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虹の彼方 112




しばらく5人で様々な雑談をしていたのだが…

アレックス夫妻やパオロの知り合いが
ちょこちょこと話し掛けて来る度に
私達を紹介してくれて…ご挨拶をする…
という流れが出来てしまう程に、大勢の人達と挨拶を交わした。



きっと、先ほどのダンスで
あんなに目立ってしまったので、私達に興味を持った人が多くいて
こんな事になってしまったのだろう。

これでは肝心のアレックス夫妻とパオロとは
…あまり会話が出来ない。

それに…正直、今日のパーティには
あまり接触したくないマフィア関係の人物も多い。





けれど、アレックスに紹介されたら
相手の人と挨拶をしない訳には行かない。

こんな事になった以上、今日はもう帰った方が良さそうだ…
という事で、恭弥さんと目で会話をして
…適当な理由をつけて帰る事にした。



帰る為に挨拶をすると…別れを惜しむアレックスから
『今度、ぜひ自宅に遊びに来て下さい』とお誘いを受けた。

当然、快くお誘いを受けて“近い内に訪問します”と約束をして
パーティ会場である劇場を後にした。










ホテルの部屋に戻り…


「お疲れ様でした。…ドレスを着替えて来ますね。」


と、何時ものように
直ぐに着替える為に衣装室に行こうとしたら…

恭弥さんに声を掛けられた。



「…優衣。まだ着替えなくて良い。」



「…え?」



「そのドレスで…もう一曲踊って欲しい。」



僅かに微笑みながら、柔らかく言われる。








「…あの、…ココで踊るのですか?」



「そうだよ。君の…そんな姿はなかなか見られないからね。」
「…その姿の君と、もう一度踊りたい。」




恭弥さんの瞳が…穏やかな中にも
どこか熱を帯びたように見えるのは気のせい、だろうか。

それに…仕事で必要な訳ではないのに
…私と踊りたい、なんて…

一体、どうしたのだろうか。




今日の恭弥さんは…普段と違って不思議な行動が多い。
何時ものクールな雰囲気とも違う。

少しだけど…
…まるで…本当に恋人と過ごしているように感じる。

でも…そう感じるのは
きっと…私の願望の混ざった気持ちが、そうさせているのだろう。








恭弥さんが何を考えているのか、良く分らないけれど
一緒に踊るのは別に嫌ではないので
…明るく返事をする。



「はい…分かりました。でも、音楽は…どうしましょうか?」



「部屋のBGMの中に、確かダンス向きの音楽もあった筈だ。」



そう話ながらBGMを選ぶコントローラーを操作する恭弥さん。
選曲のために幾つかの音楽を流した後に…
ひとつの音楽を選んでそれを流す。

…これは…
スローなバラード曲でチークダンス向けの音楽だ。









選曲に戸惑っていると、私の傍に来た恭弥さんが
穏やかな表情で手を差し出して来た。

ほんの少しだけ逡巡したけれど…意を決して…
その手を取る。



恭弥さんは、私の右手と自分の左手を合わせ
次に…私の左手を、自分の肩にふわりと置かせる。

その後そっと
…自分の右手を私の腰に回して来た。






所謂、チークダンスの時の定番の組み方だけど…
この体制は男女がとても密着したまま踊る事になるので
正直、かなり恥ずかしいし照れる。



(……っ……。)



先程のダンスの後半も、かなり密着していたけれど…
今のは踊るというよりも“揺れている”に近い動きなので
…余計に体制が気になる。

まぁでも…
そんな踊り方のダンスだし、仕方ないだろうか。








それにしても…どうして
仕事が終わった後のプライベートタイムに
“私と踊りたい”なんて思ったのだろう?

そんな疑問を抱きつつも
静かな音楽に合わせてゆっくりと踊った。



初めて恭弥さんと踊るチークダンスは
…恥ずかしさの中にも少しの嬉しさも同時に感じる。

だって…まるで本当の恋人のように思えるから。


恭弥さんの考えは解らないけれど…
でも、少し幸せを感じる事にうっとりとする。











ちょっと踊り慣れたかなと思う頃に…
静かな声音で恭弥さんが話し掛けて来た。



「今日、初めてそのドレスを着た優衣を見た時に…」
「…正直、見惚れてしまったよ。」




「……え?」



み、見惚れた…?

…私に…?



確かに驚いた顔はしていたけれど…
そんな馬鹿な…

というか大袈裟に言ってくれているんだよね?
と…戸惑って返事が出来なかった。









すると…再度…



「本当に…良く似合っている。」



「…ありがとう…ございます。」



ここで“そんな事はありません”
と否定するのは卑屈過ぎると思い、素直にお礼を言う。










「少し背伸びをし過ぎたかと思っていたのですが…そう言って頂けて嬉しいです。」



「見た目には、全く問題ないよ。ちゃんと着熟せている。」



「…良かったです。安心しました。」



「欲を言うなら…もう少し堂々としていれば、もっと良かったかな。」



「…堂々と、ですか?」
「あの、それは例えばどんな風にすれば良かったのでしょうか…?」



“堂々とする”…のイメージが
あまり持てなくて尋ねてみた。…すると…









「優衣は、どうしても…あまり自分に自信が持てないようだからね。」
「その気持ちが、外見にも行動にも微妙に表れている。」
「敏感な者でないと気が付かないだろうけど…判る者には判る。」




「…………。」




そう言えば以前も…
『もう少し自信を持てば』と言われたのだった。
そしてアレックス夫人やディーノさんにも言われた事だ。

でも、そう言われても…どうすれば良いのか分からない。


というか、そんなに直ぐに
“自分に自信を持てるようになる”なんて…無理だ。

そんな場合は、どうすれば良いのだろう…?










う〜んと考え込んで無言になった私に…



「アレックス夫人に…僕が何でも出来る凄い人だと言ったのかい?」



「…はい…そんな話を少ししました。」



「…他には?」



「…………。」








どうしよう…あの時の会話の内容を
正直に全部、恭弥さんに言う訳には…いかない。

そう思っていると…



「そんな僕と一緒にいるから…“余計に自分に自信が持てない”というような話をしたんじゃないの。」
「それか、その事を夫人に指摘されたか…」




(…っ!…)





…うっ…さ、流石だ…

聞こえていた筈がないのに…どうして解かるのだろうか。


今日のダンスの後に、アレックス夫人が言った“ひとこと”で…
ここまでバレてしまったのだとしたら…凄い。




というか…勘が良すぎて怖い程だ。


まぁでも…これが恭弥さんクオリティ…だよね。









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★この後にお読み頂ける「過去拍手」があります。

宜しければ、そちらもお読み下さい。














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