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虹の彼方 110




遅い時間にパーティ会場にやって来た
アレックス夫妻と甥のパオロは
入場した後に、3人で真っ直ぐに主催者夫妻がいる場所に向かって行く。


にこやかに挨拶を交わし
甥のパオロを紹介するような素振りをしているのが見える。





そのまま、さり気無く観察を続けていると…
挨拶の後は、会場の中でもあまり目立たない端の方に移動して行った。

が、アレックスは街の名士の1人であり、有名人でもあるので
気が付いた人達が近くに来ては次々に挨拶をしている。





暫くして…アレックスの所にわざわざ挨拶に来る人が
いなくなった所で、丁度ダンスの曲が流れ出した。

少しスローな、優雅な踊り方をするワルツの曲だ。



アレックスは、それを聞いて
夫人を誘いダンスの輪の中に入り踊り出した。

夫人を気遣っている事が分るような、丁寧で綺麗に見えるダンス。
アレックス夫妻らしく
…優しさが滲んでいるようなステキな踊り方だった。







微笑ましい気持ちで、その様子を見ていたら
…隣の恭弥さんが、手を差し伸べてきて



「…優衣…、僕達も踊ろうか。」



(…!…)



まだ、微妙な空気が少し流れているので
…誘って来るとは思わなかった。

けれど…恭弥さんは、先ほどのリボーンとの事など
何もなかったかのように…
何時もの演技である…恋人としての優しそうな笑顔だ。






断る理由もないし…そっと恭弥さんの手に自分の手を重ねて
ワルツを踊っている人達の輪に入る。

踊っている人達の間を縫うように
恭弥さんに手を引かれて、ゆっくり静かに進み…
中央付近まで来た所で、漸く立ち止まる。

内心で…
(こ、こんな真ん中…?)
と少し戸惑ったけれど…

優しく手を引かれ、合図をされたので…
そのままその場所で踊り出す。



(…!っ…)

ダンスを始めて、直ぐに…その動作の大きさに驚く。






とても優雅にリードをしてくれているのは何時も通りだけど
…その動きが、何時もより大き目だ。

まるで…ワザと人目につくようにしているような
目立つ踊り方になっている。



ダンスの競技会などで、その優雅さ、同線の美しさを
見せつけるように踊る事があるけれど…
今の踊り方は、正にそんな感じ。

この踊り方は…普通に踊るよりも、難しい…
動きが大きく目立つ分、小さいミスを誤魔化せない。


けれど…あまり慣れてない私を見事にカバーした
恭弥さんのリードのお陰で徐々に慣れて来る。






そして、その大きな動き&目立つダンスの為なのか
私達の直ぐ近くで踊っていた
数組のカップルが踊るのを止めて…

私達が踊り易いようにわざわざ空間を空けて
…私達のダンスの様子を眺め出した。


と、それを見た他のカップル数組も踊るのを止め…
と連鎖反応が起きて…ふと、気が付くと…
ダンスホールの中央で踊っているカップルの数が減ってしまっていた。








結果…私と恭弥さんは、かなり注目を集める事になる。



(……っ……。)



こんなに大勢の人にしっかり見られながら踊るなんて…!

さ、流石に…この状態は恥ずかしい…!




そう思って、恭弥さんの顔を見上げるけれど
僅かに微笑んでいるだけで…
止めようとか恥ずかしいとか…そんな事は全く思っていないようだった。

…いや、寧ろ…逆だろうか?

もしかして、ワザとこんな風になるように
仕向けたのだろうか…?






さっき、アレックス夫妻を見た時に
一旦は完璧に仕事モードに変わった筈なのに
今の恭弥さんは…どことなく少し違うように思う。

アレックス夫妻と接触する為だけに
こんな派手な事をしているのでは無い…と思う。



そんな事を思っていると…


(…!っ…)


今度は、流れている曲の短い合間を上手く使い
今までとは少し体制を変えて踊るように仕向けて来た。






…結果、先程よりは動きが小さくなった。

でも今度は、恭弥さんが私の身体を抱え込むようにしているので
かなり密着した体制だ。


そして…密着した二人の動きが
まるで1つの動きに見える…そんな踊り方。








優しい回転をつけるダンスなので、私の着ている真紅のドレスが
とても優雅で美しい同線をサラリと描く。

踊っている自分自身で言うものではないが
…今の場面は、映画の印象的なワンシーンのような
そんな感じだろうと思う。



映画の主人公が、愛しい恋人と
“まるで一体になったかのような”素敵で幸せなダンスをするような場面…
という感じだろうか。


今の踊り方は…
英国で私達のダンスが注目を集めた時よりももっと…
ドラマティックで、ある意味…芝居がかっている。







恭弥さん流の“魅せる”ダンスと巧みなリードに
…私自身の意識も持って行かれそうになる。

まるで…恭弥さんと私の意識までもが
一体化して行くような錯覚を覚える程だ。



こんな風に情愛溢れるように見えるダンスは
…イタリア人受けも良いだろうな…と
僅かに残っている冷静な頭で考えつつ
周囲で見ている人達をチラチラと観察する。

どうやら先程の大きな動きのダンスの時より
更に会場の注目を集めている。



中には、溜息を吐きつつ
うっとりと眺めているご婦人達もいるようだ。

周囲の人達の…そんな反応を目の端に認めつつ…
半分、夢の中にいるような感覚で夢中でダンスをした。








程なく…ゆっくりと…
まるで私達のダンスに合わせるようにして曲が終わる。

最後に恭弥さんは、しっかりと私を抱き留めた格好で
ごく至近距離で視線を合わせて来て…
そのままの姿勢で静かに止まる。


眼と鼻の先程の至近距離で
恭弥さんの、どこか情熱と艶っぽさを感じる視線に…
やんわりと絡め取られた私は…言葉が出ないまま。



「…………。」


「…………。」



まるで夢の中に囚われたかのように錯覚したようになり…
静止したまま、二人で無言で見つめ合っていると
何処からともなく拍手が聞こえ
あっと言う間に会場中を沸かすような大拍手に包まれた。



(…!!…)


ハッとして…周囲を見る。








すると私達が踊る為に
空間を空けてくれた方々だけでなく、会場内の多くの方が
私達に向けて、大きな拍手をしてくれていた。



「……っ……。」


…な、なんという…目立ち方だろうかっ!


これでは、先ほどのリボーンのほうが
まだ何十倍もマシだ。

これ以上の目立ち方はないだろうという程に
全会場の注目を集めてしまったっ!








戸惑いを隠せずに恭弥さんを見上げるけれど
…とても涼しい顔。

…間違いない…これは、完璧に確信犯の顔だ。

でも、どうしてこんな事を…?



恥ずかしいのと、どうして良いか解らない事で…
赤い顔になったまま拍手をしてくれた皆さんに
軽く西洋式のおじぎをして答える。






向きを変えて挨拶をする途中…
とても驚いた顔のツナ達や、ディーノさん達の顔が見えた。

獄寺さんの顔は特に凄くて…
顔に『信じられねぇ!』と書いているかのような顔だった。

ツナもディーノさんも…呆気に取られているという感じ。
どう反応して良いか困っているようにも見える。



…そうよね…驚いて当然よね…



“あの雲雀恭弥”が…
こんなに大勢の人がいるパーティに女連れで参加して
(残念なことに、相手は私だけどね)

それだけでもレアな光景なのに…

ナント!会場中の注目を集めるような…
まるで…自分にワザと注目を集めるかのように
目立つ派手な踊り方のダンスを披露したのだ。





皆が知っている“雲雀恭弥”のキャラとは違い過ぎる行動

しかも完璧な恋人の演技中なので…
私に対して、とても優しく且つ情熱を感じる眼差しを送り
リードの仕方も愛情溢れて見えるダンスだった。

…こんなのを見て、驚かない筈がない。



見た事も…恐らくは想像した事もない行動と…
凄く上手で優雅なダンスのリードと…
…両方に驚いているのだと思う。




ただ1人…リボーンだけは…

ニヤリと意味深な笑顔で私達を見ていた。













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