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虹の彼方 103




そして…同時に感じるのが…
先程も感じた事だけれど、アレックス夫妻の仲睦まじさ、だ。

会話をしつつ、お互いに時に顔を見合わせ…
ニコリと微笑み、心から嬉しそうにする。

周囲にまで『幸せオーラ』が漏れている感じ
…と言えば解り易いだろうか。



まるで新婚ほやほやの時期のカップルのようでもある。
傍にいるだけで、
こちらまで幸せになれるような気がする程だ。

長年、一緒に連れ添って来ていて…
今尚、この雰囲気なのは本当に素晴らしいと思う。










男性二人が、かなり濃い内容のオペラ談義で盛り上がり出した所で
…少し離れた所で
隣に居るアレックス夫人に…ごく自然に…自分から話し掛けた。



「…とても素敵なご夫君ですね。」
「それに、ご一緒に居て…お二人の仲の良さが眩しい程です。」



「…有難う。自慢の夫を褒めて頂けて、嬉しいわ。」



如何にも嬉しそうに
にっこりとほほ笑みつつ答えた夫人が言葉を続ける。




「貴女のパートナーも、とても素敵な人ですね。」
「まだ出逢って間もないですが…でも、それでも十分に解る程に魅力溢れる方に見えます。」
「私達には、数人の日本人の友人がおりますが…彼の素晴らしさは群を抜いているように見えますわ。」
「いえ待って…日本人の中で、というのは失礼な言い方ですね。」
「…そうではなくて…。男性として…とても素敵な方だと解りますわ。」





やっぱり…国が違っても恭弥さんの凄さは伝わるのね。
というか、恭弥さん自身が完璧に
“国際レベル・全地球レベル”の凄い人なんだと思う。





「そうですね確かに…彼は万国共通の何処の国に行っても通じるような凄い人です。」
「何をしても完璧で、出来ない事なんてなくて…。」
「あまりに素晴らし過ぎて…つい感嘆の溜息が出る程です。」


優しいアレックス夫人の雰囲気のせいか
…つい、本音がポロリと出た。








すると…



「お二人は…婚約者、でしたわよね?」



「…はい。」



「ねぇ、もしかして…マリッジブルーなのかしら?」



「…え?」




少しボーとしつつ
アレックスと恭弥さんが会話している所を眺めつつ
お隣の婦人と会話している感じだったのだが
…今の言葉に反応して、まじまじと夫人の方を見る。

…と…


「いえ、あの…違っていたら、ごめんなさいね。」
「何だか…貴女が彼との結婚に迷っているように見えたの。」




「…………。」



迷っている訳ではない。
…だって、本当の婚約者ではないのだから。

『只の演技上の恋人で婚約者役』なのだから
…極端な話…演技出来るなら誰でも良い訳だしね。

ただ…大根役者であるとは言え、一応の演技は出来ているのだから
私が隣に居ても、何の問題もない筈なのに…
なのに…最近、時々…一緒にいると胸がキュンと苦しくなる。

時にはチクチクと心に痛みを感じたりもする。
…あれは…何なのだろうか…。




夫人の言葉に『そうです』とも『違います』とも
…何とも答えられずに困惑してしまった。

心の中では
『今は仕事中なのよ!何をやっているの私!』
『ここはしっかり演技しないとダメな場面でしょう!』
と思うのだけれど
…今夜は、どういう訳か…演技に入れなかった。










無言になった私をみて夫人は…


「貴女のお気持ちも、解らなくはないわ…」

と話出す。

そのまま、黙って聞いていると…




「私は、夫の事が大好きで心から愛しているけれど」
「もし、貴女のパートナーに若い頃に出逢っていたら…グラリと心が動いたかもしれないわね。」

にっこりと、少しお茶目な言い方で話す夫人。



「今まで、夫以外の殿方に心が動いた事など一度もない私でも…そう思える程に」
「貴女のパートナーの彼は、本当に素晴らしい方だと思うわ。」




「…………。」




「…だから…貴女が自分に自信を無くしてしまいそうになるお気持ちも…解るわ。」



「…自信?」



「ええ、そうよ。」
「私の目には…貴女が、素晴らし過ぎるパートナーの隣に居る自信を失っているように見えるの。」



「…はい…それは有ります。」



嘘ではない。
寧ろ…ドンぴしゃりな言葉だ。


こんな私が隣に居る事が申し訳ない…という気持ちは
以前からあった事だけれど

でも、長く恭弥さんと一緒に居て
その凄さが以前よりもっとハッキリ分るようになって来た最近では
その想いが強く出て来るようになった。








私の、どこか沈んだ答えを聞いた夫人は…
にっこりしつつ…


「貴女は…とても謙虚な方のようですわね。」



「…………。」



「ご自分では、ご自覚がないようですので…少し言わせて下さいね?」










そう一度断って、言葉を切った後に…再度…

「私から見て…いえ、私達から見て…」
「…貴女も彼と同様に、とても素晴らしい方に見えます。」
「とてもチャーミングで可愛らしくって。」
「…それに貴女はとても柔らかくて、安心出来る雰囲気を持っていますわ。」



「…安心出来る雰囲気、ですか?」



「ええ。恐らく…貴女自身は気が付いておられないのでしょうね…」
「貴女と一緒にいると…とても和むというか癒されるというか…心が落ち着くような気がします。」
「見た目も素敵なお嬢様ですけれど…」
「それに加えて…貴女の持つその雰囲気が、人を惹きつけて魅了しているのですよ。」




「……惹きつけて魅了?」





アレックス夫人の言葉を…素直に聞くには正直抵抗があった。
いくら何でも…今の言葉は褒め過ぎだろう。

そう思っていた私の心が通じたのだろうか
…夫人が、ほんの少しだけ苦笑いしつつ…




「やっぱり…まるでご自覚がないのね。」
「私も夫も…貴女に初めてあった日以来…貴女のファンなのですよ。」
「いえ、正確には貴方方お二人のファンです。」



“それは、こちらの台詞です”
と心の中で思わず呟く。

いや、恭弥さんに対してそう思うのは解るけれど
…私は…単に着物で目立っていただけだし。



「…それは…あの日は、日本の伝統衣装である着物でしたし…」
「この街では、日本人は珍しいようですし…。」



そうボソボソと告げると
ちょっとだけ溜息を吐いて…



「勿論、服装でも目立っておりましたけれど…そうではないのです。」
「…なんて言えば良いかしら…。」








夫人は、一度言葉を切り『ええと?』と考えて…
やがて笑顔で…



「貴女が、ご自分の内側に持っている物が滲み出ている…と言えば良いかしら。」
「私達の目には…貴女のパートナーの彼も、そんな貴女をとても大事にしているように見えました。」
「…まるで…壊れ物を守るかのように。宝物を扱うように。」



「…え…?」



「彼が…貴女の事をとても大切にして慈しんでいるのが…とても伝わって来ましたよ。」



「…そんな、こと…」



「でも、貴女はそれに気が付いておられないのね。」















一度、小さく溜息を吐いた後に…


「私達夫婦は…人を見る目はあるつもりなんですが…信じられない?」



「…いえ、そんな事は…」




アレックス夫妻が、この街でマフィア絡みの仕事をしないで済んでいるのは…
恐らく…
『ある程度勘も良く・人を見る目があるから』
でもあると思うので…全く信じられない訳ではない。

寧ろ…どちらかというと信じられると思うけれど
でも…今の内容は、流石にちょっと…

そう思って言葉を濁した私を見て…夫人がふふふと少し笑う。



(…?…)



「ねぇ…もしかして…貴女はまだ、彼に恋をしている最中なのかしら?」



「…えっ?…恋、ですか?」



思い掛けない言葉に驚いて尋ねる。



「ええ、恋。今ね、ふと…思ったの。」
「貴女の態度はまるで…恋に落ちて不安定な精神のお嬢さんのそれに…とても似ているから。」
「婚約までしている方に…失礼だったら、ごめんなさいね。」
「…でも、貴女を見ていると…」
「マリッジブルーというよりは、“恋煩い”の方が近い気がして。」





「…………。」




…こ、恋煩い…?



…え…?
そんな風に見えるの…?


夫人の言葉に戸惑いを隠せない。












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