の感情のコントロールが出来ずに
ホンの少しの事にまで…
過剰反応してしまう自分自身に大きな戸惑いを覚える。





“恋は苦しいもの”と表現する人もいるけれど…
以前の私は
『好きな人がいる事が、どうして苦しい事になるの?』
と思っていたので、理解出来なかった。

好きな人が出来ると、きっと毎日がとても楽しいのだろう…
と漠然と考えていた。




けれど…先程までの私の状態は正に『苦しんでいる状態』だった。
恭弥さんの一言一句、一挙一動…その言動の全てが…
今まで以上に気になるし、私の感情を左右する。


なるほど。
これは、確かに…苦しいかもしれない。

自身の感情を自分で操れなくなって…
知らない間に気持ちが勝手に“暴走”してしまう。

自分なのに自分ではないような…妙な感覚だ。



初めて体験する“恋をした状態”は…未知なる体験の連続だった。








その後も、少し恭弥さんにからかわれ…ワタワタしつつも…
なんのかんのと最終的には…
恭弥さんの笑顔を見られた事に
喜びと安堵を感じて、幸せな気持ちだった。




その日の夜は…寝る直前まで…

その幸福感を抱えて…
そのまま…安らかな眠りにつく事が出来た。











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