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虹の彼方 111





先程も今も…リボーンのあの意味有り気な態度は
…何なのだろう!

もう、本当に…訳が分らない。



どうやら全てを解っているのは
恭弥さんとリボーンの二人だけのようだ。

この二人相手では…かなり分が悪い。

本人達に『説明するつもり』が無い限りは
意図や真意を聞き出すのは無理だろう。

こんな時には、一番都合が悪い組み合わせとも言える。
どちらか1人でも敵わないのに…
二人相手となると、聞き出すのは不可能に近い。



あぁもう…これは、考えても無駄だ。

気になるけれど、考えた所で
どうしてこんな事になってしまったのか
その正しい理由を知るのは…今は無理そうだ。








そこまで考えた所で、意識を仕事に戻す事にした。
一緒の曲でダンスを踊っていた筈のアレックス夫妻を探さなければ。

そう考えて、くるりと後ろを向いたら…
丁度、笑顔のアレックス夫妻が、私達の方に近寄って来る所だった。


恭弥さんも、その事に素早く気が付いて…
先程までの雰囲気とは少し違う“完璧なお仕事モード”に既に切り替えている。

…こんな所は、流石だ。
でも、これで…
逆に“さっきのダンスの時は少し違っていた”のがハッキリした。

内心で、そんな事をチラリと考えつつも
表面では、笑顔で“アレックス夫妻に今、気が付いた!“
という風に振舞って、にっこりとほほ笑みかけた。








近くまで来た所で、アレックスが…


「いやいや、実に見事な見応えのある素晴らしいダンスでした!」
「まるで、ダンスの世界競技大会のファイナルのように感じましたよ。」


と嬉しそうに言えば…
隣の婦人も…


「本当に!あんなに優雅で素敵なダンスは滅多に見られませんわ。」
「途中から…思わず自分達のダンスを止めてしまい…見惚れてしまいました。」


と同じく嬉しそうに言ってくれた。



恭弥さんが…


「過分な評価を有難うございます。」


とサラリと言うのを聞いて夫人が…


「貴方は本当に何でも出来る凄い方なのね。」
「彼女が言っていた通りの方のようですわね。」


と言うと、恭弥さんにしては珍しく一瞬『…え?』という顔をして
その後に私をチラリと見る。


その後…笑顔で夫人に…


「…日頃から、努力している成果がたまたま出ただけです。」


と柔らかく答える。






それを聞いて夫人は“ふふ…”と少し笑顔で応じた後に
“そうそう!”という顔をして後ろを振り返った。

そこには…
私達とアレックス夫妻が知り合いである事に
驚いた様子で立っているパオロが居た。






夫人はそっと、パオロを少し前に出るように促しつつ


「お二方に、息子をご紹介しますね。」
「正確には、まだ“甥”なのですが、もうすぐ私達の息子になってくれるんです。」


と嬉しそうに言えば…隣のアレックスも続けて…



「彼は、僕の…亡くなった弟の1人息子なのですが…」
「子供の居ない僕達の所に来てくれて跡を継いでくれる事になったのです。」






紹介されて、やや照れつつも挨拶をするパオロ。
私達もそれに答えてにこやかに挨拶をする。

…よし、今日の一番の目的はこれで達成出来た。

番狂わせがあったけれど何とか上手く行って良かった
…と内心でホッとしつつ応対をした。





パオロは、ごく普通の真面目で優しそうな青年に見えた。
先日のパーティで、こっそりと…
新興マフィアのポルポファミリーの者達と接触していたのを見たが
こうして会話してみると、ごく普通の好青年だ。

それが…
どうしてマフィアと関わるようになったのだろうか?

何処に接点があったのだろうか?と疑問に思う。







ダンスの後の会場内では、一旦ダンスはお休みして
休憩タイムという所なのでザワザワしている。

そのざわめきの中で
アレックスとパオロと私達の5人で、ちょっとした雑談をして過ごす。


アレックスは、パオロに
私達と初めてあったパーティでの事や
先日のオペラでの事などを説明しては、恭弥さんの事を盛んに褒めている。

…どうやらアレックスは、恭弥さんの事がかなり気に入ったらしい。




徹底的にアレックスの事を調べ上げた上で、
完璧にアレックス好みの会話になるように仕向けて会話をしているので
当然と言えば当然かもしれない。

けれど…ここまで完璧に出来るのは
やはり恭弥さんならでは…だろうと思う。








そんな事を考えつつ
適度に会話に混じっていたのだが…

会話内容が時事問題や経済の会話に移って来た所で
隣にいた夫人がそっと話し掛けて来た。



「…本当に先程のダンスは素晴らしかったわ。」
「まるで…お二人が1つになったように見えました。」



「…有難うございます。」
「でも私は彼のリードに付いて行くのに必死で…何とか踊れていた感じです。」



「…そうですか?」
「私には、貴女もダンスを楽しんで、彼と一体になろうとしているように見えましたよ。」



「…それは…後半は、確かにそんな感じでした。」
「あまりにリードが巧みなので…自然とそうなったというか。」



「…ふふ…。」
「貴女の婚約者は…貴女を巧みに操るのがお上手なようですね。」



「…そうですね…彼の意のままにされてしまう事が良くあります。」
「乗せられる私が単純なだけかもしれませんが…」



「それだけ貴女に関心を持ち、貴女の事を何時も良く見ているという事だと思いますよ。」



「…………。」



そんな風に言われると…ちょっと照れる。

アレックスとパオロと3人で
楽しげに会話をしている恭弥さんをチラリと見る。



恭弥さんが、私の事を…関心を持って見ている…?

でも、それは…
“こんな仕事”をしているから…だよね?

仕事の為…なんだよね…?

それとも…もしかしたら
少しは“私心”も入っているのだろうか?


もし、そうなら…どんなに嬉しいだろうか。







黙ってしまった私を見て、夫人が笑顔で話し掛けて来る。



「…相変わらず、あまりご自分に自信が持てないでいるみたいね?」



「…そうですね。」
「どうしても…彼と比べてしまって、少し卑屈になるというか…」



「比べる必要など…ないのですよ。」
「彼が愛しているのは、その身そのままの貴女なのだから。」
「誰かと比べて優れているから、貴女が好きな訳ではないと思いますよ。」
「それは…貴女だって、そうでしょう?」



「…はい…彼と他の人を比べた結果で好きになった訳では…ないですね。」





私の回答を聞いた夫人がにっこりとほほ笑む。


私が恭弥さんの事を好きなのは間違いない事なのだが…
恭弥さんの態度は本心ではなく“演技”なのだ。


その事が寂しく感じられて
少し曖昧な微妙な微笑みを返して…
二人で男性三人が盛り上がって会話している様子を…眺めた。
















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あきゅろす。
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