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虹の彼方 114





尚も少し笑いつつ…
何とも嬉しそうな笑顔で恭弥さんが声を掛けて来た。



「…優衣…、今…自分が何を言ったか解っているかい?」



「…?…あの…恭弥さんが素晴らしい方だという話をした…つもりですが。」



「…やっぱり、自覚なしか。」



「…?…」



…何か特別な事を言っただろうか?

自分でも驚く程に、一気にしゃべったので…
何を言ったかハッキリ覚えていない。

でも、きっと…失礼な事を言った訳ではない、と思う。
だって…
目の前の恭弥さんが…凄く機嫌が良さそうだから。
滅多にない程に…上機嫌に見える。


普通に、思ったままの事を言っただけだったのに
…何か余程気に入ったフレーズでもあったのだろうか?








ご機嫌顔の恭弥さんを少し見上げて
色々と頭の中で考え込んでいると…

恭弥さんが…楽しそうに…


「自覚無しの所は、今は置いておいて…君の、そんな所こそが一番の長所だと思うよ。」



「…そんな所?」



「そう。優衣は…そうやって…」
「誰が相手でも直ぐにその良さ、素晴らしさ、長所を見つけてしまう。それはね…凄い事だ。」



「でも、私は…本当に思ったままを言っているだけです。」









「君にとってはそうなんだろうね。」
「だけどね…他人の長所が見えない可哀相な人間もいるんだ。」



「…?…。…見えない?」



「そう。自分の事で頭が一杯の者とか…」
「心の中に暗く冷たい物が巣食っていると…他人の良さが眼に入らなくなる。」



「自分に余裕がないと…他の人の良い部分に目が行かなくなる、という事ですか?」



「うん…まぁ、そんな感じだ。実際には、もっとドロドロした感じだけどね。」



「そんな状態になるのは…お気の毒ですね。」



「…君は、そう受け取るんだね。僕には自業自得に見えるけれどね。」




「確かに、そうかもしれませんが…」
「でも、きっと…そんな人でも何かの切欠で変われる筈だと思います。」
「一時的に、目が曇っているようになっているだけで…。」

「心に余裕が出来るような状況に変化させる事ができれば、きっと大丈夫だと…」
「そうなれるまでに…時間がかかるかもしれませんが。」











私の言葉を聞いた恭弥さんが
とても嬉しそうな上機嫌な顔で言葉を続ける。


「…優衣…僕は、君のそんな思考に…眩しさを感じるよ。」



「…眩しさ、ですか?」



「君の言葉に近い表現をすれば…憧れを感じる…と言い換えても良いな。」



「…えっ…憧れっ?」


思ってもいない単語が飛び出して、驚く。










「もっとストレートに言えば…君を気に入っている理由のひとつだ…という事になる。」



「……ぇ……」






ドキリッ!と大きく心臓が跳ねて
…その後に、身体が固まったように感じる。

今…なんて言われた?

自分の聞いた言葉が信じられなくて
頭の中でそのフレーズを反芻する。




…恭弥さんは、何が言いたいのだろうか。

ひとつの仮説が自分の中で生まれたけれど
『そんな筈はない』
『それはない』
と思いっ切り否定する自分がいる。





これは、どう捉えれば良いのだろうか。
ええと…ちょっと待って。

少し冷静に考えよう。


この場合『気に入っている』というのは…
要するに『恭弥さんの許容範囲内の人間である』という程度の事だろう。

…うん。
きっと、そう。

だって、ほら…
恭弥さんは他人と群れるのを嫌がる人だから…ね。


でも、私は…
『群れてやっても良い範囲内の人間』って事なんだろう。
だからこそ、こうやって一緒に
長期任務に連れて来たという事なんだろう。

うんうん。



もしも、それが違うというなら…


…まるで、恭弥さんが私の事を………


と、そこまで考えて…
『それはないないない!』
と大きく否定する自分がいて、他の自分もそれに賛同した。


そうそう…それが正しい思考よ、私!
今のは“話の流れ”で、こんな会話になっただけであって
…勝手に自分に都合良く解釈をしてはダメ。

冷静になるのよ!と心の中で自分に言い聞かせる。









悶々と頭の中で問答を繰り返していたら…


「…優衣…、僕の話を聴いているの。」


と少々怪訝な声がして、慌てて答える。





「…ぁ、あ、はい!聞いていますっ。」


急いで目の前の恭弥さんに視線を向ける…。










すると、その鋭い瞳が…
何かを探るようにじっと見ている事に気が付いてドキドキする。


「…ぁ、…あの…?」



「…優衣…もしかして…ワザとやってるのかい?」



「…え?…何を…ですか?」



「…そんな訳ないか。」



(…?…)



気のせいか…恭弥さんのご機嫌が
すこ〜し悪くなっている気がする…?

ついさっきまで、あんなに上機嫌だったのに
…どうしたのだろうか。








何か失礼な事を言っただろうか?
そう思って、少し慌てていると…


「…優衣、偶には…僕の言葉を素直に受け取りなよ。」



「何時も、そうしているつもりなのですが…出来ていないでしょうか?」



「…………。」



私の返答を聞いて…不満顔の恭弥さん…。

どうしてなのか見当が付かなくて困惑する。
そのまま暫く二人で視線を絡ませた。












少しして、恭弥さんが深い溜息をひとつ零し…


「全く…君は、思っていた以上に…頑固だね。」



「…頑固…ですか?」



「うん。かなりの頑固者だ。」



「…そんな風に言われたのは…初めてです。」



「だろうね。恐らく、君がここまで頑固なのは…僕に対してだけだろうからね。」



「…え?」




全く想定外の思ってもみなかった事を言われて
…少々混乱する。

今まで、恭弥さんに対して…
そんなに頑固な態度だっただろうか?
自分ではそんな自覚はない。


でも、恭弥さんはこんな嘘を言う人ではないし…。
う〜ん…?

自分の今までの行動を振り返って考えてみる。
私が考え込んでいると…










「優衣…僕に、ここまで言葉多く語らせるのは…君ぐらいのものだ。」
「普段の僕は、君に話す時のようには語らない。」



「…はい…、皆さんからも、恭弥さんは言葉少な目の方だと…そう聞いていました。」



「その僕が…どうして君相手だと、こうも語るのか…解るかい?」





「…いいえ…解りません。」



「優衣が…あまりに頑固で“認めない”からだよ。」



「…頑固で…認めない?」



「そう。別の言い方をすれば…現実を見ないからだ。」



「…私が…現実を、見ていない…?」



どんなケースの事を言われているのだろうか。
良く分らなくて頭が混乱する。












「君が“正しく認識出来るように”…これだけ言葉を重ねているのに…それでも頑固に認めない。」



「…………。」




凄くムッとした顔で言われて…申し訳ない気持ちがある一方で
そんな事をした自覚がないので困惑し…
返す言葉を見つけられないでいた。

でも、ココは取り敢えず謝らないといけない気がする。
だって、恭弥さんを不愉快にさせてしまっているのは…間違いない事だから。










「…あの…正直、そんな自覚はありませんでした。」
「無自覚とはいえ…大変ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。」




頭を下げ…謝罪の言葉を口にしたら
なんだか凄く哀しくなって来た。

大好きな恭弥さんをこんなにも不愉快にさせてしまった
…という事実が、哀しかった。






もしかして…私…微妙に嫌われているのだろうか…?

そんな事など、今まで一度も考えた事がなかったけれど
…好かれる以前に、嫌われる可能性だって…あるんだよね。

こんなに長期で一緒に居る事が出来るのだから…
『好かれる事がなかったとしても、嫌われる事もないだろう』
と勝手に思っていたのだけど…

そんな保障はどこにもないんだよね…







そう考えて俯いた所で…ポロリと涙が零れた。

…あ、気が付かない内に…泣いていた…みたい。



ポロリ…とまた涙が零れて床を濡らす。

どうしよう…止まらない。
人前でこんな風に泣く事なんて初めてだ。

それも、よりによって…恭弥さんの前で。





止めたいのに…
自分で自分の感情のコントロールが出来ない。

どうしてしまったのだろうか…私。





両親が亡くなった時や
祖父母や亡くなった時の哀しさとは違う…哀しさ。

ただただ…
胸がキュッと締め付けられたように苦しく感じてしまう。






表現の難しい…哀しさと辛さが混じった気持ちが…



私の心の中に拡がっていった…。












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